にっぽんの逸品を訪ねて

地元で愛される“かんざらし”と“五三焼カステラ”/長崎県島原市・南島原市(後編)

20年ぶりに復活した島原名物「銀水」のかんざらし

20年ぶりに復活した島原名物「銀水」のかんざらし

<前編からつづく>

長崎県島原市の旅の2日目は、地元で愛される名店2軒を訪ねた。
1軒は、20年近くの閉店を経て、昨年夏に念願の復活を遂げた「銀水(ぎんすい)」だ。“かんざらし”の元祖といわれるこの店は、全国に知られた有名店だった。
“かんざらし”は、白玉粉で作った小さな団子を島原のわき水で冷やし、蜂蜜や砂糖などで作ったシロップをかけたもの。現在は市内約20軒で食べられる。

「銀水」は、1915(大正4)年に入江ギンさんが始め、1955年に田中ハツヨシさんが店を引き継ぎ、1997年ごろまで営業していた。味はもちろん、ハツヨシさんの愛情あふれる人柄にひかれ、地元住民をはじめ、全国から観光客や著名人が繰り返し訪れる人気店となった。
実際、旅行ライターの間でも“銀水のお母さん”は有名で、新米ライターは先輩たちの話を聞きながら、いつか取材に行ってハツヨシさんにお会いしたいと思ったものだ。

白玉が硬くならない不思議なわき水効果

店内から見た「浜の川湧水」の洗い場

店内から見た「浜の川湧水」の洗い場

「銀水」があるのは、島原城から南東へ約1.5キロメートル、住宅街にある「浜の川湧水(ゆうすい)」のすぐ脇だ。島原市は、前回ご紹介したとおり、市内約60カ所から地下水がわく“水の都”。澄んだ水は昔から住民の生活に活用されてきた。
「浜の川湧水」もその一つで、今も住民に愛用されている。水場は4つに区切られ、それぞれ“飲用”“食物洗い”“食器洗い”などと用途が決められているという。4つの洗い場はコの字形に並べられ、わき出た水が順に流れ、効率よく活用できる工夫がされている。

カウンター前の水槽では、わき水で白玉やシロップ、飲み物を冷やしている

カウンター前の水槽では、わき水で白玉やシロップ、飲み物を冷やしている

店内には、透明なわき水があふれんばかりに流れていた。
「蛇口から出ているのはすべてわき水です。白玉を練るのも冷やすのにも使っています。わき水の温度は一年を通じて15度前後。白玉は冷蔵庫で冷やすと硬くなりますが、わき水で冷やすと不思議とやわらかさが保てるんです」とスタッフが説明してくれる。

記憶をたどって昔の味を再現

“かんざらし”は白玉の歯応えやシロップの味が店によって異なり、作り方は秘伝だ。そのため、店の復活にあたって味の再現に苦労したという。
「レシピが残っていなかったので、昔の味を知る人に何回も試食をしてもらって再現できました」とのこと。
ちょうど、小さいころから店に通って食べていたという方が来店した。「昔の通り、懐かしい味です。今は結婚して佐賀に住んでいますが、帰省したら必ず銀水に寄ります」という。
ふんわりやわらかい白玉と、甘めのシロップが合わさった素朴な味わい。わき水が流れる涼しげな音を聞きながらゆったりとした時間を過ごした。

シロップはウイスキーの角瓶に入れて冷やすのが“銀水流”

シロップはウイスキーの角瓶に入れて冷やすのが“銀水流”

科学を超えた職人技が生む奇跡のカステラ

市街からバスに乗り、隣接する南島原市に向かった。次に訪ねたのは、島原半島の海岸線をバスで30分ほど走った先にあるカステラの老舗「須崎屋(すざきや)」だ。

この店を知ったのは、東京日本橋にある長崎県のアンテナショップでのこと。店頭で一人の女性が「東京でこれが買えるなんて。地元でもなかなか手に入らないんですよ」と手にして感激していたのが須崎屋の“五三焼(ごさんやき)カステラ”だった。
五三焼は、卵の黄身と白身がおよそ5対3の割合で配合されたカステラで、黄身が多い分、コクがあって味はまろやか。けれど、作るのには高度な技術を要するという。
「須崎屋さんは一窯一窯、丁寧に焼き上げるので作れる数は少ないのです」と女性が熱心に語る。地元の人に愛される名店を、ぜひ訪れてみたいと思った。

えりすぐりの素材で作る須崎屋の「極上 五三焼かすてら」

えりすぐりの素材で作る須崎屋の「極上 五三焼かすてら」

築100年以上という店舗で迎えてくださったのは、六代目にあたる伊藤剛さんだ。
須崎屋の創業は1867年。島原と長崎を結ぶ海運業を営んでいた初代が、当時、貴重だったカステラを地元の人に食べてもらいたいと思い、長崎で作り方を学び、本業である海運で材料の砂糖や小麦粉を運んで作ったのが始まりという。

