中村江里子 パリからあなたへ

アムールの国の“愛の南京錠”

  • 文 中村江里子
  • 2014年6月10日

写真:これがポンデザールです。後ろにカデナが見えますよね? これがポンデザールです。後ろにカデナが見えますよね?

写真:セーヌ川左岸から橋を見ると、このような感じです セーヌ川左岸から橋を見ると、このような感じです

写真:おびただしい数のカデナがフェンスにかけられています。圧倒されると同時に、本当に重さに耐えられるのかと安全性の問題が心配になります おびただしい数のカデナがフェンスにかけられています。圧倒されると同時に、本当に重さに耐えられるのかと安全性の問題が心配になります

写真:分かりにくいかもしれませんが、ピンクのシャツを着ている男性のグループは、ワインやシャンパンを飲みながらピクニックを楽しんでいました。この日は久しぶりに快晴の日曜日だったので、とっても楽しそうでした 分かりにくいかもしれませんが、ピンクのシャツを着ている男性のグループは、ワインやシャンパンを飲みながらピクニックを楽しんでいました。この日は久しぶりに快晴の日曜日だったので、とっても楽しそうでした

写真:私が撮影をしている横でも何組ものカップルがカデナを付けていました。やはりフランス以外の国からの観光の方が多かったです 私が撮影をしている横でも何組ものカップルがカデナを付けていました。やはりフランス以外の国からの観光の方が多かったです

写真:このように二人の名前と日付を入れるようです。色々な種類のカデナがあると驚きました。
橋の近くではカデナを売っている売店も
このように二人の名前と日付を入れるようです。色々な種類のカデナがあると驚きました。 橋の近くではカデナを売っている売店も

写真:これはグランパレの近くにあるアレクサンドル三世橋。銅像の“蟹”の足にもカデナが付けられていました。ここだけでなく、ほかの銅像にも付いていて大変なことになっています
(写真 中村江里子) これはグランパレの近くにあるアレクサンドル三世橋。銅像の“蟹”の足にもカデナが付けられていました。ここだけでなく、ほかの銅像にも付いていて大変なことになっています (写真 中村江里子)

 パリに住んでいて、わざわざ行くことはあまりないのですが、たまに車で近くを通る場所にPont des Arts(ポンデザール、芸術橋)があります。パリ市内、セーヌ川左岸のフランス学士院と右岸のルーブル宮殿に架かる橋で、数多くある観光名所の一つです。なぜ芸術橋なのかというと、ルーブル宮殿は第一帝政時代に「芸術の宮殿」と呼ばれていたためです。その歴史は1802年にまでさかのぼり、戦時中の爆撃や数回にわたる船舶の接触事故などにより1979年に一部が崩壊。1982年から84年にかけて工事が行われ、現在の形になったといわれています。

 パリで初めての金属製アーチ型の橋で、歩行者専用の橋です。金属と木の通路がモダンでありながら温かみのある雰囲気で、日本ではなかなか見かけることがない光景を目にすることもあります。それは、晴れた日にはワインやサンドイッチを持ち寄って、橋の上に座ってピクニックをしている人たちがいることです。

 ロマンチックな橋でもありますから、恋人たちがパリの景色をバックに肩寄せあって撮影もしています。実は今、深刻な問題となっていることがあります。この橋のフェンスいっぱいにCadenas d’Amour(カデナ ダムール、愛の南京錠)がかけられていることです。どうやら2008年頃からのようですが、恋人たちが永遠の愛を願い、カデナに二人の名前を書き、フェンスに付けて鍵をかけ、その鍵をセーヌ川に投げ込むのです。このカデナが今では橋のフェンスを埋め尽くし、横のフェンスにまで広がり、さらにはほかの場所にまで派生しています。

 話だけを聞いていると、いかにもアムール(愛)の国・フランスらしく、パリのロマンチックな雰囲気とともに素敵だと思えるのです。が、あのおびただしいカデナの数を見ると、アムール以前に安全性の問題が心配になります。付けられたカデナの重量は数十トンにもなるといわれています。当然、フェンスはもう何度も壊れ、その度に修理が繰り返されているのです。

 川に投げ込まれた鍵の数もどれくらいになるのでしょうか。カデナが付いたフェンスに手をかけて撮影しようとしたらフェンスが壊れた、なんてことが起きる可能性もゼロではありません。

 この“愛の南京錠”はパリに限ったことではないのです。ご存じでしたか? 2000年頃から大都市でみられる現象のようです。ロンドン、ニューヨーク、ソウルなど。現在、ローマでは罰金を取られるようになったそうです。フィレンツェのポンテベッキオでは歴史的建造物を守るため、カデナは全て外されました。モスクワでは橋の横にメタリックの木をつくり、そこに付けてもらうようにしたといわれています。恋人たちにとっては大切な思い出でもあり、また二人の記念となるイベントなのでしょう。私も恋人と観光でパリを訪れていたら“愛の南京錠”を用意してきていたかもしれません(でも私はあまりロマンチックなタイプではありませんが)。

 景観と安全性の問題を訴えている人たちもいますが、現時点では何の規制もなく、ますます増え続けています。以前、パリ市の助役が「パリはロマンチックな愛の街だから、カデナを一方的に取り外すことには抵抗がある」と発言したようです。その気持ちもとってもよく分かります。みんな願いを込めてカデナを付けているのですから。でも、カデナを外すには鍵を壊さなければいけません。景観を壊すことなく、安全性も確保される方法を“アムール”の国の人たちが見つけられることを祈ります。

 次回は6月24日の配信を予定しています。

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PROFILE

中村江里子(なかむら・えりこ、Eriko Barthes)

1969年東京都生まれ。立教大学経済学部卒業後、フジテレビのアナウンサーを経て、フリー・アナウンサーとなる。2001年にフランス人のシャルル エドワード バルト氏と結婚し、生活の拠点をパリに移す。妻であり、3児の母でもある。現在は、パリと東京を往復しながら、テレビや雑誌、執筆、講演会などの仕事を続ける。著書に『エリコ・パリ・スタイル』(マガジンハウス)、『ERIKO STYLE暮らしのパリ・コラージュ」(朝日新聞出版)、『女四世代、ひとつ屋根の下』、『マダムエリコロワイヤル』」(ともに講談社)、新刊『ERIKO的 おいしいパリ散歩』(朝日新聞出版)と多数。


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