「デザイン的思考が生き抜くヒント」 グラフィックデザイナー・佐藤卓さんに聞く、ニューノーマルの学び方

文:高橋有紀、撮影:山田秀隆

オンラインとリアルが入り交じった世界を生き抜くことが「ニューノーマル(新しい日常)」になりつつあるいま、次世代を担う子どもたちは、どんなスキルや思考方法を身につければいいのでしょうか。

子ども向け人気番組「デザインあ」(NHK Eテレ)で総合指導を務めるグラフィックデザイナー・佐藤卓さんは、「デザイン的思考」がそのヒントになると提唱しています。「世の中の物事は全部つながっている」という佐藤さんに、その真意や家庭で実践できる学びのコツについて、語ってもらいました。

デザインをすることは、気遣うこと

――NHK Eテレの番組「デザインあ」の監修に長く携わってこられていますが、子どもたちに、どんなことに気づいてもらいたい、という狙いがあるのでしょうか?

これまで、いろんなデザインの仕事に関わってきて、「デザインと関わりのない物事は何ひとつない」ということがよくわかりました。生活の中にはありとあらゆるデザインがあります。目に見えるデザインもあるし、目に見えないデザインもある。仕組みとかシステムとか、もちろんプログラミングも、すべてデザインです。そこら中にデザインは潜んでいるということを、小さい頃からなんとなく気づいてもらえたら、成長するにあたってデザインマインドを育んでもらえるんじゃないかと思っています。

――「デザインマインド」とは?

デザイン的思考、デザイン感覚と言ってもいいかもしれません。ありとあらゆる物事、文字一つ取っても、ここにある机も照明も、全部これらは誰かがデザインしたものです。デザインってこれからのことを考えることなんですね。「もっとこうしたら良くなるんじゃないか」って先々のことを考える。「気遣い」と言い換えてもいいと思います。「こうしておいてあげるともっと座りやすいだろうな」と考えて椅子をデザインするわけだし、「こうしてあげるともっとスムーズにコミュニケーションが成立するだろうな」って考えてアプリを開発したりサービスを考えたりする。これから先どうなるかをシミュレーションして、今のうちにやっておく。これってつまり気遣いですよね。気遣いによって、つまりデザインによって、人がスムーズに生活を営めるようになる。いちいちデザインって意識しなくてもいいかもしれないけど、でもそれは実はデザインなんだっていう風に思えると、ありとあらゆるものごとを自分にとって良い方向に、もしくは社会にとって良い方向に持っていくのに役に立つんじゃないかと思います。つまりデザインとは、人とモノ、人と人との関係を「より良くつなげる」ための観察・思索・知恵・行動のプロセスなんです。

――佐藤さんは、ご著書などでも、デザインを教育の現場で生かしていくことができると訴えておられますね。

はい。デザインという授業を学校で教えたらいいと思っているんです。今は図画・工作・美術の中にデザインが入っていますが、美術の世界の中にデザインがあるという考え方自体は、完全に間違っています。僕らの時代はそう刷り込まれてきたけど、これからを生きる子どもたちにはできるだけ早くデザインがどういうものなのか知ってもらいたい。それで「デザインあ」という番組を実験的にスタートさせたんですが、意外に多くのお子さん、親御さんが見てくれました。

日本全国で巡回中の「デザインあ展」のロゴ。デザインの視点や考え方を体験できる展覧会で、子どもも大人も夢中に。(提供=TSDO)

――デザインの授業というと、どんなものをイメージされているんでしょうか?

デザインってありとあらゆるものをつなぐことができるので、実はすべての科目のハブになることもできると思っています。デザインを気遣いと考えれば、デザインの授業の中で道徳も学べてしまう。国語算数理科社会、と分けられてしまっていますが、そもそも世の中の物事は全部つながっています。街に出れば看板もあるし信号もあるし、それも全部デザイン。右側通行・左側通行という仕組みもデザインです。それがなかったら街がスムーズに動かないでしょ。あとは語れる先生がいるかどうか。

――先生はとっても大変そうです(笑)。

でも、レールに乗っかった授業を延々やっていてもね、おもしろ味は全然感じないでしょう。例えば、今は別々になってしまっている、科学と芸術だってつながります。芸術の世界に科学的な要素が入っている素晴らしい作品はたくさんありますから。そこには当然数学も入ってくるし。今の競泳用の水着の表面は、サメの肌を分析して作られています。水をできるだけ摩擦なく後ろに流していく。サメの肌の研究から生まれたものだけど、これも科学とデザインが合体しています。

――デザインの授業の前に、小学校ではプログラミング教育が必修化されました。

プログラミングも、デザインの授業があればその中で学べると思うんですよ(笑)。プログラミングというと、「コンピューターっぽく」なっちゃう。デジタルな印象があるでしょう。私は、コンピューターを使ってデザインの作業はしませんが、頭の中ではデジタルもアナログも境目がまったくないんです。「デジタルネイティブ」という言葉ができてしばらく経ちますが、今の子どもたちはパソコンも当たり前に使いこなしている。デジタルとかアナログっていう言葉はそのうち消えると思います。それぐらい、既にインフラになっている。大人も子どもたちがどんな感覚なのか、学んでアドバイスの仕方を考えないといけないと思います。

