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注目のトラックメーカーSTUTS「常に自然体でいたい」

  • 文・宮崎敬太 撮影・江森康之
  • 2018年12月19日

  

トラックメーカーSTUTS(スタッツ)にとって2018年は大きな飛躍の年となった。きっかけは星野源だ。STUTSは、星野のシングル「ドラえもん」の収録曲「The Shower」、そしてNHK連続テレビ小説「半分、青い。」の主題歌「アイデア」にMPCプレーヤーとして参加した。「MPC」とはAKAI社のリズムマシン、シーケンサー(デジタル楽器の演奏データの記録、再生などを行う装置)、サンプラーなど、音楽制作に使用する様々な機能をもった機材のこと。リズミカルな音楽制作に向いているため、ヒップホップのバッキングトラック制作によく使用され、近年は楽器として使用するミュージシャンも増えた。

【動画】星野源「アイデア」

「星野さんは16年に発表した僕の1stアルバム『Pushin'』を気に入ってくださって、ラジオ(『星野源のオールナイトニッポン』)でかけてくれたり、音楽誌『MUSICA』でその年の『年間ベストアルバム』の1枚に選んでくれて。当時僕はアーティスト・星野源のリスナーでしかなかったので、うれしかったのはもちろん、びっくりしました(笑)。その後少ししてから『The Shower』と『アイデア』のレコーディングに誘ってもらったんです。

制作に関しては僕自身かなり細かくこだわっているほうですが、星野さんも相当すごかったです。例えば僕が最初に作ったリズムのグルーブをさらに気持ち良くするために、ハイハット(シンバル)の鳴る位置を細かく前後にズラすみたいな作業を一緒にやりました。僕も自分の作品を作るときに同じような細かい調整をするので、星野さんのこだわりは苦になるどころかむしろ楽しかった。本当に細かい、繊細な作業ですが、そこにこだわることで気持ちの良い音ができるのだと改めて実感しました」

流暢に話せない分、他の部分で見返したい

STUTSは吃音(きつおん)症だ。たまに言葉に詰まってしまい、コミュニケーションが取りづらくなる。それでも星野源をはじめ、PUNPEEや長岡亮介(ペトロールズ)などさまざまなミュージシャンと積極的に共演してきた。他者とのやり取りのしづらさを創作におけるハードルと感じない理由はどこにあるのか。

「それは僕が人とコミュニケーションをとるのが好きだからだと思います。会話には新しい発見がある。落ち込んだときも友達や周りの人たちと話すと元気になれるし、誰かと一緒にやることで意外なアイデアが突然生まれたりもする。

確かに吃音症はコミュニケーションの障害になります。からかわれて嫌な気持ちになったこともあるけど、そこで自分の殻にこもってしまうのはもったいないと思う。吃音症を自覚し始めたのは小学4年生くらいからで、『話し方が変だね』って言われることはちょこちょこありましたが、周りの人に恵まれたおかげでいじめられたりはしませんでした。最初に『どもっちゃうんだ』って伝えれば、大抵の人はわかってくれました。ただ吃音に負けたくないという気持ちはずっとあって。なぜ自分だけがうまく話せないんだろうという悔しさというか。流暢(りゅうちょう)に話せない分、他の部分で周りを見返したい気持ちは昔から強いのかもしれません」

  

STUTS(スタッツ)

1989年生まれ。トラックメーカー、MPCプレーヤー。2013年、ニューヨーク・ハーレム地区の路上で行ったMPCライブがYouTubeで話題に。以降、ジャンルを問わず様々なアーティストのトラック制作、リミックスを手がける。16年4月に1stアルバム『Pushin’』を発表。現在は自身の作品制作やライブのほか、各種のプロデュース、コラボレーション、CM楽曲制作などを行う。

STUTSの名前が広く知られるようになったのは、YouTubeに2013年にアップロードした1本の動画からだった。ニューヨーク・ハーレムの路上で、素朴な日本人がMPCでインストゥルメンタルを奏でる。さまざまな人種の老若男女が足を止め、子供たちや老人が踊り出す。STUTSが音量を上げるとどこからか黒人が現れ、フリースタイルでラップを始める。やじ馬はどんどん増えていく。

