小川フミオのモーターカー

設計者の思いが伝わるスウェーデンの堅実なクルマ 「サーブ99」

  • 世界の名車<第244回>
  • 2019年1月21日

「96」から大きく変わり現代的でグローバルなスタイルとなったのが「99」

クルマに理想的なつくりかたがあるとしたら、「サーブ99」がひとつの典型例と言えるのではないだろうか。乗降性や運転性やパッケージングなど、さまざまな面で考え抜かれているからだ。安全設計の面でも、発表当時としては先駆的だった。

サーブ(SAAB)はSvenska Aeroplan Aktiebolaget(スウェーデン航空機株式会社)の略であり、第2次大戦までは航空機を作っていた。航空機産業がエンジンやボディー製造技術を生かして、戦後、自動車も手がけるようになった例は、英国や日本でもみられる。

私はこのサーブから、独の「ブラウン」という家電メーカーでデザインディレクターを務めていたディーター・ラムスを連想する。華美さを排して、独自の美意識でシンプルさを追究したのがラムスのデザインで、サーブにもそれと通じるものを感じる。実はサーブにもシクステン・サソンという高名な工業デザイナーが関わっていた。

全長4355ミリの車体は2ドアと4ドアともにハッチゲートを備えて機能的だった

サーブは当時のスウェーデンの国情にあった、いわば“身の丈”のクルマづくりから始まった。小さな車体に小排気量のエンジンでコストを下げ、ただし高速でも走れるように流体力学のお手本のようなスタイルを採用した。科学を日常にうまく溶け込ませたのだ。

1949年に発表された「92」のユニークなデザインで世界中の自動車メーカーから注目されたサーブは、「93」「94」「95」「96」と、戦後スウェーデンが豊かさを取り戻すのに合わせてエンジン排気量を大きくしたり、ステーションワゴンを追加したりとラインナップを発展させていった。でも根幹は変わらない。

77年にターボが追加されてサーブの市場は大きくなった

67年に登場したこの「99」がサーブ車の完成形といえる。いまも空力的には最善の形状といわれる円筒を切り取ったようなウィンドシールドや、フロアまで回りこむように足元までえぐり取ることで乗降性を高めた前後ドアは、クルマづくり思想の端的な例だ。

まだまだ特徴はあげられる。前輪駆動方式によって荷室が広くとられたパッケージング、衝突時に強度の高さを保つクラムシェル(二枚貝)型のボンネット、乗員を守るためにパッドで覆われたダッシュボード、さらに衝突時に乗員のひざをケガから守る目的で床に移されたともいうスターターキー用のスロットも99で実現した。

私はこのクルマが出た当時、運転免許なんてはるか先の話という子どもだったが、99の特徴の数かずを知って、なんてすごいメーカーなんだろうと感心したものだ。ラリーで活躍していて走りのイメージも定着していた。乗るならこのクルマしかない、と思ったほどである。

大きく開くドア、クラムシェル型ボンネット、ハイバックシート(当時はヘッドレストレイントはオプションというケースが多かった)、それによく見るとシフトレバーの根元にキーのスロットがあるのがわかる

雪のラリーでは往々にして好成績を残した

サーブはこのころ自動車産業界でも大きな成長を目指していた。そこで米国市場をターゲットに、99の輸出を開始した。エンジンは1.7リッターではじまり、1.8リッターと2リッターへと変わっていったが、それでも米国で成功するには力不足と判断されたため、77年には2リッターエンジンを搭載した「99ターボ」を追加したのだった。

前輪駆動の量産乗用車でターボチャージャーを採用したのは99ターボが初めてだろう。サーブ開発陣の見識は、高速むきの大径でなく、小径のターボチャージャーを選択したことだ。それによって低回転域での力がうんと増し、扱いやすくなった。

円筒を切り取ったようなウィンドシールドはいまも空力的に有効だが、専用ワイパーが必要になったりヘッドアップディスプレイが使えないなどの面で実用から遠のいてしまっている

99は長命で、87年まで20年間にわたり生産が継続された。日本で乗ると炎暑に耐えられずオーバーヒート気味になるとか、ステアリングジョイントが故障しやすいとか、いろいろ言われたが、こういうクルマに乗ることができたら、設計者と心が通いあうようで、きっと稀有(けう)な体験になるはずだ。それがいまでも私が心ひかれる理由である。

デビュー当時の欧州用バンパーなどシンプルなスタイルがもっとも好感が持てる仕様

(写真=SAAB提供)

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PROFILE

小川フミオ(おがわ・ふみお)

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クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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