今日からランナー

同じペースで走ってもタイムは大違い マラソンで注意すべき心拍数の話

  • 文・山口一臣
  • 2018年12月7日

axstokes / Getty Images

マラソン界にとってまたうれしいニュースがあった。12月2日に行われた福岡国際マラソンでの服部勇馬選手の優勝だ。日本人選手としては実に14年ぶり、記録は2時間7分27秒だった。素晴らしい! 東京マラソンでの設楽悠太選手、ボストンマラソンでの川内優輝選手、シカゴマラソンでの大迫傑選手の活躍に続く快挙である。2020年東京オリンピックに向けて、日本のマラソンスターのツブがそろってきた感じだ。楽しみだなぁ〜。

さて、そんな期待度満点のトップアスリートたちの話はさておき、いつものポンコツおやじランナーの参戦記である。今年の秋シーズンは二つのフルマラソンを走ってきた。10月28日の「しまだ大井川マラソンinリバティ」(静岡県)と11月25日の「つくばマラソン」(茨城県)だ。ここで実に面白いことがわかった。今回はその話を報告する。

約1カ月あけてのレースだったが、当然、両方ともサブ4(フルマラソン4時間切り)を絶対的な目標にしていた。なぜなら、私は2013年東京マラソンでの初サブ4以来、年に1回はどこかで「4時間切り」をしたいと思っているからだ。昨年まではなんとか記録をつないできた。ところが今年は4月のロンドンマラソンで想定外の“撃沈”を喫したため、まだ一度もサブ4達成ができていなかった。どちらかの大会でできなければ記録が途切れる。まさに背水の陣だったのだ。

結論を先に書くと、しまだ大井川は24km付近で脚がけいれんを始め、心も折れて大失速、4時間25分23秒でのフィニッシュとなる。身も心もボロボロでのゴールだった。正直、この時点で2018年のサブ4は半分以上、諦めかけていた。そこから約1カ月で復活できるとは思わなかったからだ。しかしランナー仲間に叱咤(しった)激励されたこともあり、気を取り直して走ったつくばで3時間57分35秒とアッサリ4時間切りができたのだ。この二つのレースの違いはいったい何だったのか?

危険なペースで走っていたわけでないのに潰れた

arismart / Getty Images

両大会ともコースはきわめて平坦(へいたん)でタイムが出やすいといわれている。しまだ大井川は文字通り大井川の河川敷を延々と走る。つくばは筑波大学のグラウンドを出発して学園都市内をグルッと回る。練習もそれなりに積んでいた。9月は166km、10月はレース前週までで206kmは走っている(しまだ大井川とつくばの間の1カ月は125km)。過去の経験からすると、まあまあ合格の練習量といえる。ウェートコントロールもうまくいった。では、レースマネジメントで失敗したのか?

正直、両レースとも前半で突っ込みすぎ(オーバーペース)のきらいはあった。フルマラソン4時間切りのペースは1kmあたり5分40秒だ。安全にサブ4をするにはこのペースを守って走り切るのがセオリーだ。ところが、それより10秒速い5分30秒±数秒の範囲でペースを刻み始めていた。ただ、キロ5分30秒は私にとって潰れるほど危険なオーバーペースではない。過去にはこれより速いスピードで何度も42.195kmを走り切っている。事実、翌月のつくばでは同じようなペースでスタートしながらフィニッシュまでたどり着いている。では、何が違ったのか。

秘密を解くカギは心拍数にあった。しまだ大井川マラソンではスタートからフィニッシュまでの平均心拍数が1分あたり158回だったのに対して、つくばマラソンのそれは141だった。別掲のグラフは1kmごとの平均ペースと心拍数を表したものだ。その違いが一目瞭然でわかるだろう。同じキロ5分30秒前後のペースで走っていながら、しまだ大井川では2km以降、心拍数がずっと160を超えている(170オーバーもある)。対するつくばは、23km〜26kmの間を除いて150以内に収まっていた。なるほど、そういうことだったのか。

スタート直後から心拍数が上がり、24km過ぎで大失速してしまった

タイムに余裕があったので25km過ぎからペースを落として安全を期した

実は、今年の夏ごろから心拍計付きのランニングウォッチ(EPSON Wristable J-300)を導入していた。実際に計測しながらフルマラソンを走ったのは今回が初めてだった。心拍数は自分の体感だけではわからないカラダへの負荷や疲労度合いを可視化できる指標で、運動強度の目安にもなっている。この二つのレースでの測定結果は私にとって非常に興味深いものになった。

「ペース=運動強度」ではない!

