「プログラムを書くこと自体は些末な話」 第一人者、利根川裕太さんが語るプログラミング教育の本質

文:古川雅子、撮影:松嶋愛

新型コロナウイルスの感染拡大で休校が続き、小学校でスタートするはずだったプログラミングをはじめとする情報教育は、出ばなをくじかれた格好になった。しかし、在宅で学びを進めるためオンライン授業の必要性が一気に高まり、情報教育の価値が逆にクローズアップされたとも言える。

5年前から、その普及に邁進し、文部科学省の有識者会議委員も務めるプログラミング教育の第一人者、特定非営利活動法人「みんなのコード」代表の利根川裕太さん(35)は言い切る。「プログラムを書くこと自体は些末(さまつ)な話だ」。その言葉に込められたプログラミング教育の本質はどこにあるのか、語ってもらった。

「学校に“未来”を取り戻したい」

「あなたのご自宅に、コンピューターは何台ありますか?」

インタビュー冒頭、利根川さんは、いきなりこんなクイズを出してきた。「2、3台……」と考えあぐねていると、利根川さんはいたずらっぽい笑顔で助け舟を出してくれた。

「1台と答える人もいます。多くて5〜6台。たいていの人は、パソコンやタブレットの台数をあげるんです。しかし、エアコンやテレビ、冷蔵庫、洗濯機など、電気機器は全てコンピューターで制御されています。それだけ身近なところで動いているのがコンピューターなんです」

これまで学校教育では、インターネットでの調べ学習など、コンピューターを活用する授業は行われてきた。しかし、どういう仕組みでそれが動いているのかといった「コンピューターの内側」のことは、教えてこなかった。

そんな中、満を持して始まろうとしているのが、学習指導要領で今年度から位置づけられた小学校でのプログラミング教育だ。利根川さんが立ち上げた「みんなのコード」は、こうした動きを先取りする形で、2015年からプログラミング教育の普及促進に取り組んできた。

企業や行政と協力しながら、教育者という、“人”のサポートとしては、教育関係者向けのシンポジウムや研修などを全国で実施。“テクノロジー”のサポートとしては、独自に開発した「プログル」という算数向けのプログラミング教材などを提供してきた。

全国には小学校が約2万校ある。その先には、約630万人の児童がいる。すべての子どもたちに情報教育を行き渡らせていくことを「チャレンジングなミッション」と語る利根川さんの熱意の裏には、危機感もある。

「グローバルな視点でいうと、英国ではすでに『コンピューティング』という教科を導入しているし、韓国でも『情報』という独立教科がある。この10年間で、フェイスブック、ツイッター、LINEなどのサービスが普及して、IT産業の成長は著しいが、日本では学校の方が社会から置いてけぼりになっているのが現状。昔は学校の方が“未来”を感じる場所だったはずです。僕は学校に“未来”を取り戻したい」

元教員を含む総勢10人いる「みんなのコード」のスタッフたちは日々、全国を行脚し、プログラミング指導教員の育成に取り組んでいる。

「僕らは、ワクワクした教育を採り入れてもらう“最初のきっかけ”を提供できればと考えています。そもそも、情報教育に興味を持っている先生は少数派なんですが、なかには高い志を持った熱血な先生もおられます。僕らはそうした方々が孤立せず、継続して活動が続けられるようサポートしたい」

トップレベルの授業とは

こう語る利根川さんは、トップレベルの授業をしている公立校の事例を紹介してくれた。栃木県小山市の小学校教諭、小島寛義さんの授業では、子どもたちがグーグルのカリキュラム「未来の学びコンソーシアム」を使い、AI(人工知能)で身近な暮らしを便利にする課題に取り組んでいた。ある児童のグループは、図書館の本のラベルをコンピューターにかざすと、画像認識のAIが「この本は図書館の439番の棚です」と見分け、片付ける場所を教えてくれるプログラムを開発していた。

利根川さんは、その時の動画を見せながら、「ちょっとしたベンチャー企業のピッチみたいですよね」と絶賛した。

「まずは課題を調べるのに、先生方に1人ずつインタビューして、『75%の先生が、これこれこういう課題で困っている』みたいなことに気づく。じゃあ、生活に役立つものを自分たちの手で解決してみようと、プログラムを書いてみるわけです。子どもたち自身が、暮らしのまわりの困っていることを見つけて確認し、その問題の大きさを意識した上で、処方箋(せん)になりそうな仕組みを実際に開発してみて、ぽんと差し出している。そこまでの一連のプロセスって、まさに、実社会で使われているプログラミングの本質ですよ」

利根川さんが最も称賛したポイントは、プログラムを書くこと自体ではなく、課題を解決しようという姿勢や視点の方だった。最近、プログラミング教育を勧める根拠として、「論理的思考力を育む」ことが前面に打ち出されることにも違和感を持っているという。

「この子どもたちは、結果的に論理的思考力がついたとは思うけれど、構文を使ってプログラムを書いたとか、その過程で筋道を立てて物を考えたとかいうのは、わりと些末な話だと思います。論理的思考力は、必要条件であって、ゴールでは決してない。あの授業が素晴らしかったのは、試行錯誤しながら、生活に役立つものを自分たちのアイデアで表現できたこと。自分たちの課題解決力を積極的に使っていく態度を育めていること。ここに尽きます」

自分のプログラムが動いてくれることに感動

プログラミング教育界の顔となっている利根川さんだが、もともとはエンジニアではない。慶応義塾大学経済学部を卒業後、森ビルに入社したが、4年で印刷・広告を手がけるベンチャー企業に転職した。

「ベンチャーに移り、必要に駆られてプログラミングをかじったら、思いのほか手応えを感じました。自分が書いたプログラムが、ウェブサイト上で24時間365日動いてくれることに、単純な驚きを感じました。それがいまのキャリアの原点になっています」

そこで、米国発のプログラミング教育推進活動「Hour of Code」を知った。「まずは1時間、コード(プログラミング言語)を書いてみよう」という運動だ。「面白そう」と飛びついた利根川さんは、2014年、コワーキングスペースを借り、子ども十数人を集めてワークショップを開いてみた。子どもたちが集中してプログラミングに取り組んでいる姿をみて、利根川さんは、直感的に手応えを感じ、「みんなのコード」を設立したという。

利根川さんの予感が的中するように、情報教育はいま、脚光を浴びるようになった。利根川さんはインタビューの最後をこう締めくくった。

「僕らはこれまでに、シンポジウムや研修会で1万人ぐらいの人たちにお話しする機会を重ねてきました。でも、まだまだです。今後は中学校、高校の先生向けの研修も本格化していくし、2030年の指導要領向けの活動もしていきたい。公教育での情報教育をどうにかしなきゃいけないなと思うと、まだ僕の中で進行度は、10%もいっていない感覚です」

PROFILE

利根川 裕太(とねがわ・ゆうた)

特定非営利活動法人「みんなのコード」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒業後、森ビル株式会社を経て、ラクスル株式会社に入社。2015年に特定非営利活動法人「みんなのコード」を設立。2016年より文部科学省「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」委員。著書に『なぜ、いま学校でプログラミングを学ぶのか-はじまる「プログラミング教育」必修化』(技術評論社)などがある
「みんなのコード」公式サイト:http://code.or.jp/

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