にっぽんの逸品を訪ねて

人気の“軍艦島”上陸ツアーと、ちゃんぽん“発祥の味”を訪ねる

夕日に軍艦のようなシルエットを浮かび上がらせる端島

夕日に軍艦のようなシルエットを浮かび上がらせる端島(画像提供:長崎県観光連盟)

「廃墟なのに、何か胸に迫るものがある」。軍艦島を訪れた多くの人がそう話すのを聞いて、“何か”を知りたいと長崎県長崎市を訪れた。

長崎港から南西へ約18キロメートルの沖合に位置する端島(はしま)は、軍艦「土佐」に姿が似ていたことから“軍艦島”とよばれてきた。明治から昭和にかけて海底炭鉱で栄え、周囲1.2キロメートルの小さな島には高層アパートが林立。最盛期には5000人以上が暮らし、東京都をはるかに超える人口密度だったという。
1974年の炭鉱閉山後は無人となり、建物は荒廃。けれど、日本の近代化の歴史を伝える貴重な遺跡として、2015年7月には「明治日本の産業革命遺産」の構成資産としてユネスコの世界遺産に登録された。また、実写版『進撃の巨人』をはじめ、映画やTVドラマのロケ地にもなり、その歴史的な意義とともに独特の景観も注目されている。

軍艦島クルーズと軍艦島デジタルミュージアム

端島への上陸は5社が許可を受けて、“軍艦島クルーズ”を実施している。船の大きさや費用などそれぞれに特徴があるが、今回参加したのは、軍艦島コンシェルジュの「上陸+周遊プラン」(大人4000円+軍艦島入場料300円)。ツアーガイドの知識が豊富だという口コミが多かったことと、「軍艦島デジタルミュージアム」の“入館料半額プラン”があることが選んだ主な理由だった。

軍艦島デジタルミュージアムは、30メートルのフルスクリーンを使って軍艦島の歴史や生活を紹介し、島内の立ち入り禁止エリアをVR(バーチャルリアリティ)で体験できるなど、ツアーの予・復習になって、より深くクルーズを楽しむことができる。
“入館料半額プラン”では、ミュージアムの入館料(大人1800円)が半額になるだけでなく、クルーズ前にミュージアムを利用すると館内で優先的に乗船受け付けができる。整理券が配布されるので、乗船まで自由に時間が使えて、船内で好みの席も選びやすい。ミュージアムは当日に限り再入場も可能だ。

軍艦島デジタルミュージアムでは、坑道体験コーナーやVRコーナーなど、ツアーでは見学できないエリアの紹介も行っている(画像提供:軍艦島デジタルミュージアム)

軍艦島デジタルミュージアムでは、坑道体験コーナーやVRコーナーなど、ツアーでは見学できないエリアの紹介も行っている(画像提供:軍艦島デジタルミュージアム)

船内映像で歴史を学び、クルーズへ出発!

クルーズ船が出航する常盤ターミナルは、路面電車の「大浦海岸通り」電停から徒歩30秒とアクセスのよい場所。軍艦島デジタルミュージアムからも徒歩2、3分の近さだ。
午前の便は10時に乗船開始。出航までの30分は、船内でコンシェルジュガイドが軍艦島の概要を解説し、炭鉱が稼働していたころの島の映像なども流れる。
映像では、江戸時代に長崎防衛の任務にあたっていた佐賀藩で産業革命の産声が上がり、やがて西洋技術を取り入れて産業国家に発展した流れが分かりやすくまとめてあった。造船や製鉄、鉄鋼などの重工業分野で貴重なエネルギー資源だった石炭が“黒いダイヤ”ともてはやされたこと、先人たちの近代化への情熱、また端島炭鉱の活気あふれるようすなども知って、クルーズへの期待が高まる。

空から見た軍艦島。島の南部(写真の手前エリア)に見学通路が設けられている

空から見た軍艦島。島の南部(写真の手前エリア)に見学通路が設けられている(画像提供:長崎県観光連盟)

出航から約35分して、軍艦島が見えてきた。
「思った以上に小さい」というのが、第一印象だ。外洋にポツンと現れたその島は、台風が来れば大波にあっけなく飲み込まれてしまいそうに頼りなく映った。
けれど、近づくにつれ、荒廃しながらも均整のとれた建物の配置の美しさや、威風堂々とした重厚感に目が離せなくなる。

接近して、島の北側から西側へ周遊した。このあたりは上陸してから近づけないエリアで、高層住宅が並んでいる。白い塗装が残る7階建ての端島小中学校、9階に幼稚園があったという65号マンモス棟や端島病院も間近に見える。

西側に並ぶ高層住宅群。正面が防潮壁の役目もしていた31号棟で、左下にベルトコンベアが通っていた大き目の窓が見える

西側に並ぶ高層住宅群。正面が防潮壁の役目もしていた31号棟で、左下にベルトコンベアが通っていた大きめの窓が見える

西側に回り込むと一面の住宅群だ。高台には端島神社の小さな祠(ほこら)だけが残り、高級職員住宅だった3号棟もたたずむ。
横長の6階建ての31号棟は鉱員社宅。防潮壁の役目もしていたため、窓が小さめだ。ただ、一カ所だけ大きな窓が空いているのは、建物をベルトコンベアが貫通し、そこから24時間、休むことなく“ボタ”とよばれる不純物の多い岩石を海中に捨てていたからだという。
桟橋へ向かう途中には、ロケでもおなじみのダブルX(エックス)の階段で有名な独身寮67号棟も見えた。

