京都古文化特集

西念寺ルポ 「100年に一度」の涅槃図にびっくり

  • 文 桝郷春美(フリーライター)
  • 2013年10月31日
西念寺にて=撮影・小林勝彦

写真:西念寺にて=撮影・小林勝彦西念寺にて=撮影・小林勝彦

 普段見ることのできない秘宝や秘仏に出会える、秋の「京都非公開文化財特別公開」が11月1日から10日まで、京都府内の21カ所で行われます。この中には、これまで一度も一般に公開されたことがない寺が5カ所あります。朝日新聞デジタル4回目のリポートでは、初公開にふみ切った寺の一つ、京都市の五条にある西念寺を紹介します。平安後期の作「仏涅槃図」は「100年に一度見つかるかどうか」と言われる貴重なお宝です。

 今回の「京都非公開文化財特別公開」に先立ち、筆者は西念寺、浄福寺、清浄華院、放生院(橋寺)の4カ所の寺の取材を担当。それぞれの寺について、京都の図書館で事前にリサーチをする中で最も情報が少ない寺がこの西念寺でした。だからこそ、どのようなお寺さんなのか、興味津々で取材先に向かいました。

 京都の寺というと、修学旅行などで訪れるような、大きな山門や広い境内のイメージを想像しがちですが、ここ西念寺は違います。五条通と高倉通が交差する角、寺とは一見分かりにくい住宅のような外観で前には石の鳥居があり、境内には、戦時中、五条通り拡張のために取り壊されていた天満宮(千喜満悦天満宮)が遷宮されています。今回のような特別公開でないと、拝観できない貴重な機会です。迎えてくれたのは住職の岩田浩然(こうねん)さん。先代の住職(師僧・父、2013年8月遷化)から2011年1月に西念寺を継がれて2年目を迎えられました。

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◆戦時中は井戸の中で仏像を抱えて

 西念寺は浄土宗西山禅林寺派の寺で、開基は16世紀と伝わっています。その後、徳川幕府の政策により本願寺領を設けるため、五条通沿いの現在の地に替地されました。当時は広い境内でしたが、明治初期の廃仏毀釈で伽藍と墓地以外を没収され、残った地は官有地に。さらには1943年(昭和18年)、京都の街を戦火から守るため、戦時特別政策により五条通を50メートル拡幅したことにより、伽藍など全てが取り壊され、墓地も含めて4分の1になり、現在の寺域になったそうです。

 このほど公開されるのは、「御本尊 阿弥陀如来像」と、「仏涅槃(ねはん)図」です。阿弥陀如来像について、岩田住職は第二次世界大戦中のこんな話をしてくれました。「寺にとってはご本尊さまが命です。戦争が終わる少し前に寺に帰ってきた父は、空襲警報が鳴るたびに、お墓の敷地にある井戸の中に入り仏像を抱えて守っていたそうです」

 さまざまな苦労を乗り越え、西念寺がここに存在し、本尊がまつられている。それがいかに尊いことか、話を聞くとじわりと伝わってきます。坐った姿勢の阿弥陀さまは、像高60.2センチ。玉眼という水晶の眼が入っており、鎌倉初期の仏師で運慶の長男、湛慶(たんけい)の一派が作ったと思われる、との事です。また、この仏さまは手指で示す印相(いんぞう)が特徴的です。両手を胸の前まで上げ、親指と中指で輪を作っています。指先を上に向けている印相が多いのですが、この阿弥陀さまは前方向に差し出しており、このような手の形で現存している例は少ないそうです。正面からは手のひらが見え、しなやかな指は今にも動き出しそう。

 岩田住職は、阿弥陀如来像を前に「すごくいいお顔をされているんです」とほほ笑みます。「下から見上げるとこわい顔に見えますが、正面から見るとやさしい顔です」とも。取材当日、阿弥陀さまは仏壇の中で、見上げる位置にありましたが、特別公開期間中は仏壇の前に出され、正面から拝観できるそうです。

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◆「100年に一度見つかるかどうか」とびっくり

 そして、今回初めて一般公開される仏涅槃図は、平安後期に作られたと判明した貴重なものです。西念寺では毎年2月15日、この涅槃図を本堂に掛けて、涅槃会を開いていますが、今から4年前、京都国立博物館の仏画の研究員、大原嘉豊氏が調査。すると、制作時期は平安時代、高野山が所蔵する国宝の涅槃図と、東京国立博物館にあるものとの間の時期に制作されたものだとわかり、金や銀をきめ細やかに利用した技法に「100年に一度見つかるかどうか」と研究員が驚いたそうです。

