親を追い詰めない食育 デジタル教材に込めた開発者の思い

文:狩野さやか 写真:山田秀隆

「給食が無いから本当に毎日大変!」

新型コロナウイルス対策の長期にわたる休校期間、こんな声があちこちで交わされていました。家族で食事をする機会がより一層増え、「食」を見直す機会になったと同時に、重くのしかかる家事負担に悩まされた人が多いのではないでしょうか。

今の時代にあった食の学びとはどのようなものなのか。食に特化した無料のデジタル教材「食育の時間+(プラス)」の開発をしたNPO法人企業教育研究会理事長で千葉大学教育学部教授の藤川大祐教授(写真右)と、理事で千葉県富里市立富里南小学校の古谷成司校長(写真左)にお話を聞きました。

気軽に食育を学べる環境を

――食に特化したデジタル教材「食育の時間+(プラス)」は、アニメーションによるわかりやすい解説や、先生のための指導案、印刷するだけのワークシートなどが充実しています。どのような経緯で、この教材は開発されたのでしょうか?

藤川:2005年に食育基本法ができた際、日本マクドナルドとNHKエデュケーショナル、NPO法人企業教育研究会の三者が協働で「食育の時間」というデジタル教材を制作したことが始まりです。2019年3月に全面リニューアルをして「食育の時間+(プラス)」として公開しました。全部で7つのテーマを扱っていて、全てのコンテンツをウェブで公開しています。学校のインターネット環境を考慮して、同じコンテンツを収録したDVDと指導案冊子も教育現場向けに配布しており、昨年は約5000冊を配りました。

——学校ではどのようなシーンで使われていますか?

古谷:学級活動として食育を扱ったり、家庭科の学習とリンクさせたりすることもあります。アレルギーの話題は事故防止のためにも重要ですね。今は配慮が必要なお子さんが増えていて代替のお弁当を持ってくることもありますから、周りの子ども達の関心や理解、思いやりのためにも正しい知識が必要です。

藤川:他にも文部科学省が始めた「早寝早起き朝ごはん運動」の教材に使われたり、衛生管理についてはインフルエンザ対策の教材として使われたりもしています。また、食品ロスの話題は環境問題やSDGsとつながるので総合的な学習の時間でも活用されてますね。肥満や拒食症、孤食などの課題ともつながります。

テーマが7つ設定され、各テーマにアニメーションや解説動画、指導案などが用意されている。[(1)朝ごはんと生活リズム/(2)五大栄養素と栄養バランス/(3)エネルギーと食事/(4)食の安全と衛生/(5)みんなで知ろう!食物アレルギー/(6)楽しい食事のひみつ/(7)食品ロスを考えよう]

納得しながら食を学んでいけるように

——「食」というと家庭が担う部分も大きく、子どもの力が及ばないことも多いと感じます。子どもたちに食事の大切さを教えることの意義をどう捉えたら良いでしょうか?

藤川:子どものうちは家庭での食生活は親に依存するところが大きいですが、子どもが自覚することで多少なりとも変えていけることもありますし、いずれ大人になって自分や家族の食生活を考える時にも役立ててほしいと考えています。また、子ども達自身の身体の基礎を作っている大切な時期だから栄養をしっかり取ってほしいというメッセージもこめています。

古谷:朝食を抜く子どもが増えていますが、身体を作る時期に朝食が必要である意味など、ひとつひとつに科学的根拠を示すことを重視しました。全てのテーマについて必ず専門家に監修してもらい、その上でどうしたら子どもたちにわかりやすく楽しく伝えられるかを考え抜いて教材を作っています。

藤川:多くの場合、「朝食を食べた方がいい」という結論しか教わらないんですよね。それでは説得力がありません。「〜すべき」という発信ではなく、科学的根拠を示すことで、子どもたちの関心が高まります。

古谷:「エネルギーと食事」に関する授業を行った時には、やせ願望の強かった児童が給食を残さず食べるようになったり、肥満傾向の児童が運動するようになって減量につながったりという変化がありました。単に、「過剰なダイエットや肥満はダメだよ」と言うのではなく、成長や運動とカロリーの関係を科学的に説明したら、「自分はまずいな」と感じたみたいですね。「なぜダイエットはダメなのか」といった、「なぜ」の部分を授業で扱わなければいけません。

——子どもたちが“自分ごと”として捉えられるようにしているのですね。一方、「食育」という言葉のイメージには「親がちゃんとご飯を作るべき」というイメージがあり、多忙な保護者のプレッシャーになる可能性も感じます。

藤川:この教材では手間ひまかけて調理すべきというような話はしていません。手作りの方が良くて既製品がダメなんていう科学的根拠はありませんよね。栄養バランスを整えることや必要なカロリーをとることが重要なんです。

