「コロナ禍でも学びに格差が出ないように」――登録者125万人超の“教育系YouTuber”葉一さんの熱い思い

文:編集部・河井健 写真:編集部・林紗記

コロナ禍で、家庭や学校でもパソコンなどを活用したオンラインによる学習が増えてきた。そんな「ニューノーマル」の時代、授業動画を配信し、急速にチャンネル登録者を増やしている“教育系YouTuber”がいる。葉一(はいち)さん(35)。小中高校生ら125万人を超えるチャンネル登録者から、教え方が「親しみやすく、分かりやすい」と圧倒的な支持を集める葉一さんに、自らの活動や思い、新時代の学びについて話を聞いた。

視聴回数わずか10回からのスタート

葉一さんのYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」は2012年6月に開設された。現在は小3~高3を対象とした授業を配信。小学生が算数、中学生が数学、国語、英語、理科、社会の5教科、高校生が数学だ。「いいかい。こんな感じでやってみて」「頑張って。もう一踏ん張り」。ホワイトボードの板書を写しながら、優しく語りかけるように授業を進める。内容は教科書の範囲内。子どもたちの集中力を考え、一つの授業はおおむね15分以内に収められている。

動画のコメント欄には「最強にわかりやすい!」「ほぼ全部見て、志望校に合格できました!!」「コロナの休校中に復習としてみています」といった書き込みがずらり。そんな葉一さんは、東京学芸大学で小中高校の教員免許を取得し、卒業後は教材販売会社に就職。その後、学習塾に転職し、講師を3年間務めた。動画投稿を始めたのは、塾を辞め、家庭教師をしていた頃だ。

――最初から多くの子どもたちの人気を集めていたのでしょうか?

鳴かず飛ばずでした。初めの動画の再生回数は1日10回ほど。それも多分、全部自分が見た回数です。視聴者は実質ゼロだったと思っています。27歳で結婚しましたし、生活していかなければならず、知り合いの子どもたちを中心に家庭教師をやっていました。でも、動画投稿は収入を得ようと思って始めたわけではないんです。というか、開始から1年ほどは、YouTubeで広告収入を得られることさえ知りませんでした。行きつけのカフェのマスターに教えてもらい、「なにそれ?」と(笑)。

――軌道に乗ったのはいつごろからでしょう?

「YouTubeを収入のメインにできるかもしれない」と思えるようになったのは、丸3年が過ぎたころですね。30歳直前でした。授業動画は子どもたちの口コミで広がりました。宣伝はまったくしていません。「友達に勧められた」というのが子どもたちには一番効くんですよ。一定数のチャンネル登録者を確保できるなどしたため、2年目からは動画に広告を表示し、収入を得られるようになったんです。

――葉一さんなりの試行錯誤もありましたか?

最初の2カ月ぐらいは、ホワイトボードに板書しながら授業をしていました。動画を見直して「テンポが良くない。これでは絶対に見てもらえない」と感じたんです。それで、あらかじめ板書を済ませておくやり方に変えました。書く字も読みやすいよう工夫しています。カドカドしくなく、かといって丸くもない。「女性が書くきれいな字」をイメージしています。また、子どもたちの気が散らないように、アクセサリーなどはせず、服装も派手ではないものを選んでいます。

コロナ禍で「自分にも何かできないか」を考えた

チャンネル登録者は少しずつ増えていく。コロナ禍が起きた今年、リモートでの学びを支える葉一さんの活動は様々なメディアで注目された。こうした影響もあり、3~4月の登録者は前年同期と比べて2倍以上増加。7月7日、ついに一つの目標としていた100万人を突破する。

――100万人を超えた時、どう感じられましたか?

その日はうれしかったですね。でも、YouTuberは満足感や達成感に溺れたら負けなんです。今でも登録者がゼロになる夢を見ますよ。100万人突破の翌日から「過去の栄光」と思うようにしました。

――コロナ禍で、葉一さんもより授業動画を活用しやすいようにしたそうですね。

「自分にも何かできないか」と考えました。僕には小1と保育園年少の2人の息子がいるので、国の休校要請が出たとき、学校や子どもが大変になるな、と思ったんです。それまでも授業で使うプリントは、僕が運営する別のサイトから無料ダウンロードできるようにしていました。ただ、教育関係者の方には事前申請だけはしてもらっていたんです。これを申請なしに変えました。販売など営利目的でない限り、子どもも先生も自由に使える。少しでも利便性を高められればいいな、と考えました。

――動画もプリントも無料。申請の手間もなければ、本当にいつでも誰でも学ぶことができますね。

もともと、僕がYouTubeで授業動画の配信を始めたのもそうした気持ちからでした。塾講師時代、経済的な理由で塾に通えなかったり、講習を諦めたりせざるをえない親子をたくさん見てきました。「家庭の事情で学びに格差が出るのは違うんじゃないか」とずっともやもやしていたんです。それで「YouTubeならば誰もがタダで学べるな」と。職業としてのYouTuberになろうとは考えていませんでした。

中学時代は「いじめに遭った」

葉一さんは1985年、福岡県で生まれた。父は会社員、母はパートの共働き。父が転勤族だったため、幼稚園は埼玉県で過ごし、小学校からは群馬県で暮らした。小学校の頃はテストの成績も悪くなく、「いい意味で放任」の家庭だったという。おおらかに育てられた葉一さんだが、中学校に進むと「いじめ」に遭うようになる。

――ご両親は教育熱心だったのでしょうか?

