セダンがここまでカッコよくなるなんて! 「フォード・コーティナ・ロータス」
- 世界の名車<第246回>
- 2019年2月4日
「羊の皮をかぶった狼(おおかみ)」をクルマのファンは好んでいる。それは、ふつうのセダンをベースに、レースで勝つためにぎりぎりまでチューンナップしたモデルのことだ。
日本では、かつては「いすゞ・ベレットGTR」、いまだと「スバルWRX STI(それも最新のS209)」が狼の仲間と言えるだろうが、歴史に残る代表的な“狼”といえば英国フォードが製造していた「フォード・コーティナ・ロータス」だろう。
スタイリングの点だけでいうと、とうてい名車とは思えない。もとは一般向けのセダンなのだから仕方が無い。しかし、ボディーからよけいなものをすべてはぎとり、ロータスのスポーツカー用のエンジンとレース用に調整したサスペンションシステムを組み込んだ。そこがカッコいい。
1963年登場のマークIと、67年のマークIIとがあり、前者はロータスが組み立てまで担当するなど積極的に開発に参加したことから、「ロータス・コーティナ」と呼ばれる。後者はロータスの本社移転などの影響で、フォードが主導権を握って開発したモデルだ。
マークIIの「フォード・コーティナ・ロータス」は、さまざまな面でより近代的に進化した。エンジンパワーは上がり、シフトレバーはリモートコントロールになりより速いシフトワークが可能になったのだ。
このクルマが“名車”とされているのはレースでの高成績ゆえである。英国をはじめ各地でチーム・ロータスの手でレースに参戦し、あっというまにレース界を席巻した。
フォードはそもそもロータスにエンジンを供給し、ロータスはそのエンジンをチューンナップしていた。エンジン開発には多大な費用がかかるので、英国フォードがなければ、当時バックヤードビルダー(裏庭でクルマを組み立てるような個人経営に近いメーカー)と呼ばれたロータスのような小さな会社は成り立たなかったのだ。
いっぽうフォードも、ロータスの力をうまく利用した。自車のチューンナップを任せればレースやラリーでの好成績でブランド力があがり、またとない宣伝のチャンスになるからだ。はたしてロータスはしっかり期待に応えた。
1.6リッターエンジンながら、ツーリングカーレースでは、3.8リッターのジャガー・マーク2などの追随を許さなかったのだった。学生時代にガールフレンドから借金してスポーツカーづくりをはじめ、みるみるうちに時代の寵児(ちょうじ)となった英国の設計者コーリン・チャプマンの面目躍如たる出来である。
いまでは、こんな個人の立身出世物語は自動車界ではお目にかかれない。それがまだ存在した時代への郷愁も、ロータス・コーティナあるいはコーティナ・ロータスの衰えない輝きの源になっているように思える。
(写真=Newspress提供)

PROFILE
- 小川フミオ(おがわ・ふみお)
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クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。