戦国時代、ポルトガル人が伝えたというカステラは、今では長崎を代表する銘菓。製造元も数多いが、五三焼カステラは本場長崎のカステラ職人でも作れる人は限られるそうだ。
「科学的に考えると焼くことができないものなのです」と伊藤さん。生地を膨らませる卵白や小麦粉を極限まで減らしているので、生地を均一に焼き上げるのは科学的にはほぼ不可能だとか。つまり五三焼カステラは科学を超えた職人技が生み出す奇跡の菓子なのだ。

バス通りから1本入った静かな通りに立つ須崎屋の店舗と工場。のれんの前に立つ代表の伊藤剛さん

バス通りから1本入った静かな通りに立つ須崎屋の店舗と工場。のれんの前に立つ代表の伊藤剛さん

数秒ずれたら商品にならない

「普通のカステラと五三焼カステラは全くの別物だと思って作っています。五三焼は製造工程の一つ一つ、例えば小麦粉を混ぜるとか、窯から出すなどの作業を、ピンポイントのタイミングで行わなければならない。数秒ずれただけでも商品にならないので、全神経を集中させて作っています」という。
特別に工場で製作工程を見学させてもらった。

材料は、五三焼カステラのために集めた最高品質のものが並んでいる。
砂糖の「阿波の和三盆糖」は、実際に四国に足を運び、試食して歩いた中で特においしいと感じた岡田製糖所の特選品を使用。水飴はカステラ職人なら誰もが憧れる佐賀県の「相川のもち米水飴」。その中でも全体の3%にあたる黒帯とよばれる最高級品を用いている。氷砂糖は純度99.9%の上一等品。卵は地元島原の「太陽卵」。小麦粉は筑後平野の小麦から作る須崎屋専用の特注品だ。さらに、「極上 五三焼かすてら」には、卵はウコッケイ卵を使用する。

輝くばかりの相川の水飴。生地にできる筋を見ながらかき混ぜ、最後は手作業で仕上げる

輝くばかりの相川の水飴。生地にできる筋を見ながらかき混ぜ、最後は手作業で仕上げる

原材料は、和三盆糖、卵、小麦粉、水あめ、氷砂糖のみ。
まずは“生地立て”とよばれる生地づくりを行う。砂糖や卵を混ぜ、かき混ぜる時にできる生地の筋(すじ)の入り方を見ながら水あめを入れる。後半に加える小麦粉はほんの少量だ。
伊藤さんは「筋が立ってきたでしょう。あと3回混ぜて終わり。5回だと混ぜ過ぎです」というが、素人目にはさっぱり分からない。
生地は途中までは機械で混ぜ、最後の微調整は手作業で行う。生地の“しっとり”と“ふんわり”は相反する作用で、両方を実現するためには小麦粉を混ぜ過ぎないことが肝心だという。

できたカステラ生地は、ザラメ糖を敷いた型の中に流し込み、オーブンの中へ。このオーブンも、放射を利用して窯全体に熱が行きわたる特注品だ。一般的な量産のカステラでは、上下からのみ加熱するトンネル型のオーブンを使用し、その中をベルトコンベヤー式に型が進んで行く方式が多いそうだ。

ヘラで生地の気泡を追い出す「泡切り」は熟練がいる作業

ヘラで生地の気泡を追い出す「泡切り」は熟練がいる作業

生地を焼く工程で最も大切なのが「泡切り」の作業。長いヘラで生地を混ぜ、内部の気泡を抜いていく。オーブンをのぞきこんで、生地の状態を確認しながらこの泡切りを4回ほど行う。
この後、鉄板にのせて表面を焼き、窯から出す。焼き上げる温度や時間は最大の企業秘密で、気温や湿度によっても異なる。カステラが焼けるようになるまで10年、自分の思うものが焼けるようには20~30年かかるそうだ。
工房には5代目の代二さんもいらした。16歳から焼いているが「80歳になってやっと自分の思うカステラができるようになった」とのことだ。

絶妙のタイミングで窯から取り出す

絶妙のタイミングで窯から取り出す

できたてのホヤホヤ。きめ細やかで卵の色の濃さに驚く

できたてのホヤホヤ。きめ細やかで卵の色の濃さに驚く

焼き上がった五三焼カステラは、美しい黄金色。甘くいい香りが漂う。
これを室(むろ)で一晩寝かせてから切り分け、出荷する。焼き上がりから5日目くらいが一番おいしいそうだ。
「材料すべてが、職人さんが精魂込めて作った極上品です。それを使って、最高のカステラを作っていきたい」。150年続く老舗の、さらなる未来への熱い想いが伝わってきた。

交通・問い合わせ

「銀水」へは島原鉄道南島原駅から徒歩5分
「須崎屋」へは島鉄バスターミナルから島鉄バス加津佐海水浴場前行きで約35分の堂山バス停下車、徒歩3分

・銀水 0957-63-4610
http://www.city.shimabara.lg.jp/page3470.html

・須崎屋 0957-82-2855/9時~18時/水曜休
http://suzakiya.com/

PROFILE

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの温泉宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

“水の都”でわき水の美観と隠れキリシタンの哀史に触れる/長崎県島原市・前編

一覧へ戻る

人気の“軍艦島”上陸ツアーと、ちゃんぽん“発祥の味”を訪ねる

RECOMMENDおすすめの記事