ミレニアルズトーク Millennials Talk

ビジネスを考えつつ文化を守る、メディアと編集の役割 石井リナ×長嶋太陽対談

  • 2019年1月29日

  

社会問題からセックスまで。現代を生きる女性に様々な選択肢を提案するエンパワーメントメディア「BLAST」。その運営会社であるBLAST Inc.のCEOを務めながら、SNSコンサルタントとしても活躍する石井リナが、「ミレニアル世代」にフォーカス。

特に1990年前後に生まれた人は、インターネットネーティブな環境で培った柔軟な感覚で、様々な新しい働き方に取り組んでいる。学生時代にガラケーを持ち、インターネットの普及とともに育ってきた人々は、どんな価値観を持ち、何を思考しているのだろうか。世代の狭間に生まれ、時にハブとなり得るミレニアル世代を深掘りする。

今回は、株式会社メルカリのコピーライターとして働きながら、EYESCREAM、forbes JAPAN、CINRA.netなどのメディアでのライターや、J-Waveのラジオ番組「HEISEI MOMENTS」の企画など、さまざまな分野で活躍する編集者・長嶋太陽との対談。経済と文化を越境する試みとしてのメディアという装置について、そして、複数の肩書を持つことの葛藤や喜びについて語る。

広告業界はよくデザインされている

石井:太陽くんは、編集者、ライター、コピーライターとして、ファッション、カルチャー、スポーツ、そしてビジネスの領域を横断して働いていて、人材としていろいろな求め方をされているよね。

長嶋:共感できる仲間が増えていくのはいいことだなって最近実感しているんだよね。1人ではできないことは本当にたくさんあって、これまで少しずつ積み重ねてこられたのも、お世話になった人のおかげだなって本気で思っているし、本当にありがたいです。

石井:メルカリのコピーライターと、編集・ライターを兼業する今の働き方についてはどう?

長嶋:大変な時もあるけど、すごく自分に合っていると思う。置かれた場所に合わせることが得意な人と、自分に合う場所を探したりつくったりすることが得意な人がいる。適性が異なるだけで、どちらが正解ってことでもない。道はたくさんあるので、自分が何を好きで何が苦手なのかをちゃんと理解できると、スムーズに選べるようになるんじゃないかな。僕が今の働き方を選んだきっかけは、石井リナの「太陽くんはもっとやれることがたくさんあるんじゃない?」って言葉だったんだよ。

石井:そう言ってくれてたね。すごくうれしいよね。

長嶋:最近、ちょっと悩んでいることがあって。裏方としての編集やライターの仕事だけでなく、今回みたいな対談や、出る側の仕事に声をかけてもらうことが少しずつ増えていること。石井リナは表舞台に立つことが多いけど、何かきっかけはあった?

石井:オプトにいたころ携わっていたメディア事業では、社員が顔を出していく方針だったんだよね。まずは自分が表に出ることをやってみたら、宣伝会議の方がそれを見て、「インスタグラムのトレンドを翻訳して伝える人」として取り上げてくれるようになった。それがきっかけかな。

長嶋:カルチャー領域の編集・ライターの場合は、裏方気質の強い仕事だから、「自分が出る」ことに抵抗がある気質の人も多い。書き手や編集者が表に出ることで毀損(きそん)されてしまう文化もあるし、自分が目立ちたいとも思わないから、そこに葛藤がある。インターネット的な合理性からしたら、自分が表に出ることはプラスだし、自分の口から伝えることは社会とつながる貴重な機会ではあるんだけど、特に自分が向き合いたいカルチャーの分野では、そんな合理性がネガティブな要素になりかねないんだよね。

  

石井:わかるよ。ファッション業界の友人は私も多いけれど、“ムラ社会”的な価値観が結構強いよね。誰と誰が仲良いとか、こことここがつながっている、とか。どういう見られ方をするのかをすごく気にしていて、昔っぽい気もするけど、だからこそおもしろいものをつくれるのだろうとも思う。最終的には人と人の濃いつながりが、温度の高いものづくりを可能にするのかなって。

長嶋:そうそう、価値観やセンスという非言語的な共通項を持つムラをつくることは、文化の濃度を守る上で有効だと思う。文化を守るっていうのは重要な観点。広告業界の「権威をつくる」手法は、もともとは好きじゃなかったんだけど、実は参考になるんだなって最近気付いたよ。

石井:それはどういうこと?

