にっぽんの逸品を訪ねて

伝統の「庄分酢」と食事を楽しむ 福岡県大川市

酢を使ったソースでステーキを味わう

酢を使ったソースでステーキを味わう

福岡県大川市にある「庄分酢(しょうぶんす)」は、酢の蔵元として我が国有数の歴史を持つ。宝永8(1711)年から300年以上、14代にわたって酢の醸造を行ってきた。酢の製法を記した先祖伝来の家伝書が残り、一子相伝で伝統の醸造法を受け継いでいるという。平日は予約すれば蔵の見学ができて、ビネガーレストランも併設していると聞き、大川市の榎津(えのきづ)地区を訪れた。

築約260年という庄分酢の社屋

築約260年という庄分酢の社屋

榎津地区と、隣接する小保(こぼ)地区は、江戸時代に肥後街道の要所として栄え、今も当時の面影が町並みに残る。中でも白壁に本瓦をのせた庄分酢はひときわ目を引く風格ある佇まいだ。店舗は宝暦9(1759)年ころに建築されたかつての酢蔵。この店舗と母屋は市の文化財に指定されている。
太い梁をめぐらせた堅牢な店内に入って、まず驚いたのが、酢の種類の多さと美しさだ。純米酢やくろ酢のほか、地元名産のあまおうなどを使った色とりどりのフルーツビネガー、飲む酢、すし酢、ドレッシングもある。ひと口に“酢”といっても、さまざまバリエーションがあることが分かる。

さまざまな種類が並んでいる

さまざまな種類が並んでいる

店内の看板にも歴史を感じる

店内の看板にも歴史を感じる

奥には、看板商品である有機玄米くろ酢の仕込み甕(かめ)が並んでいた。
「このくろ酢の仕込みは年に2回、春と秋のお彼岸前後です。代々受け継がれてきた半分地中に埋まった陶器製の甕を使い、3カ月かけてじっくり静置発酵を行います」と話すのは将来の15代目である高橋清太朗さんだ。

柿渋と布海苔を塗った和紙のふたを開けて、発酵のようすを見る

柿渋と布海苔を塗った和紙のふたを開けて、発酵のようすを見る

酢は酒のアルコール成分を酢酸に変えて造るので、工程は酒造りに似ている。仕込み甕に蒸した玄米と麹(こうじ)米、仕込み水を入れ、水面を麹で覆うと、麹が蓋(ふた)の役割をして糖化やアルコール発酵がすすむ。
下方が地中に埋まった甕内では、温度差ができる。比較的低温の底の方では酒の発酵がすすみ、温度の高い表面では酢酸菌の作用で酢ができる。甕内で対流しながら酒と酢の同時発酵がすすむのだという。
発酵の期間は、和紙でできた蓋を開けては菌膜の状態を見極め、“手入れ”を行う。
発酵後は、約6カ月熟成させて出荷される。十分に熟成された酢は、刺激が少なく、まろやかだ。短期間で大量生産される酢も多いが、庄分酢では有機玄米くろ酢以外も、発酵と熟成に丁寧に時間をかける。
「時代の変化に対応しながらも“いいものは変わらない、変えてはいけない”という教えを守って、おいしい酢を造っていきたい」と高橋さんは話す。

丁寧に造られた酢は色も美しい

丁寧に造られた酢は色も美しい

店舗2階のビネガーレストラン「酢Ristorante SHOUBUN(リストランテショウブン)」では、酢と旬の食材を使ったコース料理が味わえる。

歴史ある蔵を使ったレストラン

歴史ある蔵を使ったレストラン

食前酒ならぬ食前酢は、この日は生姜味。ほんのりとした酸味が食欲をそそる。
前菜の盛り合わせは、あん肝と茄子のぽん酢ジュレかけ、大根のマリネ、柿と小柱のごま和え、サワラのエスカベッシュ、エビのマヨネーズかけ、野菜サラダとドレッシング。
それぞれに、ぽん酢や南蛮漬けの素、アップルビネガーなど、種類の異なる酢が使われている。
大麦牛のグリルも、酢を使ったジャポネソースでさっぱりといただける。ちらし寿司は酸味がまろやかだ。

前菜は、何から食べようか迷ってしまう

前菜は、何から食べようか迷ってしまう

酢を使用したちらし寿司と浅漬けも美味

酢を使用したちらし寿司と浅漬けも美味

スープやデザートも付いてボリュームもあるが、酢の効用か、食後の後味はすっきりとしていた。メニューの内容は仕入れや季節で変わるという。
14代目夫人である高橋陽子さんによれば「酢は食材のうま味を引き出す力がある」とのこと。「ひいては、おいしい暮らしを引き出し、人を元気にする力があります」。

丁寧な暮らしを感じる母屋の室内

丁寧な暮らしを感じる母屋の室内

特別に築約260年という母屋も見せていただいた。
床の間に飾られた季節の花や、木箱に入って積まれた台所の器の数々。季節の移ろいとともに、食材や食器、しつらえを変え、丁寧な暮らしを重ねてきた上質な空気が満ちている。
旬の食材を味わい、四季とともに生きる。日本の原点ともいうべき暮らしを思い出させてくれる旅となった。

交通・問い合わせ

・九州自動車道八女ICから車で約30分。電車の場合は西鉄柳川駅から西鉄バス佐賀駅バスセンター行きに乗り、約20分の中原高木病院前バス停下車、徒歩約20分
・庄分酢 0944-88-1535(9時~17時、正月とお盆休。レストランは11時30分~16時30分、ランチのラストオーダーは14時30分、日曜休)
http://www.shoubun.jp/
・大川観光情報センター 0944-87-0923

PROFILE

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの温泉宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

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