にっぽんの逸品を訪ねて

“春の器”を探しに陶芸の里・笠間へ/茨城県笠間市

春の一日、陶芸の街を歩く(笠間市「回廊ギャラリー門」にて)

春の一日、陶芸の街を歩く(笠間市「回廊ギャラリー門」にて)

日差しが明るくなって、いよいよ春も本番。日常生活の中でより深く季節感を楽しむために、春らしい食器を取り入れてはどうだろうと思い立ち、茨城県笠間(かさま)市へ向かった。
笠間は、江戸時代中期から歴史を重ねてきた陶芸の里であり、今も200人以上の陶芸家や窯元が住む。のどかな気候風土に惹かれて陶芸以外の工芸作家も多く移り住み、近年は“クラフトの街”にもなりつつある。料理画像をインスタグラムに投稿する女性たちが、好みの器を探しに訪れることもあるそうだ。
笠間は「笠間芸術の森公園」を中心に、見どころや陶器販売店が比較的コンパクトに集まり、春の一日、のんびりとめぐるにはぴったり。最寄りの笠間駅や友部駅と名所を結んで「かさま観光周遊バス」(1回100円、1日乗車券200円、月曜、祝日の場合は翌日運休)も走っている。
首都圏から向かう場合は、秋葉原駅発着の高速バス「関東やきものライナー」を利用すれば、笠間駅まで片道1500円(往復でも使える2枚チケットは2600円)。交通費があまりかからない分、旅の予算を観光や買い物に使えるのがうれしい。

乳白色のやさしい色合いが春らしいやきもの

乳白色のやさしい色合いが春らしいやきもの

笠間駅から周遊バスに乗り、最初に訪れたのは小高い丘の上に立つ茨城県陶芸美術館だ。2000年に東日本初の県立の陶芸専門美術館としてオープンしている。
今回の旅の目的の一つが、この美術館で現在行われている企画展「現代の茶陶 利休に見せたいッ!」(3月12日まで開催)を見学することだ。パンフレットでピンク色や模様入りのモダンな茶碗を見て、どうしても実物が見たいとやってきた。
茶陶(ちゃとう)は茶碗や水指などお茶席で用いられるやきものの総称。今回の展示では戦後の重要無形文化財保持者から新進気鋭の若手作家の作品まで132点をそろえ、茶陶の多様な展開を紹介している。
写真では奇抜とも思えた作品も、実際は存在感や気品があって美しい。思わず見惚れてしまう。千利休が生きていたらきっと喜んだことだろう。

利休も驚くピンク色の「白金彩灰釉垸」(桑田卓郎、2010年)【画像提供:茨城県陶芸美術館】

利休も驚くピンク色の「白金彩灰釉垸」(桑田卓郎、2010年)

茨城県陶芸美術館では、近代陶芸の祖といわれる板谷波山(はざん)を始め、優れた業績を残した陶芸家の多くの作品を紹介している【画像提供:茨城県陶芸美術館】

茨城県陶芸美術館では、近代陶芸の祖といわれる板谷波山(はざん)を始め、優れた業績を残した陶芸家の多くの作品を紹介している

名品を見た後は、すぐ近くにある「笠間工芸の丘」で陶芸を体験しよう。予約すれば、絵付けや手ひねりのほか、本格的な電動ロクロでの陶芸体験もできる。インストラクターが指導をしてくれるので、初めてでも安心だ。
ひんやりとした土の感触は手に心地よく、指先に集中するので何もかも忘れて無心になれる。周りの体験者も土に集中し、部屋に響くのはロクロの回るかすかな音だけ。大きな窓に広がるのびやかな風景と、静かに流れる時間と、心癒されるひと時だった。

陶芸体験に心安らぐ

陶芸体験に心安らぐ

昼食は、歩いて10分ほどにある「ホテル イオ アルフェラッツ」内の「笠間 森のレストランMonomi(モノミ)」で。
人気のおばんざいランチ(1380円)は、地元の野菜や食材を取り入れた料理を小鉢で少しずつ味わえるのが魅力だ。おばんざい3品のほか、月替わりのメイン料理が6〜8種用意され、その中から2品が選べる。
自家製ケーキなどのデザートメニューもある。