一般に、負荷の大きなキツイ運動をすると心拍数は上昇する。同じペースで走ってもカラダの負担や疲労の度合いが大きいと心拍数も上がる。逆に、トレーニングによって心肺機能を向上させると心拍数は少なくなる。トップアスリートは私たちよりずっと少ない心拍数で走ることができる。運動強度は、その人にとって耐えられる限界の心拍数(最大心拍数)をもとに計算され、5つの心拍ゾーンに分類される。計算式は省略するが、57歳の私の場合は心拍ゾーン、心拍数、運動強度(%)の関係は次のとおりだ(心拍数には個人差がある)。

・最大強度(非常にキツイ) 152〜163  (90%〜100%)
・無酸素運動(キツイ)   142〜151  (80%〜90%)
・有酸素運動(ややキツイ) 132〜141  (70%〜80%)
・脂肪燃焼運動(ラク)   101〜131  (40%〜70%)
・ウォーミングアップ    100以下   (40%以下)

二つのレースの心拍ゾーンの分布を比較した。左の目盛りは走破距離の合計数だ。しまだ大井川では「非常にキツイ」心拍ゾーンで走り続けたことがわかる

つまり、しまだ大井川マラソンでは前半からずっと「最大強度」で走っていたことになる。ただ、レース中はそれほどキツさを感じていない。中間地点で約1時間56分と4分ほど“貯金”ができていたため、このままいけば余裕でサブ4できると思ったほどだ。しかし、カラダへの負担が尋常ではなかったのだ。心拍数160超がそれを証明している。実際、1カ月後のつくばマラソンでは、しまだ大井川のときとほぼ同じペースなのに、体感的にかな〜りラクに走れていた(なので、30kmを超えた時点で確実にイケると思った)。心拍数をチェックすることで二つのレースの違いがハッキリわかったわけである。

心拍数の違いが生まれたいちばん大きな原因は気温だと思っている。しまだ大井川の当日の気温は21度、つくばは15度で6度の差がある。しかも、しまだ大井川の当日は快晴で河川敷コースのために日陰がなく、体感温度はさらに高かったはずだ。過去にタイムを狙いにいってサブ4できなかったマラソンはたいてい気温20度を超えている。気温が高いと心肺への負担が大きくなるのではないかという話はロンドンマラソンのリポートでも書いているが、当時は心拍計を持っていなかったので仮説の域を出なかった。その仮説が今回、証明されたかっこうだ。

ここから導き出される結論は、現状の私の運動能力では気温20度以下でないとサブ4を達成できないということだ(苦笑)。そうなると選択肢は、20度を超えてもパフォーマンスが落ちないよう心肺機能を鍛えるか、寒い季節のレースを選んで出るかということになる。年齢を考えると、やはり後者が無難だろうか……。

いずれにせよ、走る速度と心拍数、気温の関係にはまだまだ研究の余地がありそうだ。心拍計も使い始めたばかりなので、今後、さらにデータと知見が蓄積して面白いことがわかったらあらためて報告したいと思う。

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PROFILE

山口一臣(やまぐち・かずおみ)

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1961年東京生まれ。ゴルフダイジェスト社を経て89年に朝日新聞社入社。週刊誌歴3誌27年。2005年11月から11年3月まで『週刊朝日』編集長。この間、テレビやラジオのコメンテーターなども務める。16年11月30日に朝日新聞社を退社。株式会社POWER NEWSを設立し、代表取締役。2010年のJALホノルルマラソン以来、フルマラソン20回完走! 自己ベストは3時間41分19秒(ネット)。

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