牧歌的なデンマークの徹底的なデジタル教育 日本が学ぶべきは?

北欧の小国・デンマーク。人口約580万人、九州を一回り大きくしたぐらいの平坦な国土に、童話に出てきそうなかわいらしい建物が多く立ち並び、街中を一歩出れば農地が広がる牧歌的な国です。童話作家として有名なアンデルセンがこの国出身で、童話に登場するイメージが湧いて出た背景もうなずけます。さまざまな調査による幸福度ランキングの上位常連国でもあり、しばしば1位にもなっています。

デンマーク9割、日本1割弱の衝撃

幸せがどこから来るのか、という話は別の機会に譲るとして、そんな穏やかな国ですが、なかなかどうしてデジタルという最先端のテクノロジーの活用は世界的にトップクラスであり、どんどんペーパーレスが進んでいます。そして教育現場でのデジタル活用ももはや常識となっています。

国立政策研究所のまとめでは、経済協力開発機構(OECD)の加盟国を中心に実施している国際学力調査「PISA2018」で、15歳の生徒が国語授業でパソコンなどのデジタル機器を利用する割合は、デンマークが87.7%と最も高く、日本は反対に14%と最低でした。数学の授業でも、デンマークは85.2%に対し、日本は7.8%に過ぎません。デンマークのデジタル活用率の高さにも驚きますが、日本のあまりの低さに愕然とします。コロナ禍によって、日本のデジタル化の遅れは、多くの人が実感することになりました。それでは、デンマークに目を転じてみましょう。

黒板はスマートボード

「みんな、画面をみて。タイマーの数字が終わるまでに課題をやってね」

デンマークのノアフュン・コムーネ(市に相当)にあるソナシュー国民学校(小中学校に相当)2年生の授業で、ペダゴー(社会生活支援士)の加藤幸夫さん(47)は、パソコンからスマートボードに映し出したタイマーの表示を示しながら、生徒たちに課題を終える時間を指示しました。そもそもスマートボードがほとんど存在しない日本の教室ではみない光景です。ちなみにペダゴーとは、教師とともに生徒の授業を担当し、かつ特に生活面を支える教員のことです。加藤さんはデンマークでペダゴーの資格を取り、およそ20年間、デンマークの国民学校で教えています。

加藤さんが「デジタル教育が推進されるようになって、大きく授業も様変わりしました」と話すように、デンマーク政府は2012年から5億クローナ(約90億円)を投入し、国民学校におけるデジタル活用を推進してきました。デンマークのような小さな国では、世界の中で埋没しないために“世界的な流れ”をどんどん取り入れていかなければなりません。

スマートボードに映されたタイマーをみながら個人ワークをする生徒たち(筆者撮影)

保守的というよりははるかに進歩的で進取の気性に富んでいます。一般的なデジタル活用の利点として、ペーパーレス化でき、無駄が省けます。国外に行くことなく諸外国のデータを活用できます。これらは小国にとっては大きな利点であり、それが教育現場にもあてはまるということです。

デジタル教育の推進の結果、スマートボードが各教室に設置されました。スマートボードは、パソコンとつなげ、音が出せます。チョークで黒板に書くように、専用のマーカーを使って、映し出した画面に書き込むこともできます。そのため、加藤さんが使っていたように終了までの残り時間を示すタイマーも画面に大きく映し出すことができるのです。いまや黒板はスマートボードに取り換えられているか、残っているとしても“掲示板”と化してしまっています。

特に理数系の教材は、ドリルに相当する多数のアプリが出てきており、授業でもよく使われています。教科書も製本されたものは存在しますが、電子版も同時に出されます。従って、授業では、教師と生徒がお互いに製本された教科書をみながら、というよりは、スマートボードに映し出したページをみながら進めるという光景は普通になってきています。

すべての生徒がノートPC

また、加藤さんが働くノアフュン・コムーネでは、国民学校の6~16歳までのすべての生徒にノート型パソコンが配られています。学校のサイトに入るには、IDとしてメールアドレスが必要であり、このメールアドレスは全生徒に個人的なものが分け与えられています。こうしたパソコンを活用し、授業中で相互にやり取りをすることも普通に行われています。生徒へ配布する機材はコムーネによっても異なりますが、生徒一人ひとりになにがしかのデジタルデータが活用できる機材が配布されるようになってきています。

さすがに低学年では容易ではないところもありますが、1年生でパソコンを使い始め、2年生からメールの送受信を教わるということです。そもそも、学校に通うほぼすべての生徒がスマホを持つようになっており、低学年からメールやSNSには抵抗がないともいえます。

一人ひとりに配布されたばかりのパソコンを初めて操作する国民学校0年生の児童たち(加藤幸夫さん撮影)

学校はフリーWi-Fiが常識

こうしたデジタル活用は、教室や授業のみではありません。筆者は2006年から2015年までデンマークに暮らし、「フォルケホイスコーレ」という成人を受け入れるデンマーク独特の学校で日本からの福祉・教育研修を受け入れる仕事をしていました。デジタル教育の推進がはじまってからは、研修生とともに訪れる国民学校や高校などほぼすべての教育機関で、Wi-Fi環境が整備されるようになってきました。学校独自で設置しているところもあれば、コムーネの公共ネットを利用したりとさまざまです。