長嶋:CMをつくって流すにはたくさんお金がかかるから、意思決定者は経営に関わる人であることが多い。でも、経営に携わる人は表現のプロフェッショナルではないよね。例えるなら、経営者が高級な江戸前すし屋さんに行って、すし職人さんに自分の好みを伝えることはあるかもしれないけど。職人さんの握り方にまで直接指示を出すことはないよね。それなのに、CM制作の現場では、「職人的なクリエーティブに、別の分野の人が細かく口を出す」ということが実際に起きている。そこで必要になってくるのが、広告賞という「権威」。「この人はクリエーター・オブ・ザ・イヤーです」という箔(はく)付けがあると、制作の主導権を握れる。賞が権威をつくることで、非論理的で柔らかい表現を守っている部分もあると思う。

石井:マーケティングと映像の制作は、それぞれに影響し合う部分はあるけど、全く別の技術だもんね。実際に自分でその両方に携わっているから理解できるな。

長嶋:権威主義は好きじゃないけど、広告業界はよくデザインされているんだなって。カルチャーの領域にはあまりない考え方だね。最近脚光を浴びているインターネットの文脈での編集が主流になって、金、テック、猫、性、ゴシップ、ハウツー、いい話……みたいなPVを集めやすいトピックが、限りのある人の認識の領域を占めていくとしたら、それ以外の文化は死に近づいていく。だからこそ、自分が今向き合っている領域のいいところを融合して、カルチャーに貢献できる形でどうアウトプットできるかをずっと考えているんだ。

システムのハックの外部にある提案が難しい

石井:実際に、どういうことがやりたいかはもう見えている?

長嶋:それが、答えはなかなか見えないんだよ。例えば雑誌文化がゆるやかに失われつつあるのが悲しい。現状の課題を外野から指摘することや、ITの文脈で改善の提案をすることは簡単だけど、それでは大事な部分をなくしてしまう。文化の内側に入って、大事な部分を守りながら、どうやって希望を失わずにやっていけるか。一つずつ積み重ねていきたいな。

  

石井:雑誌がITの文脈と接続していくと、どういう部分が失われるんだろう。

長嶋:わかりやすい例を挙げると、PVを稼ぐことにメディア収益が依存すると、PVをとれる記事を出す方針になるよね。

石井:キュレーションメディアのようなことかな。

長嶋:そうそう。安東嵩史さんという尊敬する編集者は、世界中の文化や歴史を幅広く吸収して、それを自分の中で現代の文化と接続しながら人の心と向き合う編集をしていて、すごいと思っている。トーチwebでの連載「国境線上の蟹」もすごくおもしろい。決してかみ砕かれたわかりやすい話ではないんだけど、人の心に寄り添っている。けれど、インターネットに最適化されたものではないから、広く読まれるわけではない。人間の複雑さとか奥深さを提示して、そのまま理解してもらうためには、送り手と受け手の信頼関係が必要になる。一部の雑誌ではそういう関係が媒体と読者との間で構築できていたと思うのだけど、そういう信頼関係は失われつつあるよね。

石井:もう少し詳しく知りたいな。

長嶋:これまでは、雑誌という枠組みがあれば、ある程度の読者に読まれることの担保ができた。でもインターネットの登場以降、雑誌に代表されるセグメントメディア(編注:年齢や趣味など何かの条件でグループ分けされた読者を想定したメディア)の読まれ方が変化して、これまでの作り方は機能しなくなって、「読まれるための記事」をつくらないといけなくなった。Instagramでは再現しやすい「映える構図」が量産される。

そうすると、システムのハック(最適化、効率化)という正解ばかりが求められて、その外部にある、新しい発見や文脈を伴う知識、これまでにない芸術性なんかは提案も評価もされにくくなっていく。その構造的な難しさを実感し続けているんだけど、どう具体的な手段で変えていけばいいのか、ずっと悩んでいて。

石井:システムのハックか。確かにそういうテクニックみたいなノウハウもよく出回るようになり、それを求められることが多くなっているよね。

長嶋:今メルカリっていうプラットフォームにいることにも大きな意味があると思っている。仕組みの側に、「カルチャー大好き!」というような価値観が入り込むことは大切なんじゃないか、と思ってる。まだまだ形にならないことが多いんだけど。

石井:私も繊細に生きているつもりだけど、私の繊細さが100だとしたら太陽君は500くらいあるよね。

  

長嶋:そうかもしれない。うちの家系って代々繊細で(笑)。この歳にしてようやく、その繊細さをエネルギーに変えていくやり方とか環境が見つかったなって思うけど、生きづらいと感じることは本当に多いよ。なかなか信じてもらえなくて、お前はいつも楽しそうだな、とか言われるけど、思い悩むことはライフワークみたいなものだから、できるだけ楽しく過ごそうと思ってる。