小さい頃から父や母に「勉強しろ」と言われたことは一度もありません。あとで母に聞いたら「お前はあまのじゃくだから、勉強しろと言ったらしなくなると思っていた」と打ち明けられました(苦笑)。小学生の頃は「勉強は言われなくてもするものだ」と感じていましたね。

――いじめを受けた中学時代のことを覚えていますか?

何も思い出せない、というか、思い出したくない。いじめの原因はよくわからないんです。多分、一つには1年生の時に半年だけ入っていた体操部の練習に、土日に出られなかったことだと思います。

――なぜ出られなかったのでしょう?

僕には2歳年下の妹がいて、知的・発達障害があります。両親が共働きで忙しく、土日は僕が妹の世話をしていました。ただ、当時は今より障害者に対する理解も深くなく、「部活に出ないのはサボっているからだ」と思われたんですね。そんな陰口が学年に広がって……。「いい兄でいないとならない」と思っていたから、母にもいじめられていることを伝えられませんでした。

高校で「生涯の恩師」と出会い、教育者を志す

つらかった中学時代。葉一さんは「教師」という存在にもいい感情を抱けなくなっていた。だが、進学した地元の公立高校で、「生涯の恩師」と出会う。この出会いが、葉一さんに教育者の道を歩ませることになる。それまでは「ぼんやりと」音楽系の専門学校に進もうと思っていたが、教育者を目指して志望校を国公立大学に変更。猛勉強を始めた。

――恩師はどんな先生だったのですか?

30代で数学を担当していました。高1の最初の授業で「俺はお前らに好かれるつもりはないから」と言ったんですよ。数学は苦手だったし、正直、「ハズレの先生に当たった」と思いましたね(笑)。でも、授業はめちゃくちゃ分かりやすいし、板書もきれいなんです。生徒を褒めるのも怒るのも、本気のように感じられました。生徒からの質問には親身に答えていて、授業時間外や忙しいタイミングでも断っている姿を見たことがありません。「この先生は違うのかもしれない」。そう感じるようになりました。その先生の影響で、「自分も教育者になりたい」と思ったんです。

――専門学校から国公立大へと志望校を切り替えたのはいつですか?

高2の冬です。うちはそんなに裕福ではなかったので、「自宅から通える国公立」というのが進学の条件でした。でも、その時点の模試では、偏差値が20ぐらい足りなかった。恩師に相談したら「とにかく5科目を繰り返しやれ」と。塾には行かず、学校にあった教材を借りて、繰り返し繰り返し同じ問題を解きました。やりながら、学んだことを定着させるにはそれが一番効率的だと気づいたんです。

オンラインも上手に活用し、学びを深めてほしい

葉一さんは授業動画で、反復して学習することの大切さを強調している。恩師に学んだ実践と、塾講師を務めた経験がベースになっているという。中学時代にはいじめに遭い、塾では家庭の経済事情が子どもの教育機会を左右する厳しい現実も目の当たりにした。YouTubeのチャンネル登録者100万人超という成功を収めた現在、それでも葉一さんは「教育には学校、塾、僕らのような”3本の柱”が必要だと思う」と語る。

――パソコンなどを用いたオンラインが当たり前の「ニューノーマル」の時代が訪れましたが、リアルな学校や塾も大切なのでしょうか?

そう思います。学校は同世代や人生の先輩でもある先生たちとふれあえる場だし、塾には「成績を上げる」という明確な目的がある。授業動画は住んでいる場所や家庭の事情に関係なく、いつでも、誰でも、好きな時間に、無料で見られる。それぞれに違った良さやメリットがあると思うんです。かつては学校や塾ぐらいしか学びの場がなかった。僕の仕事は選択肢を増やすこと。子どもたちには3本柱をうまくミックスし、学びを深めてもらえればと思っています。

――コロナが収束しないまま本格的な受験シーズンが近づいてきました。どんな思いで視聴者の子どもたちと接していこうと考えていますか?

「葉一」という名前は、本名から取った「一」の字と、「幸福の四つ葉のクローバー」から付けました。「子どもたちみんなに幸せが訪れますように」という願掛けです。その思いは動画を始めた時からまったく変わっていません。どんな状況であっても、頑張ったことは決して無駄にはなりません。努力して出した結果は、必ず人生の糧になる。今はデジタル機器が普及し、子どもたちが自ら容易に情報をつかむことができます。動画を通じ、自分が子どもたちをサポートできる存在であれば、とても幸せだと感じます。

葉一さんの授業動画サイト「とある男が授業をしてみた」はこちら

PROFILE

葉一(はいち)

教育系YouTuber。1985年、福岡県生まれ。東京学芸大学卒業後、茨城県の教材販売会社勤務を経て、全国展開する学習塾に転職。埼玉県内で約3年間講師を務め、2012年から教育格差の解消を目指し、現在の活動を開始。著書に『塾へ行かなくても成績が超アップ!自宅学習の強化書』(フォレスト出版)など。

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