本音のマイホーム

「住宅ローン=借金=悪」の意識がもたらす不自由

  • 文 山下伸介
  • 2016年9月28日

写真:     

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 住宅ローンと聞くと、大きな借金の代名詞のように受け取る人も多いだろう。さらに「借金は悪いこと」という常識の刷り込みもあり、住宅ローンを借りることは極めてネガティブに捉えられがちだ。現に、私のある後輩編集者は、子どもが生まれるのを機にマイホーム購入を考えたが、彼女の夫は極度のローン嫌いで全く取り合ってもらえなかったそうだ。夫の言い分は、「住宅ローンを借りると利息がかかるので定年までに貯蓄して現金で買えば無駄がない」というもの。たしかに将来現金で買えば利息は一銭もかからない。その一方で貯蓄がたまる定年間際まで賃貸の家賃を払い続けることになるのだが、彼にとってそれは問題ではなく「借金の利息を払う」ことへの嫌悪感が大きかったそうだ(数年かけて最終的には夫の説得に成功したようだが)。

 家賃を払い続けるのと住宅ローンを借りて利息を払うのとどちらがトクか、試算すれば答えは明確に出る。しかしここでは、損得比較というより住宅ローンというものの本質についてお伝えしたいと思う。なぜならむやみに住宅ローンを毛嫌いしていると、かえって人生において経済的な不自由を強いられることになりかねないからだ。

 住宅に限らずモノやサービスを買うと、その価格相応の対価を得られる。1000円のモノには1000円分の、1万円のサービスには1万円分の対価がついてくる。買い物の決済をすべて現金で賄おうとすると、その時々に現金で用意できる金額が得られる対価の上限となる。したがって3000万円の家を買うことでマイホームに住めるという対価は、手持ち資金3000万円がない場合、たとえば年間100万円を30年間ため続けなければ得られないことになる。手取り年収が500万円の人ならば、収入の20%を自由に使えない時期が30年も続くわけだ。しかもその間、残り80%から家賃を払い続け、新居に住むことも30年間お預けをくらう。人生の約3分の1にわたって大きな不自由をこうむると言っていい。

未来の所得を今使う仕組みが住宅ローン

 しかし住宅ローンを利用すれば、自身の年収や貯蓄の何倍もの対価を「今すぐ」享受することができる。ある意味、年間100万円を30年間ため続ける未来の所得の一部をまとめて「今使う」ようなものだ。ただし、不確実な未来の所得を今使うのに、当然タダというわけにはいかない。それを可能にする手数料が利息と考えたらいいだろう。ちなみに3000万円を金利1%、30年ローンで借りた総利息は約474万円だ。小さい額ではないが、30年分の家賃と比べれば決して高くはないだろう。

 もうひとつ認識しておきたいのは、住宅ローンは単なる借金ではない、ということだ。3000万円の住宅ローンを借りれば、当然ながらその対価として住宅という資産を得る。住宅は売却すれば換金化できるので、正味の負債(純負債)は3000万円の何分の1かにすぎない。そして何より、買った時点から快適な家で暮らす時間を得られることが住宅ローンを借りる最大の対価だろう。マイホーム購入適齢期といえる30代からの30年は多くの人にとって人生の充実期だ。二度とやり直しがきかない人生の大切な時期を快適なマイホームで暮らす価値は、利息をケチって得る額よりはるかに大きいと私は思う。住宅ローンは、たしかに誰もが嫌悪する「借金」の一種ではあるが、人生の価値を高める道具として上手に活用したいものだ。

PROFILE

山下伸介

山下伸介(やました・しんすけ)

エディター&ライター。京都大学工学部卒。株式会社リクルート入社。2005年より週刊誌「スーモ新築マンション」の編集長を10年半務める。これまで優に1000名を超える住宅購入者、検討者の実例を見てきた経験から、損得では語れない住まい選びの勘所に詳しい。2016年に独立し、住宅関連テーマの編集企画や執筆、セミナー講師などで活動中。一般財団法人住宅金融普及協会住宅ローンアドバイザー運営委員(2005~2014年)も務めた。ブログはこちら

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