プロカメラマンの連載「一眼気分」

ライカM8を手に撮り歩いたパリの街角の記憶

  • 文・写真 宮田正和
  • 2019年2月5日

年末年始とプライベートで色々なことが重なり、ファインダーをのぞく時間がほとんどなかった……。ただ、そんな中でもパリに行く仕事があり、ほんの数日ではあったが久しぶりに滞在することができた。

僕はかつてパリに住み、そこから世界各地で行われるF1グランプリを追いかけて旅していた。あの頃は、パリに帰ってきて街並みを見た瞬間にホッとしたものだ。何がとはっきりと言えるものはないが、パリのすべてが僕の感性に合っていた。今回の滞在でも、同じような気持ちになった。将来、いずれはパリに帰ろうと今でも画策しているが、こればかりは僕の思惑だけではどうにもならない。

今回の滞在では、会社の用事などがあり、残念ながら写真を撮る時間はほとんどなかった。そこで、過去に僕が撮影したパリの写真をお見せしたい。

パリはどこを撮っても絵になると良く言われるが、正直に言えば、現実のパリは決してきれいな街ではないし、写真に匂いが伴わなくて良かったと思うことも多い(笑)。

もちろん有名観光地に代表される華やかな表の部分はあるけれど、市民は普通の暮らしをしているものだ。以前、僕の生まれは東京浅草と書いたことがあったと思うが、下町育ちの僕でも不思議と違和感なく暮らせる懐の深さがパリにある。

それはなぜだろうと考えてみる。住んでみるとわかるが、パリっ子は人への関心や興味、好奇心が旺盛で、異邦人の僕に興味を持ち、積極的に質問をぶつけてくる。それはまるで子供のように尽きることはないのだが、そのことが僕には決して不快ではなかった。

もちろん、日本という異文化に対する彼らの好奇心を満たすのは容易ではなかったが、暮らしているうちに日々通うカフェやパン屋で次第に顔を覚えられ、会話を交わすようになり、時には不思議そうな表情をしたり、妙に納得したような態度をしたり、そんなことの繰り返しを続けているうちに彼らの中では、僕という人間のイメージが徐々に出来上がってきたようだ。

ある日、僕の仕事が写真家だと知ると、どんな写真を撮っているのか? 何処で撮っているのか?と質問攻めに遭った。F1グランプリを撮っていると言ったところ、友人たちは大騒ぎになり、「そう言えばお前をテレビで見た!」とか、「新聞に載っていた」とか、ホントかそれ?と思えるような調子いい言葉がポンポン出てきた。でも僕はこんな彼らが嫌いじゃない。

それ以降、彼らとの話題はF1の話がメインになり、ホンダや日本人ドライバーのことをたくさん聞かれた。「ドライバーの写真を見せてくれ」とか、「ドライバーのサインをもらってきてくれ!」と頼まれることもしばしばだった。借りていたアパートの大家さんは、「うちの住人にF1写真家の日本人がいる」と近所にふれ回っていたらしい(笑)。

そんなパリ暮らしで、F1取材の合間の時間、僕はライカM8を手に、精力的に街を歩き回っていた。ある時は歩いて、そしてメトロで。またある時はベリブ(レンタル自転車)で、区割りがカタツムリに見立てられるパリの街の風景を、ひたすらファインダー越しにのぞいては、シャッターを押し続けていた。

この時に、どうしてもパリはライカで撮りたいと頑張って買ったM8が、自分は写真が好きだと教えてくれたカメラでもあった。

実は、それまでは仕事として写真は撮影していたが、普段の生活の中ではまずカメラを構えることはなかった。このライカと歩いたパリでの経験が、大きな変化を起こしたのだ。

今ははっきりと写真を撮ることが好きだと言えるし、心からそう思える。

きっかけはなんであれ、写真家として生きていける自分が幸せだと思うし、これからも素敵な写真を撮り続けたいと思っている。

[PR]

年初のごあいさつとしては遅くなってしまったが、今年もお付き合いのほどをよろしくお願いしたいと思う。

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

宮田正和(みやた・まさかず)写真家

東京浅草生まれ。1984年のロサンゼルス・オリンピックをはじめ、NBAバスケットボール、各種世界選手権、テニスのグランドスラム大会、ゴルフの全英オープンなどスポーツを中心に世界を舞台に撮影を続ける。1987年、ブラジルF1グランプリを撮影。マシンの持つ美しさ、人間模様にひかれ、1988年よりフランスのパリ、ニースに4年間ベースを移し、以来F1グランプリ、オートバイの世界選手権、ルマン24時間耐久レースなどモータースポーツをメインテーマとして活動を続ける。AIPS(国際スポーツ記者協会会員)A.J.P.S(日本スポーツプレス協会会員)F.O.P.A(Formula One Photographers Association会員)http://f1scene.com

今、あなたにオススメ

Pickup!