ひとつの会場に何百人もの受験生が集う従来の受験方式が、コロナ禍で大きく揺れています。今年は大手予備校がオンラインでの模試を次々と導入。多くの高校生が、自宅からパソコンを使った初めての模試に挑みました。今後、学習や受験のオンライン化は、どうなっていくのでしょうか。(トップ写真は東京大学の2次試験に臨む受験生たち=2020年2月25日、東京都文京区の東京大学、瀬戸口翼撮影 )
塗りつぶす代わりに、ワンクリック 今夏のオンライン模試を体験
手元にはノートと時計、リスニング用のイヤホンを準備。パソコンでの受験が推奨です。IDとパスワードを入力し、注意事項を読みます。志望大学を第8志望までスクロールで選択すれば、いよいよ試験のスタート。しかしオンライン模試は、ここからが違います。どの科目から受験するか、そしていつ試験を始めるか。それは受験可能期間内であれば、受験生が自ら選択することができるのです。

今夏、学習塾向けにAI教材を提供する教育ベンチャー企業「atama plus(以下「アタマプラス」)」と、大手予備校の駿台予備校(以下「駿台」)を運営する学校法人駿河台学園は、業界初となるオンライン模試を共同で開催しました。今回は、今年度の受験生から受けることになる「大学入学共通テスト(旧センター試験)」を想定したマーク式の模試で、高校3年生と既卒生が対象。7月27日~8月9日の期間中であれば、いつでも、どこでもオンラインで受験することができました。
数学の計算などは手元に用意したノートを使ってもOK。今回の模試では、英語や理科などの受験科目では、表やグラフに書き込みながら回答する必要がありました。ですが解答は全てマーク式。解答用紙の該当マークを鉛筆で塗りつぶす代わりに、マウスのワンクリックで埋めていきます。
制限時間が終わると、受験中の画面が切り替わり、すぐに点数が表示されました。それだけでなく、アタマプラスのAI(人工知能)によって自分の弱い単元と、おすすめの学習教材までつなげてくれる、というシステムになっています。これまでだと、模試の結果が返却される際、大問ごとの得点率から得意分野・苦手分野が大まかに分かるようにはなっていました。それがアタマプラスのAIを使うと、より細かく小問ひとつひとつの正誤の傾向から弱点を分析し、今後学習すべき単元を具体的に教えてくれるといいます。単に一問一問の結果を見るだけでなく、例えば「aという問題とbという問題を間違えるということは、この単元が理解不足の可能性が高い」などと、複合的にデータをかけ合わせた解析を行うそうです。
志望大学の判定結果などは、全受験日程が終了した後、2週間前後で受験サイト上で確認できます。
今後は問題の見やすさなどを継続的に改善し、生徒がより受験しやすいオンライン模試を目指すといいます。
きっかけはコロナ 地方に新たな門戸開く
プログラミング授業の導入や小中学生全員にパソコンを1台ずつ配布する「GIGAスクール構想」など、子どもたちを取り巻く学習環境はITやAIを活用したものに変わりつつありました。しかし受験や模試のオンライン化は、整備が進んでいなかったようです。
今回も、当初は駿台が「駿台共通テスト模試」として単独で会場開催をする予定でした。
アタマプラス代表取締役の稲田大輔さんは「志望校の判定や偏差値の結果に受験生が一喜一憂する模擬テストのあり方にずっと疑問を感じていました。実力測定だけで終わらず、そこから学力の定着まで一気通貫した全く新しい模試の立ち上げを、去年の後半辺りから検討していたのですが、そこに新型コロナの流行が襲った。従来の模擬テストの問題点に加え、受験生が会場で受験できない、という新たな課題が加わってしまいました。そこで元々うちのサービスを提供していた駿台さんと、急きょ、オンラインでの模試の開催を決めました。それが今年の5月。そこから2カ月で開発を行うという、かなり無謀なプロジェクトでした」と話します。

実際の共通テストが会場受験で行われる限り、模試の完全なオンライン化は難しく、今回も会場受験との併用開催でした。会場受験を選んだ場合は、従来通りの形式で模試を実施しました。オンライン・会場受験いずれも駿台が作成した、同じ問題が使われました。
ところが、会場での模試の申込数が33578人だったのに対し、オンライン模試の申込数は、約1.3倍の41819人。これまでの駿台模試は、駿台の教室がある都市部の生徒が受験する場合が多かったといいます。駿台広報部によると、例えば駿台の教室がない四国地方の受験生は、広島などへわざわざ模試を受けるために移動していた可能性もあったといいます。今回、オンラインでの受験を申し込んだ地方の受験生は、会場実施の1.3倍で、八丈島などの離島や海外からの申し込みも含まれていました。模試のオンライン化は、これまで受験が難しかった地方の生徒たちに、新たな学習機会の門戸を開いたと言えます。
一発勝負の受験が変わる……かも
コロナ後、模試や学習のあり方はどう変わっていくのでしょうか。
オンライン模試はいつでもどこでも受験できるメリットがありますが、現在の本番の共通テストや2次試験はそうはいきません。実際、駿台とアタマプラスが共催したオンライン模試の受験者へのアンケートでは「周りの緊張感がほしい」など、本番と同じ環境での受験を望む声も出たそうです。
しかしアタマプラス代表取締役の稲田さんは「そもそも本番の試験1回で決まる、という今の受験のあり方で、受験生本来の学力を計れるのでしょうか」と疑問を投げかけます。
「本番1回きりの勝負だと、生徒の体調に左右されたり、たまたまヤマが当たったり、といったことが起こりうる。それは大学側にとっても本意ではないはずです。大学が見極めたいのは、生徒が持つ学習する力。AIによる学習が定着すれば、高校3年間の学習の積み重ねや学習傾向をデータ化し、生徒本来の学力を見分けることが可能になります」
駿台広報部も、「今年はオープンキャンパスや入試説明会などでもオンライン化が進みました。共通テストについても、英語の民間試験活用や記述式など様々検討され、今回は見送られましたが、本来教育改革全般で見ればこんな可能性もあったのだなと思います。少子化で、大学も一人でも多くの受験生が欲しい。すぐには難しくても、今後様々なことが手探り状態で進んでいくのでしょう」と話します。
両社は今回を機に、高校3年・既卒生向けの共通テスト模試をオンラインで年に3回、実施を継続することを決めました。さらに2021年1月からは、高校1・2年生向けにオンラインでの学力判定テストも年6回行う予定です。
駿台以外の大手予備校でも、オンラインでの模試を続々と取り入れ始めています。
何百人の受験生が、開始の合図で一斉に問題用紙をめくる……そんな冬の風物詩が姿を変える日も、近いのかも知れません。
子どもにも、親にも、新しい学びの時代へ
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