マッキー牧元 うまいはエロい

<71>目まいを感じるほどうまいギョーザ/幡ケ谷「您好」

  • 文・写真 マッキー牧元
  • 2019年2月5日

  

水ギョーザは、キスに似ていると思う。最初は慎重に、そおっと口づける。てらりと輝く白い皮は、唇に優しく触れて通り抜け、上顎(うわあご)に身を寄せる。すかさずかめば、熱い汁がほとばしり、口内を流れていく。

よくよく練った肉のあんはたくましく、歯を喜ばせながら、滑らかな皮と舞って、舌を抱きすくめる。その時、ほのかに甘い香りが漂って、鼻奥に登っていく。あれは小麦の香りなのか? 肉のつぶやきなのか? 唇、舌、歯、歯肉、上顎、鼻腔(びこう)。水ギョーザはすべてを捉え、すべてに甘えて、甘美な、切ない思いを残しながら、喉(のど)へと落ちていく。

おいしい水ギョーザには、五つの宝がある。

一に、湯気をふわりと立てた、つややかな白い肌。
二に、つるりと滑らかな、皮のきめ。
三に、歯にめり込み、押し返すようにからみつく、皮のたくましさ。
四に、あんからあふれ出る、熱々スープ。
五に、かむ喜びを生む、よく練られた肉あんのうまみである。

この小さき身体に秘めた五つの宝を、ハフハフと息を弾ませながら、くっとかみ締め、目を閉じる。ふわり、つるりん、もちもち、じゅわり。ああ、幸せだなぁと、吐息をつく。そんな水ギョーザを食べたくなると、この店に向かう。

一方焼きギョーザには、四拍子揃った喜びがある。

第一は、香ばしく焼きあがった皮に、カリッと歯を立てる喜び。
第二は、もっちりとした皮に、歯が包み込まれる喜び。
第三は、中から飛び出す熱い汁を、受け止める喜び。
第四は、よく練られたあんの、豚肉のうまみを味わう喜び。

  

まず姿がいい。焦げた皮とそうでない皮の、茶と白のコントラストがいい。茶も白も、油と汁にまみれ、つややかに輝き、さあ早く食べろ。食べてみろ。そうギョーザが誘う。

箸でつかむのももどかしい。タレにつけ、口に運ぶ。ハフハフと熱さに気をつけながら、口に入れ、かむ。

「カリッ」。焼けた皮をかみしだく音が、響く。その音は、脳内に響き、体の芯を貫いて、「ああ、いま、ギョーザを食べているんだあ」という実感が、駆け巡る。ギョーザの皮が弾けると、歯は柔らかな皮に包まれ、舌には熱々の汁と、野菜や豚肉の甘みが流れ出す。

一つの小さき体に、これだけの魅力を持つ焼きギョーザは、偉大である。

「カリッ」も、もっちりも汁もあんも、それぞれにたくましく、主張のある焼きギョーザは、目まいを感じるほどのうまさがある。「您好」のギョーザは、まさしくそんな焼きギョーザなのである。

  

「您好(ニイハオ)」

您好(ニイハオ)

日本屈指のおいしいギョーザに出会える店。水ギョーザは、作りたて、包みたての皮をゆで上げる。焼きギョーザと揚げギョーザは、いったん水ギョーザを作り、乾かしたものを焼いて、揚げる。水ギョーザと焼きギョーザ、揚げギョーザは皮も肉あんも同じだが、最高の食感を出すために、包み方を変えるなど、細部に工夫を凝らした手法がギョーザのうまさを生かす。本文では触れなかった揚げギョーザも、カリカリに揚げた香ばしい皮をかむと、もっちりとした食感がある。これも自家製の皮の実力だろう。タレは、酢じょうゆに「沙茶醤」(サーチャージャン:干しエビとカレイをベースにニンニク、エシャロット、唐辛子などの香味野菜を加えて作られたピリ辛ソース)が加えられ、それが味の複雑さとコクを加えている。


【店舗情報】
東京都渋谷区西原2-27-4 升本酒店2F
京王新線「幡ヶ谷」駅より徒歩3分
18:00~23:00
月~金、祝前日: 17:00~23:30(料理L.O. 23:00)
土: 17:00~23:00(料理L.O. 22:00)
定休日:日曜・祝日

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PROFILE

マッキー牧元(まっきー・まきもと)タベアルキスト&味の手帖編集顧問

写真

1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

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