古谷:教材にはそもそも家庭のシーンが出てきません。アニメーションで学べるようにしていて、舞台である探偵事務所に訪れた人の悩みを解決するという設定にしています。

藤川:親ががんばれというような食育が多いんですよね。忙しい中で、親の負担を増やすような食育指導であってはいけないと考えています。食事のマナーや孤食についても、家庭を持ち出すことなく食事を楽しくするポイントを伝えるようにしました。現代の社会情勢にも配慮することを意識しています。

デジタル教材は、誰でも好きな時に学ぶことができる

——教材づくりのこだわりやデジタル教材の良さを教えてください。

藤川:私たちNPO法人企業教育研究会では、教育の専門家の立場でさまざまな企業と協力して教材開発を行っています。企業が持っているノウハウやメッセージを、どうしたら子ども達にわかりやすく伝えられるかをていねいに議論して、教育効果が最大になる手段を選んでいます。アニメーションか実写か、デジタルかアナログかもその都度違います。

古谷:例えば食の話題は、実写ドラマにすると自分の家庭を思い浮かべる可能性があります。自分のバックグラウンドを気にせずに話の世界に入ってほしいと考え「食育の時間+(プラス)」はアニメーションにしました。アニメーションは子ども達に影響力が強く、食い入るように見るんですね。難しい内容でも、楽しい演出のおかげで一度見せただけでも内容をしっかりつかんでいました。

(1)朝ごはんと生活リズムの動画より抜粋

藤川:デジタル教材の良さは、繰り返し誰でも同じ内容を安定して使えるところです。授業を行いやすいようにこだわってコンテンツ化を行い、先生が担うコミュニケーションの部分も生かされる教材を目指しています。「食育の時間+(プラス)」は指導案を含む全てのコンテンツを無料でインターネット上で公開しています。遠隔授業でも活用できますし、保護者の方もぜひ気軽にアクセスしてみてください。

——デジタル教材を制作し、それぞれ学校長としてIT活用を推進している視点で、家庭でのデジタル機器の活用についてアドバイスをいただけますか?

古谷:学校もITの活用には生徒指導上の不安を持つ傾向があります。現場では本当に多様な子ども達を相手にしていますから。ただ、負の部分が心配だから使わないのではなく、正の部分を見てどんどん活用していくことが重要だと思っています。問題が出た時には一緒に考えればいいんです。今回新型コロナ対応の休校で、学校からどんどん授業動画を配信したんですね。一般的に学校は平等主義が強く、全ての家庭に端末があるとは限らないので、配信を懸念することが多々あります。しかし、それを超えて、まずできるところから実行してみると、多くの家庭からアクセスがありました。

藤川:子ども達はデジタル機器をプライベートな使い方しかしていないんですよね。パブリックなことに使う経験をもっとたくさんすることが大切です。私が校長を務める千葉大学教育学部附属中学校では、新型コロナウイルス感染防止で対面の集会ができない代わりに、オンラインで各教室をつないで生徒総会を行うなど様々な場面でITを活用しています。文化祭もお客様をお招きできませんが、オンラインでの成果発表を予定しているので、発信者としての責任を考えるきっかけになるはずです。家庭でも、少しパブリックな使い方を意識してみてはどうでしょうか。例えば食事中の話題やニュースで何かわからないキーワードが出てきた時に、ぱっとスマートフォンで調べて辞書や地図の代わりにするということでも良いと思います。子どもに圧力をかけても良い効果はありませんから、親自身がぜひパブリックな使い方をするところを見せてあげてください。

    ◇

親を追い詰めない科学的な知識にもとづいた「食育」は、子どもにとっても親にとってもポジティブな学びとなりそうです。教材はテーマ別に参照できるので、調べ学習や自由研究などにも使うこともできて便利です。デジタル機器をパブリックな使い方をするということは、家庭で自信を持って活用するためにとても参考になる視点でした。

※食に特化した無料のデジタル教材「食育の時間+(プラス)」の公式HP:https://www.chantotaberu.jp/

PROFILE

藤川大祐

千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。東京大学大学院教育学研究科、金城学院大学助教授等を経て、2001年より千葉大学勤務、2010年より現職。ゲーミフィケーションをはじめ、エンターテインメントを生かした多様な教科・領域の授業づくり、教材づくりを研究。各地のいじめ防止対策にも関わる。NPO法人企業教育研究会理事長、NPO法人全国教室ディベート連盟理事長、千葉市教育委員等をつとめる。2018年より、千葉大学教育学部附属中学校長を併任。

古谷成司

小学校教諭、千葉県富里市教育委員会学校教育課主幹等を経て、現在は千葉県富里市立富里南小学校校長。NPO法人企業教育研究会理事。

子どもにも、親にも、新しい学びの時代へ

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