「小学校でWi-Fiがフリーとは!!」

学校での整備がはじまったころは、その進展の速さにさすがに少々驚きでしたが、いまや、空港や駅、役所などと同様に整備されているのが当たり前の場所となっています。

これには、①授業で活用②授業以外での学習③生徒へのデジタル教育―といった理由が考えられます。①はこれまで話してきたとおりです。授業で教員が示す課題を自分のパソコンで調べながら解くことには不可欠です。②は、デンマークの授業はグループワークが多く、課題を作成するのに授業時間以外でも自分で調べる必要があり、他の仲間とデータを共有することもあります。そのためにもWi-Fiは不可欠なのです。

③は、これだけネット環境が当たり前の中では、教員、友達、親とのやり取りでSNSは不可欠です。そのためには、学校だからと制限するのではなく、授業時間以外でも利用できる環境は、空気と同じく当たり前のようになってきているのです。

教員も定期的に研修会

生徒へのデジタル活用が推進される陰で、デジタルを実際に取り入れて授業に活用していく役割を担うのは教員です。教員それぞれが対応をしなければなりませんが、誰もがそうした変化にうまく対応できるとは限りません。デジタルを導入しはじめたころは、教員にデジタル活用について学んでもらうため、夏休み明けの授業準備期間に、頻繁に講習があったそうです。テーマは一般的なネット利用からデジタル教材を使った授業まで多岐に分かれ、いまでも定期的に教科ごとに研修会が行われています。必要性と社会的なネット環境の変化とともに“拒絶反応”を示す人は減ってきているようです。

しかし、「60前後の教員にはいまでもデジタルの活用を拒み、授業ではアナログに徹している人もいますよ」と加藤さんは教えてくれました。ハードの整備だけではなく、人間というソフトの“修正”には、かなり時間がかかるようです。

一枚岩ではない現実も

筆者がデンマークで働いていた職場でもかつて、職員に半ば強制的にFacebookを始めさせました。まだLINEやTwitterなどがない時代にSNSをはじめる取っかかりのようなもので、これからの時代にSNSの利用は不可欠との理由からでした。しかし、活用して毎日でも投稿する者もいれば、まったく投稿しないが見るだけの者、投稿も見ることもしない者、とだんだんと分化していったのを覚えています。

「朝令暮改」をいとわず、新しいものをどんどん取り入れて、仕組みを変えていくデンマーク人とはいえ、必ずしも一枚岩ではないということですね。

デンマークの菜の花畑(筆者撮影)

日本が生き残るには

しかしながら、日本とデンマークの間に教育現場のデジタル活用についてこれだけの違いがあることは驚きです。デンマーク人が抱く日本の印象は「ハイテク国家」で、訪れる先で「こんな取り組みは日本では当たり前だろうけど」と前置きされることがしばしばです。そのたびに日本の現状を説明するとみな半信半疑の顔をします。

そもそも、デンマーク人は進取の気性に富んでいて、小国がボーダーレスの国際社会の中で生き抜いていくため、デジタル教育に大きなお金をつぎ込んでいるのは、さきに触れた通りです。

それに対し、やはり島国に暮らす日本人は「井の中の蛙」と感じます。新しいものをどんどん取り込んだり、新しいものを創造したりすることにあまり積極的ではありません。他国と陸を接することなく島に暮らしているため、ボーダーレスな国際社会、という感覚も全国民に浸透しているとはいえず、デジタル活用も世界的にみるとのんびりとした進み方です。

それに加えて、国が教育にお金をつぎ込む意識がとても低いと感じます。ヨーロッパの多くの国では国立大学は学費が無料というのは一般的ですが、日本では国立大学でも年間60万円近くの授業料を払わなければなりません。私立大、さらに理系ではなおさらです。

日本はもっと教育費に公費を回し、デジタル活用をはじめ、今生きている社会に合わせた教育環境を整備しなければ、いずれ世界の中で没落していくことになるでしょう。

次回は、デンマークの子どもたちは、どのようにデジタルと向き合っているのかレポートします。

次回:「禁止ではなくルールを」「残すのではなく支援」 デンマーク流デジタルとの付き合い方

PROFILE

銭本隆行(ぜにもと・たかゆき)

1968年広島市生まれ、福岡市育ち。51歳。早稲田大学政治経済学部在学中にヨーロッパを放浪。そのときにデンマークと出合う。大学卒業後、時事通信と産経新聞で11年間の記者生活を送る。2006年にデンマークへ渡り、同国独自の学校制度「国民高等学校」であるノアフュンス・ホイスコーレの短期研修部門「日欧文化交流学院」の学院長を務めた。全寮制の同校で知的障害者のデンマーク人らと共に暮らし、日本からの福祉、教育、医療分野に関する研修を受け入れながら、交流を行ってきた。2010年にオーデンセペダゴー大学で教鞭を執り、2013年にはデンマークの認知症コーディネーター教育を修了。2015年末に日本に帰国。バンクミケルセン記念財団理事に就任。現在は日本医療大学(札幌市)認知症研究所と日本福祉大学大学院博士課程後期に在籍しながら、地域包括ケアシステムに関する研究を進めている。著書に『デンマーク流「幸せの国」のつくりかた』(明石書店)など。

子どもにも、親にも、新しい学びの時代へ

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