言葉で伝えられない思いや感覚 「TOKYO」という街の魔力

写真

 モノクロ写真で都市を表現する写真家、西野壮平さんの作品を最初に見たのは2005年、新人写真家の登竜門、写真新世紀というコンテストの会場だった。

 写真新世紀では、グランプリ候補として選ばれた数人が、来場客と審査員の前で作品に込めた思いをプレゼンテーションする。当時、兵庫県に住んでいた西野さんは「プレゼンのために、今日は兵庫から東京まで歩いてきました」と語り、思わずあっけに取られてしまったことを覚えている。

 彼の作品は、1辺が1メートルを超える大きなサイズのものが多い。「都市の写真」と一口に言ってしまうのは簡単だが、表面には都市を様々な視点から撮影した写真がプリントされ、びっしりと張り込まれているのがその特徴だ。

 張り込まれた小さなプリントはコンタクトシート(別名「ベタ焼き」)の1ピースだ。撮影後、現像済みのフィルムを印画紙の上に並べて焼き、一枚一枚を切り抜いて、張り込んでいくことで巨大な一枚の作品を作り上げていく。一番大きな作品だと2万枚を超える枚数を撮影して張り込んでいくので、撮影から制作工程の全てを終えて完成するまで、4カ月以上かかる時もあるという。

 写真集「TOKYO」は「Diorama Map」(ジオラマ・マップ)と名付けられたシリーズ作品から東京の街にフォーカスしたコンセプトブックだ。1点の作品を拡大し、496点に分割した画像を1ページずつ全て収録することで、東京という街の多様性や面白さを細部で見ることで表現している。

 高校時代、お遍路さんとして歩きながらスナップを撮り始めたことがきっかけの一つとなり、ストリートや街を見下ろす高い場所から写真を撮り続け、東京以外にもニューヨークやパリ、上海など世界中の街を歩き回り、これまでに20都市を記録し続けている。南アフリカのヨハネスブルクでは暴漢に襲われたこともあるといい、ハバナでは、ラム酒とギターの音で夜な夜な踊る現地の人々を路上で観察した。

 自分の足跡を作品にするというコンセプトだが、一枚を作り上げるのに数カ月を要する努力を、大変と感じたことはないのだろうか。尋ねてみると「長い時間かけて何かを作るということを、苦に感じないというか、忍耐力というスキルにたけているんだと思います」と答えてくれた。

 二度目に西野さんの作品を見たのは2012年、ロンドン市内のサーチギャラリーだった。まるで兵庫から東京まで、一歩ずつ歩みを進めていくように、著名なギャラリストの目に留まり、海外での展示機会も得られるようになった。最近ではイタリア北部を流れるポー川の上流から下流までを移動しながらその風景や流域で出会った人々を撮影した作品に取り組んだ。

 言葉で伝えられない思いや感覚を、写真で表現する。アーティストとして大事な、圧倒的なブレない芯の強さと粘り強さを感じる作品群は、都市が持つ言い知れない魔力をその表面に生々しく刻みつけている。

(文・山田敦士)

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    PROFILE

    西野壮平

    1982年兵庫県生まれ。2004年、大阪芸術大学卒業。大学在学中から「Diorama Map」シリーズの制作を始める。2005年、キヤノン写真新世紀にて優秀賞( 南條史生/現森美術館館長)受賞。その後、活動の拠点を神奈川と静岡で制作活動を行っている。2016年秋には、サンフランシスコ近代美術館にて個展を開催。現在イタリアのMAST Foundationでの写真展にて作品を展示している。http://soheinishino.net

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