【動画】STUTS performed with MPC1000 on 125th St, NY (Harlem)

STUTSは大学院を卒業後、一般企業に就職し、仕事と並行して音楽活動を続けていた。自分のビートを聴いてもらうために、深夜のクラブで積極的にライブもした。さらに、カッコいいと思ったラッパーには自分から声をかけ、自作の曲の入ったCDを手渡した。STUTSはとても謙虚で柔和な青年だが、行動的で大胆な一面も持ち合わせている。

「就職した会社はITメーカーで、研究開発の仕事をしていました。IT関係の仕事はとても好きでしたが、配属先は自分が元々やりたかった仕事が満足にできる場所ではなかったんです。それで転職しようかと悩んでいたのが、1stアルバムを出して自分の音楽をいろんな人に聴いてもらえるようになり始めたタイミングでもあり、転職活動などをしてくうちに、今は音楽を全力でやりたいんだなって自覚したんです。会社を辞めるという決断はとても悩みましたが、最終的にはどちらの道がワクワクするか、未来に希望が持てるかという所で決めました」

嫌なことともちゃんと向き合って納得したい

  

STUTSは今年9月に2ndアルバム『Eutopia(ユートピア)』をリリースした。この作品には鎮座DOPENESS、仙人掌、JJJ、 KID FRESINOといった、今もっとも勢いのあるラッパーたちとともに、シンガーの一十三十一やギタリストの仰木亮彦(在日ファンク)、ベーシストのnakayaan(ミツメ)といったミュージシャンたちも参加した。この『Eutopia』というタイトルにはどんな意味があるのだろうか?

「『ユートピア』には二つのつづりがあるんですよ。一つは『Utopia』。これは存在しない架空の理想の場所、という意味。もう一つのつづりが、今回のアルバムタイトルである『Eutopia』。これは存在しうる最高の場所という意味です。僕的には場所というより、状態というニュアンスが強い。簡単に言うと幸せでいたい、という気持ちが込められています。

実はこのアルバムを作りはじめたとき、僕自身ではコントロールできない問題が起きて、すごく落ち込んでいたんです。でも普通に生きてれば、誰にだって楽しいことも、嫌なことも起こりうる。僕が考える良い状態とは、ただハッピーで満たされているだけでなく、嫌なことにもちゃんと向き合って納得している状態のこと。簡単ではないかもしれないけど、僕は常に希望を持ってそんな『Eutopia』に向かっていきたい」

その理想の状態を追求するなかで、創作とはどう向き合っているのだろうか。

「音楽の制作は自分のその時の感情と向き合う時間でもあります。その感情を音に昇華していくイメージです。ただ機械的に作るというよりは、人間味みたいなものを音に乗せたいという気持ちが強いかもしれません。その上で常にもっと良いもの、ワクワクするようなものを作りたいという思いで音楽を作っています」

STUTSの話を聞くと、ワンアクションを起こすことの重要性を改めて感じる。彼の人生は決して順風満帆ではない。しかし、彼はふて腐れることも、独りよがりになることもなく、常に自ら歩む道を選択し勇気を持って行動してきた。そんな彼の譲れない価値観とは何か?

「常に勇気を持ってるわけじゃないですよ(笑)。ただ僕が心がけているのは、ルーツとなる芯は保ちながら、自分のいる場所を限定しないということです。音楽的なことで言えば、HIPHOPの感覚は大事にしながら、色んな音楽と交わりたいといった感じで。極端なことを言えば、今はミュージシャンをしているけど、将来別のことにワクワクするようになったら、音楽と並行して新しい仕事をするかもしれない。何かにとらわれたくないし、巻き込まれたくない。自分が常に良い状態でいられるようにしたいんです」

いつも自然体。ワンマンライブのときもそうだった。チケットはすぐに完売し、開演前の会場は超満員の熱気で少し息苦しかった。客電が落ちるとSTUTSはステージに登場し、何かを気取るわけでもなく笑顔で一礼して、おもむろにMPCをたたき始めた。そのあまりの素朴さに観客は一瞬面食らったが、すぐに彼のビートで首を振り始めた。決して自分のペースは崩さない。STUTSはこれからもそうやって進んでくのだろうと思った。

  

(撮影協力:サンデーブランチ 下北沢店

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