 大原氏は、その時の記録を研究誌「佛教藝術」309号にこう書いています。「平成二十一年八月二十四日、岩田廓然住職の御厚意で拝見を許され、本作が平安時代後期にさかのぼる優作であることを確認した。周知の通り平安時代の涅槃図の遺例は寥として少なく、美術史上貴重な地位を占めると考える」

 それを知った住職はびっくり。それまで涅槃会には原物を掛けていましたが、すぐに複製を作ったそうです。西念寺は16世紀に創建されたようですが、そこから更にさかのぼった12世紀後半に作られた涅槃図が何故ここに伝わっているのかは、わからないとの事。西念寺は「江戸時代に類焼して、過去帳が全部燃えてしまった」という事情があり、その歴史には謎が多いようですが、その最たるものがこの涅槃図と言えます。

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◆「違和感」の正体は

 この日の取材では、仏涅槃図を特別に見せてもらうことができました。縦172.5センチ、横207.7センチの壁一面を覆うほどの大きさの涅槃図。絹地に描かれたこの作品は、近付くと、お香や墨などが混ざったようなにおいがしました。

 釈迦の入滅(死)を描いた涅槃図。中央には釈迦が横たわり、左上には白い月が描かれています。が、よく見ると、月の上部がわずかに切れています。「佛教藝術」の大原氏の記述には、「月輪部分は、後からこの位置に補入せられたものと考えられる」とあります。月の半分ほどの面積に、彩色や絹の素地を補った跡が見られるそうです。

 「ここに『違和感』があるんですよ」と住職は下の方を指して言います。い・わ・かん!? その部分を眺めてみても、一般人の目線では何のことだか分からず、頭の中がはてなマークでいっぱいに。「ここに黒い衣を着た、お坊さんがいるんです」と岩田住職。たしかに釈迦の手前に、黒衣を着て、合掌をしている僧侶が小さく描かれています。「これは非常に違和感があるんです。普通はインドのお坊さんたちが描かれるのですが、これは黒い衣を着ているから日本のお坊さんです。おそらくこの方が、この図を作るときの施主(せしゅ)ではないだろうかという話です」。思わず、ほおーっとうなずく私たち。背中を向けてちょこんと座っているお坊さまが、とてもお茶目な存在に見えてきました。

 現在、岩田住職が懸念しているのは、仏涅槃図の劣化。この貴重な文化遺産が、国の文化財としての指定を受けて修復され、後世へ伝えていくことを願っています。そもそも「京都非公開文化財特別公開」は、公益財団法人 京都古文化保存協会が文化財保護の目的で年2回行っているものです。拝観料は「貴重な文化財を未来に伝えるため、保存修理・修復・維持管理等に充当されております」(「拝観の手引」より)との事。

 初めて一般に公開される西念寺で、「100年に一度」と言われる貴重なお宝に出会う。これは、またとない機会です。更には出会えてよかった、というだけでは終わらない、日本の文化財を守る活動に参加できたという充足感も味わえることでしょう。

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【西念寺】
住所:〒600−8191 京都府京都市下京区高倉通五条下る堺町35
TEL:075−351−0017
アクセス:
◆地下鉄五条駅より
徒歩約5分

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◆京都非公開文化財特別公開◆
【期間】11月1日(金)〜11月10日(日)
 ※一部公開期間・時間が異なるところがあります
「上賀茂神社」 庁ノ舎は11月1日から11月3日拝観不可
         高倉殿は11月4日から11月10日拝観不可
「真珠庵」   11月4日は12時30分より拝観不可
「清浄華院」  公開期間は11月1日から11月8日
「廬山寺」   大師堂は11月3日正午から午後4時
         本堂は11月4日午前11時から正午拝観不可
「冷泉家」   公開期間は11月1日から11月4日
「法然院」   公開期間は11月1日から11月7日
【時間】午前9時〜午後4時(拝観受付)
【拝観料/1カ所につき】大人800円、中高生400円 ※東寺のみ高校生700円、中学生500円
【主催】京都古文化保存協会・公開対象機関
【後援】京都市
【特別後援】朝日新聞社
【問い合わせ】〈協会〉075−561−1795
【協会ホームページ】http://www.kobunka.com/hikoukai2013aki.html
【朝日新聞デジタル特設ページ】http://www.asahi.com/koto/

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