高台に残る端島神社の祠と、建物の隙間から垣間見えるダブルXの階段

高台に残る端島神社の祠と、建物の隙間から垣間見えるダブルXの階段

ドルフィン桟橋から、いよいよ上陸。波の高さなどによって上陸できない日もあるそうだが、通常は約1時間、ガイドとともに3カ所の見学広場をめぐる。
見学通路があるのは島の東から南側にかけて、主に石炭の採掘や出荷に関する施設があったエリアだ。第1見学広場では、古代遺跡のように立ち並ぶ貯炭ベルトコンベアの支柱、それを見下ろすように立つ高級職員住宅3号棟、また正面には端島小中学校も見える。当時の写真など豊富な資料を用意して解説してくれるので、子どもたちがにぎやかに遊んでいたようすが目に浮かんでくる。

第2見学広場では第二竪抗へ行くための昇降階段(写真の右端)も残っている

第2見学広場では第二竪抗へ行くための昇降階段(写真の右端)も残っている

第2見学広場から見える赤レンガの壁は、鉱山の中枢だった総合事務所だ。炭鉱マンのための大きな共同浴場があり、浴槽はいつも真っ黒だったという。
近くには、主力抗だった第二竪抗へ行くために設けられた桟橋への昇降階段も残っている。海底炭鉱である端島での採掘場は海面下1000メートル以上にも及び、気温は30度、湿度95%という過酷な環境だった。しかもガス爆発などの危険と隣り合わせで、階段を通って坑内へ向かうときはまさに命がけという思いだったろう。

1970年(昭和45年)ころに撮影された坑道への入り口(画像提供:長崎県観光連盟)

1970年(昭和45年)ころに撮影された坑道への入り口(画像提供:長崎県観光連盟)

事故が起こった時の話も心に残った。坑内の事故で亡くなった方の遺体は、ベテランの鉱員たちが迎えに行き、地上へ運ぶ。その際、普段は無口で勇ましいヤマの男たちが口々に「暑かっただろう、今地上に戻してやるからな」「みんなが待ってるぞ」などと声をかけ続けるのだという。命を預けあって働く人たちの絆を感じると同時に、現代の便利な生活に至るまでにさまざまな犠牲があったことを実感した。

第3見学広場から見る30号棟。各広場で、コンシェルジュガイドの丹念な解説が聞ける

第3見学広場から見る30号棟。各広場で、コンシェルジュガイドの丹念な解説が聞ける

第3見学広場からは、1916年(大正5)に建てられた30号棟が目の前に見える。日本で最初の7階建て鉄筋コンクリート造りの高層アパートだといわれている。島の繁栄ぶりを象徴する建物の一つだ。
島内には映画館や理髪店、郵便局、スナックなどもあり、祭りやソフトボール大会などさまざまな行事が行われていたそうだ。
見学を終えて、近代化へと突き進んだ時代のエネルギーを感じ、どんな環境でも助け合って楽しく暮らす人間の知恵とたくましさが心に残った。島には、「一時代の大きな役割を担ったのだ」という充足感が満ちているようだった。

長崎生まれの中華料理「ちゃんぽん」

鶏ガラと豚骨のスープ、魚介や野菜のうま味が溶け合った「中華料理 四海摟」のちゃんぽん

鶏ガラと豚骨のスープ、魚介や野菜のうま味が溶け合った「中華料理 四海摟」のちゃんぽん

港に戻り、昼食は名物の長崎ちゃんぽんを味わった。常盤ターミナルのすぐ近くには、1899年(明治32)創業で「ちゃんぽん」と「皿うどん」発祥の店「中華料理 四海摟(しかいろう)」がある。竜宮城を思わせる豪華な建物のレストランでは、港を見ながら食事ができる。
見た目はラーメンとよく似ているが、作り方は異なる。よく熱した鉄鍋で具材を炒め、そこに鶏ガラと豚骨のスープ、唐灰汁(とうあく)を使った独特の麺も入れ、一気に作り上げる。イカやエビ、豚肉、かまぼこ、キャベツ、モヤシなど、さまざまな具材のうま味が一瞬で溶け合って、深い味わいが生まれる。山海の幸が豊富で、古くから多くの文化が溶け合った長崎を象徴するような郷土料理だ。

5階建ての建物には、港を見下ろすレストランのほか「ちゃんぽんミュージアム」(2階)も併設

5階建ての建物には、港を見下ろすレストランのほか「ちゃんぽんミュージアム」(2階)も併設

ちゃんぽんは、四海摟初代の陳平順氏が長崎に来ていた中国人留学生や華僑のために、栄養もボリュームもあって安価なメニューを、と考案したものだ。4代目の陳優継さんは「長崎では昔から季節の食材を使って、ご家庭でもちゃんぽんが作られてきました。決して『看板メニューにしよう』と考案されたものではなく、地元で家庭料理として愛されたからこそ、約120年も続く名物になったのだと思います」と話す。

次回の後編では長崎市内の名所と“魚種日本一”といわれる長崎の刺し身をご紹介します。
<後編に続く>

(文・ライター 中元千恵子)

交通・問い合わせ

・軍艦島コンシェルジュ 095-895-9300
常盤ターミナルまではJR長崎駅から路面電車で約15~20分の大浦海岸通り電停下車、徒歩すぐ
軍艦島コンシェルジュ http://www.gunkanjima-concierge.com/

・軍艦島デジタルミュージアム 095-895-5000
JR長崎駅からバスで約12分(グラバー園入口下車)徒歩1分。または路面電車で約15分〜20分の大浦天主堂下電停下車、徒歩1分
http://gdm.nagasaki.jp

・中華料理 四海摟 095-822-1296
JR長崎駅からバスで約12分のグラバー園入口下車、徒歩1分。または路面電車で約15~20分の大浦天主堂下電停下車、徒歩1分
http://shikairou.com//

PROFILE

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの温泉宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

地元で愛される“かんざらし”と“五三焼カステラ”/長崎県島原市・南島原市(後編)

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