石井:繊細な感性を持ちながらビジネスのことを理解している人って全然いないから、そこが太陽君の魅力だし価値だよね。

長嶋:ありがとう。褒め合うみたいで変だけど、そうやって他人のことを的確に理解できるところが石井リナはすごいと思うよ。僕は繊細さに振り切って生きていきたいなって考えるところもあって、ビジネスに本質的に強い興味があるわけじゃないし、大きい仕事がしたいわけでもない。でも、現代を生きていく上では絶対に必要なものだから。

関わる人が豊かに暮らせるように

石井:私は最近、分人化していく自分について考えている。主にツイッターの発言を見てくれている人は、「ビジネス的な観点でSNSに詳しい人」として認識していて、InstagramとかBLASTを見てくれている人からは、おそらく「社会とか女性の権利について発言する人」と認識されている。仲の良い友達からは「なんて説明したらいいかわからないよね」って言われることも多くて。もう慣れたし、それを面白いと言ってくれる人もいるけど、どうしたらいいんだろうって思ったりする。

長嶋:分人って、本当の自分は一つではなく、さまざまな状況とか、接する相手によって、異なる自分がたくさんいるっていう考え方だよね。複雑さはそのままでいいと思うけど、外から見た自分がわかりにくいってこと?

  

石井:そうそう。外から見たときに、わかりやすいほうがいいのかなって思うこともある。

長嶋:それって、まさにマーケターの視点だよね。伝え方は大事だけど、あまり意識せずやりたいことをやればいいんじゃないかなって思っちゃうけど。

石井:そうだよね。自分を客観的に見すぎる自分に嫌気がさすこともあって、人から見た自分の姿を気にしすぎているとも思っちゃう。

長嶋:優しさとか想像力は、時に判断をにぶらせるものではあるけど、それがあるからこそ、いろんな人のいろんな思いに応えられる。自分自身をしっかり貫きながら、いろんなものを受け入れられるといいよね。

石井:そうだといいな。ある調査で、ミレニアルズはグローバルなつながりを意識していて、人とのつながりを大事にしながら、自分のことは自分のことだと独立して考えているっていう結果が出ていて、なるほどって思った。自分はそれには微妙に当てはまらないのかもなって。

長嶋:確かにそうかもしれない。これからやりたいことってある?

石井:まずは、ちゃんと会社でお金を稼ぐことをしたいと思ってる。アーティストってすてきだしかっこいいし、なれるものならなりたいと思うこともある。でも今、私は会社の代表だし、ちゃんと生きていかなくちゃいけない。私を信じてくれた人たちにちゃんと応えたいし、お金を生んでいかなきゃって。お金をつくることが正義ではないし、大企業こそ王者とは思わないけど、私の仕事に関わる人みんなが豊かに暮らしていけるようにしたい。

  

長嶋:とても現実的で切実なことだよね。

石井:そうなの。ひとりで自由に生きていた頃を思い出しもするけれど、そこからは見えなかったものが見えているので、今は今で、すごくいいなって思っているんだよ。BLASTは社会と接続されているものだからこそ、ちゃんとお金を生むものにしたい。

長嶋:すごく真摯(しんし)で、変化し続けているね。若林恵さんが主宰しているプロジェクト「trialog」の取材をした時に、「お金は創造のガソリンになる」というような話が出ていたな。個人的には、石井リナは信用経済だなって思っている。思想を信用してもらうことが現実的な通貨の役割を果たす、というのはシステムによって実現できることだよね。

石井:確かに、思想を介して人とつながることができている実感はとってもあるよ。本当にすごい時代。もっと信用を得て、たくさんの人に届けたい。

長嶋:去年から言っていて実現できていないことなんだけど、僕が主体となって発信することを始めようと思っている。自分が思うことを形にして、自分自身がちゃんと信用される存在になるために。

石井:私は太陽くんが何を生み出すのか気になるから、ぜひやってほしい。楽しみにしてる。

  

<トークを終えて>

石井リナは学生時代、アパレルブランドの販売員を掛け持ちし、ファッション雑誌を発行する出版社でイベント運営を行っていた。IT業界では、珍しいキャリアを持っていると言えるかもしれない。

僕は、広告代理店、スタートアップ、カルチャーメディアでのキャリアをバックボーンとして持ち、ビジネスと文化、二つの領域を行き来しながらさまざまな仕事に携わっている。2人とも、ジャンルの境界を超えた考え方を身につけたからこそ、共有できる課題や葛藤がある。

経済合理性が優先される世界と、“湿度”の高い文化で形成される世界。僕たちはこれからも、夢を描きつつどちらの領域にも向き合い、挫折しながらも進んでいくだろう。社会を見つめるまなざしと、自分の思いを貫くという真摯な気持ちを原動力にして。

(文:長嶋太陽、撮影:なかむらしんたろう)

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