「おもしろい!」の入り口を、大人が作ってあげる

――佐藤さんご自身がデジタルの世界に触れたきっかけをお聞きできますか。

大学の同期に、今はメディアアーティストとして活躍している藤幡正樹がいたんです。友達だった彼が大学時代に突然コンピューターを始めて。まだパソコンなんてない時代です。今のパソコンの能力の百分の一もない、でも大きさだけは巨大なコンピューターを使って、コンピューターグラフィックスでいろいろ作り始めた。それで僕も興味を持ちました。「この技術でこういうものが作れる」ってわかると、頭の中が、思考がデジタルになるんです。自分が使える使えないは関係ない。そういう思考がインプットされて、「これができるんだったら、こういうことできるよね? やってよ」って。彼はもう第一人者だったので僕がやる必要はなかったんです。

――頭の中のイメージを、できる人に伝えるということですか?

そうそう。自分ができるできないは関係なくて、世の中ではこういうことが今できる、と知っていることが重要で。できなかったらできる人と一緒にやればいいんです。「デザインあ」もそうやって最先端の人たちと一緒にやっています。そこにはもうアナログもデジタルも関係ない。分けることそのものがね、さすがに古いと思います。思考が固まっちゃっている上の世代の人たちは多いんだけど、私の場合はラッキーなことに若いときにメディアアーティストとして最先端の人間が隣にいた。そこで思考がジャンプしたというか、プラスになりましたね。

多くのデザインを手がけている佐藤さんは、手描きのデザイン画を見せながらスタッフにイメージを伝えて完成させているという。写真は「ロッテ キシリトールガム」のパッケージデザイン。(提供=TSDO)

――様々なツールがありふれている環境ですが、子どものためにどんな環境作りをするべきか。親御さんに何かアドバイスはありますか。

子どもたちって、大人よりも「おもしろい」って思うきっかけって圧倒的に多いと思うんですよね。ちょっと突っついてあげればすぐ反応します。だから、おもしろいと思えるきっかけをどれぐらい作れるかは、大人の責任。「デザインあ」という番組はまさに我々プロが本気になって子どもたちのために考えています。ほとんど子どもの頃に戻った感覚で、「こんなことやったらおもしろいんじゃない?」「おもしろそう! それやろうやろう!」って言って作っている。そうすると子どもにとっても「何これ!?」っていう「魅力的でわからない」ものができるんです。

――親がつまらなそうにしていたら、きっと子どもも興味を持たないですよね。

まずは親自身が夢中になっているものがあるかが大事だと思います。例えば、このコロナ禍で家にいて、親がつまらなそうにしていたら、子どもは「家にいることはつまらないことだ」と思いますよね。そう刷り込まれてしまう。でも、親が例えば昆虫採集が大好きで、虫を夢中で捕まえてきて観察していたら、子どもも「お父さん何やってるの?」ってきっと引きずり込まれていきます。もちろん外に出るのもおもしろいし、家にいたっておもしろがることはいくらでもできます。楽しみ方は無限にあるので、大人がどれだけいろんなことを楽しんでいるかどうか。「おもしろくない物事は何ひとつない」っていうのが、私が子どもたちに一番伝えたいことです。子どもたちがどんどんそういう思考になっていったら、それは日本という国の素晴らしい力になっていくと思います。

――大人たちが、きっかけを作ってあげるということですね。

「何だこれは!」っていう入り口さえあれば、子どもは勝手に入っていきます。そうしたらあとは調べるためのいろんなツールがある。図書館もインターネットもあるし、森を歩いてもいいし、詳しい人に会いに行ってもいい。そして、これがすごく重要なことですが、子どもが興味を持って「何これ」って入っていくとき、夢中になっているときは、自我がないんです。自我って、「おもしろい」の邪魔をする。「私が」「僕が」ってなった途端に、「私はこれ好きじゃない」「僕はこれ興味ない」って。人が「え、なにこれ、きれい! おもしろい!」って思っているときは自我が全くないですよね。哲学では「純粋経験」という言葉を使いますが、その状態がすごく重要だと思います。

PROFILE

佐藤卓(さとう・たく)

グラフィックデザイナー。株式会社電通を経て、1984年に佐藤卓デザイン事務所を設立(2018年4月に株式会社TSDOに社名変更)。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」などのパッケージデザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、「金沢21世紀美術館」「国立科学博物館」などのシンボルマークを手掛け、NHK Eテレ「にほんごであそぼ」アートディレクター、「デザインあ」総合指導、デザイン専門施設「21_21DESIGN SIGHT」館長およびディレクターを務めるなど、活動は多岐にわたる。著書に『クジラは潮を吹いていた。』(DNPアートコミュニケーションズ)、『塑する思考』(新潮社)など。

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