森に囲まれた小さなホテルで味わう「Monomiのおばんざいランチ」。サラダバー、スープバー、ドリンク、パンかライスが付く

森に囲まれた小さなホテルで味わう「Monomiのおばんざいランチ」。サラダバー、スープバー、ドリンク、パンかライスが付く

自家製ケーキなどのデザートも美味

自家製ケーキなどのデザートも美味

レストランを出て右側へ、丘を下って続く道はギャラリーロードとよばれ、陶器店が軒を連ねている。
ぜひ立ち寄りたいのが「回廊ギャラリー門」だ。名前の通り、中庭を囲んだ回廊がめぐり、ギャラリーのように美しく笠間焼が展示されている。約150人の作家の作品を扱っている。

中庭を囲んでやきものが並ぶ「回廊ギャラリー門」

中庭を囲んでやきものが並ぶ「回廊ギャラリー門」

「笠間焼の作風はさまざまで、作家の数だけ特徴があります。作風が多彩な分、好みの器が見つかりやすいと思いますよ」と話すのはマネージャーの羽石公子さんだ。
春から初夏にかけておすすめなのはグリーンやブルーなどの色が入った器。例えば織部釉(おりべゆう)をかけたグリーンの器は、存在感があって普段の料理もごちそうに見える。がっしりと力強く見えるが意外と軽くて使いやすいそうだ。
ほかにも、軽やかなリーフを描いたものや、磁気とは思えないほど優しい乳白色をしたもの、パステルカラーなど、春にふさわしい作品が並んでいる。すっきりとした阿部慎太朗氏の作品は、和食にも洋食にも合うと“インスタグラム女子”にも人気だそうだ。
店内に回廊を設けたのは、自然の光と風の中でやきものを見てほしいからだという。
「旅先で買った器は、使うたびに旅の思い出がよみがえります。ぜひ笠間の空気感をまとった作品をお選びください」と羽石さん。

織部釉をかけたグリーンの器は生き生きとして見ているだけで楽しくなる

織部釉をかけたグリーンの器は生き生きとして見ているだけで楽しくなる

回廊ギャラリー門の近くにある「Glass Gallery SUMITO」も立ち寄りたい一軒だ。 店内には、オーナーの梅本純人さんが全国から選んだガラス作家の作品が並ぶ。
「いわゆる量販物ではないガラス作品を集めたギャラリーは、全国でもめずらしいと思います」と梅本さん。
店は、入って左側が期間によって展示が変わる企画展のスペース、右が常設展になっている。素材はどれもガラスだが、色づかいもデザインも多種多彩。春らしい小花を描いた小皿やパステルカラーの小鉢など買い求めやすい価格の作品から、著名なガラス作家である佐野猛・曜子夫妻などの作品まで幅広くそろう。
陶器とガラス。違う素材の器がそろうのも笠間の魅力だろう。

ガラス作家の作品をそろえた「Glass Gallery SUMITO」

ガラス作家の作品をそろえた「Glass Gallery SUMITO」

交通・問い合わせ

常磐線・水戸線友部駅で下車し、かさま観光周遊バス(月曜、祝日の場合は翌日運休)で15分の工芸の丘・陶芸美術館バス停下車。秋葉原駅発着の高速バス「関東やきものライナー」の利用も便利
・茨城交通
http://www.ibako.co.jp/highway/kasama/

・笠間観光協会 0296-72-9222
http://www.kasama-kankou.jp/

・茨城県陶芸美術館 0296-70-0011
http://www.tougei.museum.ibk.ed.jp/

・笠間工芸の丘 0296-70-1313
http://www.kasama-crafthills.co.jp/

・笠間 森のレストランMonomi 0296-72-9928
http://www.k-monomi.com/index.html

・回廊ギャラリー門 0296-71-1507
http://www.gallery-mon.co.jp/

・Glass Gallery SUMITO 0296-72-2104
http://gate.ruru.ne.jp/sumito/index.asp

PROFILE

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの温泉宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

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