鎧兜の姿から感じるのはユーモア、それとも……野口哲哉展「~中世より愛をこめて~ From Medieval with Love」

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鎧兜(よろいかぶと)に身を包んだ人物をモチーフに、独特な立体作品や絵画などを制作する、現代美術家の野口哲哉さん。

ポーラ ミュージアム アネックス(東京・銀座)で開催されている4年ぶりの大型個展「~中世より愛をこめて~ From Medieval with Love」では、新作を含む約50点を展示。甲冑(かっちゅう)姿の人物が悩み、たたずみ、まどろむというユーモアとペーソス(悲しみ)の混在した作風は、日本のみならず世界からも注目を集めている。

作品を印象づけている装具には、幼い頃から心を引かれていたという。甲冑で武装したその姿とは裏腹な、柔らかい表情。まるで生身の人間であるかのような「生」を感じられる姿と、細部まで作り込まれたディテールに、いとおしさと親しみが湧く。

「武士や侍を作っている自覚は全くなくて、正確に言うと武人ではなく、鎧兜を着た“人”なんです」と語る野口さん。「ワニやウマの姿が数百年単位では変わらないように、人間もきっと、これまでもこの先も変わらないと思います」

廊内には、オルビスの口紅を手にハートを描く「Clumsy heart」をはじめとした立体作品が並ぶ。壁には西洋古典の技法を用い、巨匠レンブラントやフェルメールの名画をほうふつとさせる構図で描かれた肖像画に加え、日本画も並んでいる。特に絵画は、背景に描かれた風船や気球が幻想的な雰囲気を醸し出しているのが特徴だ。

ちなみに、晩年破産したレンブラントの財産目録には日本の兜があったらしい。「浪費散財を繰り返した彼は異国の兜を手に入れ、何度かそれを被ったこともあるはず」といった野口さんの考察も面白い。

野口さんにとって、侍や鎧兜の姿は、昔から怪物やロボット、西洋のおとぎ話の人物のように見えていたそうだ。鎧兜については「和風な美意識よりも、不気味で強靭(きょうじん)な外殻」のような感覚を抱いているという。白昼夢のような世界と、ぎこちなさや弱さが同居しているからこそ、私たちは自身の姿をそこに重ね合わせることができるのかもしれない。

「中世をテーマに、鎧兜を身につけている作品ですが、僕たちと共通する部分がたくさん含まれていると思いながら制作しています。先入観を持たず、自分たちのことを見るように鑑賞していただけたらうれしいです」
喜びや、悲しみ、そして寂しさ。鑑賞する人の受け取り方によって、空模様のように変化を見せてくれる鎧姿の人物たちの表情は、古(いにしえ)も今も、人の生き様には何ら違いがないということを教えてくれる。

(文・山田敦士)

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    PROFILE

    野口哲哉(のぐち・てつや)

    1980年、香川県高松市生まれ。広島市立大学芸術学部油絵専攻卒、同大学大学院修了。主に侍や甲冑(かっちゅう)といったモチーフを扱いながら、人間のリアリティーや文明の奥行きを探求する作品を制作

    EXHIBITION

    野口哲哉「~中世より愛をこめて~ From Medieval with Love」
    2018年7月13日(金)〜2018年9月2日(日)※会期中は無休
    ポーラ ミュージアム アネックス
    11:00〜20:00(入場は19:30まで)
    入場無料
    http://www.po-holdings.co.jp/m-annex/

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