3月初めから突然の休校となり、お子さんが長い休みを過ごしているご家庭が多いことでしょう。 いよいよ新学期です。2020年度は、小学校の教育課程が変わる大きな節目にあたります。その変化のひとつが、小学校で始まる「プログラミング教育」です。教室は、いったいどんな様子になるのでしょうか?
「プログラミング」は子どもに難しくないの?
「プログラミング」というと、パソコンに向かって英語の呪文のような文字をカタカタとひたすら入力している様子をイメージする人が多いと思います。確かにプロの世界ではプログラムのコードを記述していくのですが、子どもたちがいきなり文字だらけのプログラミングに取り組むのは、大変なことです。
例えば、自転車に乗る練習をする際、小さな補助輪付き自転車から始めるように、子どもたちが気軽にプログラミングについて学ぶことができる、様々な工夫を凝らしたアプリや教材が開発されています。当初は海外の教材を日本語に翻訳したものが主でしたが、最近では国内で開発されたものも増えてきました。これらのツールは、日本語で考えながら、主にマウス操作でプログラムを作れるようにできています。
また、画面内のキャラクターを動かしたり、リアルなロボットを動かしたりするプログラムを作ることができるので、子どもたちが楽しくクリエーティブな気持ちで取り組むことができます。

このように子どもが無理なく取り組めるアプリや教材があるので、難しいことが始まると心配する必要はありません。
「プログラミング教育」の成績がつくの?
さて、新学期になると、お子さんがプログラミングの教科書を持ち帰り、時間割に「プログラミング」の教科が加わり、宿題も出るのでしょうか。実は、どれも「NO」です。「プログラミング」という新しい教科ができるわけではないのです。もちろん成績がつけられることもありません。
「プログラミング」という授業が新しくできて毎週定期的に行われるのではなく、主に、すでにある教科の時間にプログラミング教育が行われます。学校ごとに、教科の学習目的と関連づけたり、別に時間を設けたりして、プログラミング教育の計画を立てることになっています。
これでプログラミングの技術が身につくのか、疑問に思う人もいるのではないでしょうか。実は小学校で始まるプログラミング教育は、職業訓練のように一定の技術を身につけることを目指しているわけではありません。プログラミングならではの論理的思考力を身につけたり、身近なプログラムの働きに気づくことなどを重視しています。
論理的に物事を考える力は、国語や算数など他のどの教科でも日々学習しているわけですが、プログラミング教育では、「コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力」である「プログラミング的思考」を育むことを狙いとしています。
「プログラミング的思考」とは
自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力
(有識者会議「議論の取りまとめ」文部科学省HPより抜粋)
学校によって違いが出る可能性が高い
具体的に何年生がどの教科で、どのぐらいの時間をかけ、どのような授業を行うかは、各学校の計画に任されています。そのため、授業の内容は、学校によって大きく違いが出ることが予想されます。市区町村の教育委員会が共通のカリキュラムを作るケースもあるので、自治体による違いも生まれるでしょう。
すでに先行実施している学校を見ても、全学年で取り組んでいるケースもあれば、高学年のみというケースもあります。実施する時間数もかなりの差が出ることが予測されます。
お子さんが学校でどのようなプログラミング教育を受けているか、もしかするとよくわからないまま過ぎてしまうかもしれません。気になる場合はぜひ機会を見つけ、担任の先生や校長先生に質問してみてください。

家庭でできることは?
「家庭でもプログラミング学習をするべき?」「プログラミング塾に通わせた方がいい?」などと慌てる必要はありません。学校でのプログラミング教育を通し、豊かな体験をする機会が増えるのだと思っていれば十分です。
むしろ、ぜひこの機会に家庭で意識してほしいのは、情報の使い手としての力をつけること。例えば、お子さんが、インターネット上の情報を正確に選び取ったり、パソコンを思考や創作の道具として使ったり、情報の発信者・表現者として責任ある行動をとったりする力をつけることをイメージしてみてください。
このように情報を積極的に使いこなす力は、新しい教育課程では「情報活用能力」と呼ばれ、読み書きと同じような基礎力として重視されています。

上図を見ればわかるように、プログラミング教育というのは「情報活用能力」の3つの要素のうちのひとつなのです。プログラミングに限定せず、情報活用に関わる力をバランスよく身につけることが大切です。
今後は、学校では普通の授業でパソコンを使う機会が今まで以上に増えるでしょう。すでに、すべての小中学生に1台ずつパソコンを配備している自治体もあります。子どもたちが自分のパソコンを持ち、宿題をデータで提出し、デジタル化された教科書で勉強する未来に向けて動き出しているのです。
スマートフォンやタブレット端末があると、子どもたちはYouTubeやゲームに夢中になり、やめさせるのに必死というご家庭が多いのではないでしょうか? 便利なものとはわかってはいても、親にとって、デジタル機器は子どもから引き離したいものとなりがちです。
しかし、少し視点を変えると、スマートフォンやタブレット端末、パソコンなどのデジタル機器は、“書くことや創ることのツール”、“豊かな情報源”になります。
学校や家庭で、デジタル機器を積極的に使いこなす機会を増やすことは、子ども達が情報の発信者や情報技術の作り手の視点を持つことにつながります。プログラミングはその貴重な経験のひとつ。ぜひ親子で楽しみながら体験してみてください。
PROFILE
株式会社Studio947のライター、デザイナー。技術書籍や記事の執筆、ウェブデザインに携わる。自社で「知りたい!プログラミングツール図鑑」「ICT toolbox」を運営し、子ども向けプログラミングやICT教育について情報発信している。
