にっぽんの逸品を訪ねて

恵み豊かな隠れ里が育んだ「球磨焼酎」 熊本県人吉市(下)

恵み豊かな隠れ里が育んだ「球磨焼酎」 熊本県人吉市(下)

仕込み甕(かめ)の櫂入れ(撹拌)を行う

球磨(くま)地方一帯では、約500年前から「球磨焼酎」が作られてきた。世界には、ウイスキーのスコッチやブランデーのコニャック、ワインのボルドーやシャンパーニュのように地名を冠することを世界貿易機関(WTO)で認められた伝統酒があるが、球磨焼酎もその一つだ。

恵み豊かな隠れ里が育んだ「球磨焼酎」 熊本県人吉市(下)

昔ながらのたたずまいを見せる寿福酒造場

日本酒の原料が酒米であるのに対し、球磨焼酎は食用の米を使う何ともぜいたくな酒だ。豊かな土地に水田が広がり、米がよくとれたことが球磨焼酎誕生の要因だろう。
現在、蔵元は28軒。町を歩くと蔵元のレンガ造りの煙突が目にとまる。そのうちの一軒、今でも伝統の手作りを守るという寿福酒造場を訪ねた。

「球磨焼酎の特徴は、ふくよかな香りと甘み。しかも深いコクとキレのよさもある。本来の味を守ろうとしたら、自然と手作りの伝統製法を受け継ぐことになりました」と、杜氏(とうじ)の寿福絹子さんは話す。

恵み豊かな隠れ里が育んだ「球磨焼酎」 熊本県人吉市(下)

杜氏の寿福絹子さん

焼酎は、まずこうじを作って寝かせ、水や酵母、原料である米を加えて仕込む。仕込んでできた焼酎もろみを発酵させて蒸留する。
蔵では仕込みの真っ最中だった。大量の米が蒸し上がり、あたりは熱気に包まれる。その熱さをものともせず、ふやけた米を手作業で丁寧に取り除いていく。

原料には地元の新米100%を使用している

原料には地元の新米100%を使用している

こうじ作りや仕込みの温度管理を機械化する蔵元も多くなったが、寿福酒造場では全工程で手作りを貫いている。仕込みが始まる10月から翌5月までは泊まり込みで温度調節を行うそうだ。かめに入れたもろみがたてるプツプツという音をたよりに、夜中に何度も起きて攪拌(かくはん)し、発酵の具合を調節する。

「発酵するプツプツという音は赤子の寝息のよう」と寿福さんは笑う。

寿福酒造は、蒸留方法も昔から変えていない。十数年前の焼酎ブーム以来、軽い飲み口に仕上がる減圧蒸留法を取り入れる蔵元が増えたが、寿福酒造は昔ながらの常圧蒸留法にこだわった。
高温で蒸留するこの製法は、原料の風味が忠実に生きる半面、作り手の個性が出やすい。杜氏の腕の見せどころ、といったところだろう。焼酎作りはもともと常圧蒸留法のみだったという。

恵み豊かな隠れ里が育んだ「球磨焼酎」 熊本県人吉市(下)

蒸気でふやけた米は手作業で丁寧に取り除く

球磨焼酎の豊かな味わいを楽しむには、昔から伝わる直燗(じきかん)という飲み方が一番だ。直燗は“ガラ”とよばれる容器に球磨焼酎を入れ、火鉢や囲炉裏に置かれた五徳(ごとく)にそのままのせて温める。

目と耳で甕のようすを確かめて仕込みの温度管理を行う

目と耳で甕のようすを確かめて仕込みの温度管理を行う

水やお湯で薄めず、30度~55度ほどのぬる燗でダイレクトに味わう。本当においしい焼酎だけがこの飲み方に耐えられるのだと思った。

交通・問い合わせ

・肥薩線人吉駅下車
・人吉市観光案内所(JR人吉駅構内) 0966-22-2411(9:00~18:00、無休)

PROFILE

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの温泉宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

独自の文化が息づく豊かな隠れ里・熊本県人吉市(上)

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