にっぽんの逸品を訪ねて

漆の魅力を伝える「山中座」と制作体験・石川県加賀市(2)

山中座のみごとな格天井

山中座のみごとな格天井

世界で最初に漆(うるし)を活用したのは日本だと考えられている。北海道では、約9千年前の縄文時代前期の遺跡から漆を使った装飾品が出土したという。
抗菌力や防腐力に優れ、装飾するための接着力にも優れた漆は、生活用品はもちろん、仏像や建築物などに幅広く活用されてきた。17、18世紀には日本の漆芸品が海外に輸出され、その精巧な美しさが絶賛を浴びて「japan」と書けば漆器を表した時代もある。
日本の代名詞であった漆の魅力が体感できるのが、石川県加賀市の山中温泉にある山中座だ。総湯「菊の湯」の女湯を併設し、芸術ホールを有する建物で、この地方の名産品である山中漆器の粋を集めて建造された。延べ1500人の漆器職人が携わったという。

芸術ホールも漆塗りを使用

芸術ホールも漆塗りを使用

ロビーに入るなり、つややかに輝く漆塗りの柱に目を奪われる。華やかで気品のある光に満たされ、周りの空気の温度が上がったようにさえ感じる。
見上げれば蒔(まき)絵を施したみごとな格(ごう)天井が広がり、扉も内部のホールも、どこもかしこも漆が使われている。扉の取っ手の触り心地のよさに感動していると「外側のドアノブは人間国宝の北川良造さんの作品です」と館のスタッフ。まさに漆塗りの素晴らしさに触れられる建物だ。

扉のモダンな柄も漆塗り

扉のモダンな柄も漆塗り

ドアノブもこんなに素敵

ドアノブもこんなに素敵

漆器の制作工程は大きく木地、下地、上塗り、加飾の四つに分かれる。
山中は特に木地作りの職人が多く、中でも椀など丸物(まるもの)とよばれる木地をロクロで挽(ひ)く挽物木地師が多い。その人数と技術力は全国のトップクラスだ。
木地師として60年のキャリアを持ち、全国漆器展労働大臣賞受賞などの経歴を持つ辻新太郎さんを訪ねた。自宅を改装した「ろくろの里工芸の館」では、山中漆器を展示し、木地挽き体験も行える。
辻さんに木地挽きを見せていただいた。ロクロに大まかに削った木材をセットし、足元のペダルを踏むとロクロが回転する。そこに手でしっかり固定したカンナをあてると、軽やかに木が削れていく。

ロクロを使った木地挽き

ロクロを使った木地挽き

小槌(こづち)型とよばれる難しい蓋(ふた)付きの椀も、辻さんは時おり簡単な型をあてるだけで次々と同じ形に削り出す。輪島漆器の木地では、厚さ1ミリほどに削り上げることもあるそうだ。
ウラビキやシャカとよばれる約30種のカンナも、職人それぞれが鍛冶をして手作りするという。

あっという間に美しいお椀型に

あっという間に美しいお椀型に

厚さ1mmに削り上げることも

大切な道具はすべて職人の手作り

大切な道具はすべて職人の手作り

厚さ1mmに削り上げることも

拭(ふ)き漆という漆塗りも見学した。リズミカルで素早い手の動き。迷いのない手さばきに60年のキャリアを感じる。

素早く漆を塗る辻さん

素早く漆を塗る辻さん

辻さんは「漆は日本の心だ」と語る。
山中座を見て、木材を最も美しく強くするのが漆塗りであり、木材が身近な日本人がなぜ漆塗りを愛用してきたのかを実感できた。その後なので、辻さんの言葉がしっくりと胸に入る。
現在、漆器に使う漆はほとんどが中国からの輸入品だ。「何とか国産の漆を増やしたい」と、辻さんはこの春、60年間育ててきたスギ林を伐採し、代わりにウルシを植えた。木が育って漆を採取できるまでに10年はかかるそうだ。
その時、辻さんは85歳。ご自分の山で採れた漆を塗る辻さんにまたぜひお会いしたい。

辻新太郎さんと弟子の北野宏和さん

辻新太郎さんと弟子の北野宏和さん

アクセス・問い合わせ

・北陸線加賀温泉駅から山代温泉・山中温泉方面行きバスで約30分、山中温泉バスターミナルなどで下車
・山中温泉観光協会・山中温泉旅館協同組合 0761(78)0330

PROFILE

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの温泉宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

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