にっぽんの逸品を訪ねて

幻想的なグラバー園の夜と“魚種日本一”の長崎の鮮魚

夜間開園が行われるグラバー園。「ながさきみなとまつり花火大会」の日には花火を望む特等席を設置(画像提供:グラバー園)

夜間開園が行われるグラバー園。「ながさきみなとまつり花火大会」の日には花火を望む特等席を設置(画像提供:グラバー園)

<長崎市前編からつづく>

前回ご紹介した軍艦島上陸ツアーが発着する港の周辺には、“東山手(ひがしやまて)”、“南山手”とよばれるかつての外国人居留地が広がっている。1859年の開国後、日本にやってくる外国人のために造成された地区で、主に東山手には学校や領事館、南山手には住宅や教会などが建てられた。
今も異国情緒漂う建物が残り、石畳の坂道を歩けば眼下に青い海が輝く。長崎市を代表する名所である大浦天主堂やグラバー園もあるので、ゆっくりめぐりたいエリアだ。

作家の遠藤周作もお気に入りだったという南山手の祈念坂など、風情ある眺めが広がる

作家の遠藤周作もお気に入りだったという南山手の祈念坂など、風情ある眺めが広がる

港から南へ歩いてグラバー園に向かった。
高台にある同園には、石橋電停近くにある斜行エレベーター「グラバースカイロード」に乗って、一気に上ってしまうのもおすすめだ。
高低差50メートルというエレベーターで南山手の高台に着くと、目の前には山肌にびっしりと家が続く東山手の町並みが望めた。

明治時代を思わせる華麗な洋風建築が並ぶ

グラバー園には、居留地時代から残る旧グラバー住宅、旧リンガー住宅、旧オルト住宅の3軒の洋風建築(国指定重要文化財)と、さらに移築復元された明治期の6軒の西洋建築がたたずんでいる。
第2ゲートから入ってすぐの白壁の瀟洒(しょうしゃ)な洋館は、1896(明治29)年に建築された旧三菱第2ドックハウス。ドックハウスとは、船が修理などでドックに停泊している間、船員たちが宿泊した施設だという。

白亜の旧三菱第2ドックハウスは貴婦人のよう

白亜の旧三菱第2ドックハウスは貴婦人のよう

2階のベランダからの眺めは圧巻で、細長く続く長崎港と、周辺に広がる町並みや造船所、それをまた緑の山並みが取り巻くという海と山、人の暮らしが一体になったダイナミックな光景が広がる。支柱に付けられた装飾で、風景がアーチ状に縁どられるのも西洋建築ならではの趣だ。

2階のベランダからアーチ状の支柱越しに長崎港を望む

2階のベランダからアーチ状の支柱越しに長崎港を望む

園内を下っていくと、イギリス人フレデリック・リンガーが明治から昭和にかけて住んだ旧リンガー住宅がある。リンガーは、製茶、製粉、発電、海外貿易など幅広い事業を行い、長崎の経済界で存在感を放った人物。ベランダに囲まれたバンガロー形式の建物内には、大理石の暖炉や燭台、シャンデリアなども残り、当時の優雅な生活がうかがえる。
その東側には、幕末から明治にかけての洋風建築の中でも出色といわれる旧オルト住宅もある。開国後、いち早く長崎に入国したイギリス人ウィリアム・ジョン・オルトは、九州一円で仕入れた緑茶を輸出して大きな利益を得た。邸宅は、石造円柱が並ぶベランダがめぐり、中央に切妻屋根のポーチが設けてある。エンタシスの柱と木々の緑がマッチして、洗練された印象だ。

旧オルト住宅。夜間開園期間中はライトアップされていっそう美しい(画像提供:グラバー園)

旧オルト住宅。夜間開園期間中はライトアップされていっそう美しい(画像提供:グラバー園)

日本の近代化に貢献した貿易商グラバー

さらに下ると、クローバーのような華麗な屋根をした旧グラバー住宅が現れた。
スコットランド出身の貿易商トーマス・ブレーク・グラバーの邸宅として、1863(文久3)年に建設された日本に現存する最古の木造西洋風建築だ。2015年7月には「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産としてユネスコの世界文化遺産に登録されている。

多角形の瓦葺きの屋根が印象的な旧グラバー住宅は、見学客が絶えない人気の名所

多角形の瓦葺きの屋根が印象的な旧グラバー住宅は、見学客が絶えない人気の名所

グラバーは、開国直後に21歳で来日すると、貿易商として活躍するだけではなく、幕末の激動の時代に、日本の若い志士を支援した。伊藤博文ら、明治維新後の政府のリーダーとなった多くの若者の海外渡航を手伝っている。経済人としても、造船、炭鉱、水産、鉄鋼などの分野で日本の近代化に貢献している。
コロニアルスタイルの美しいテラスを持つこの住宅は、ビジネスだけでなく、文化交流の場にもなり、日本の近代化を志す多くの人たちが訪れた。邸宅前に広がる長崎港の雄大な景色も、志士たちを勇気づけたことだろう。

邸内ではグラバーや妻ツルの生涯を紹介。テラス前に広がる庭ではハート形の石があるので探してみよう

邸内ではグラバーや妻ツルの生涯を紹介。テラス前に広がる庭ではハート形の石があるので探してみよう

園内には、2階が喫茶室になった旧自由亭などほかにも洋館が立ち、またオペラ『蝶々夫人(マダム・バタフライ)』のヒロインを演じた三浦環(たまき)の像など、見どころは多い。

旧自由亭の2階の喫茶室で海を見ながらひと休み

旧自由亭の2階の喫茶室で海を見ながらひと休み

「グラバー園は行ったことがある」という方も多いだろう。けれど、また違った趣を楽しめるのが夜間開園(今年は7月20日~10月9日実施)だ。洋館が幻想的にライトアップされ、眼下の長崎港も夜景で彩られる。園内の三浦環像前広場では、「グラバー・ビアガーデン」(9月30日まで)もオープンする。
「ながさきみなとまつり花火大会」が開催される7月29日、30日には、園内からも花火を望める。

伊勢エビにも負けない“ウチワエビ”

長崎の楽しみは、“食”にもある。三方を海に囲まれた長崎は、水揚げされる魚の種類が300種を超え、“魚種日本一”といわれている。
地元で「長崎があまりに気に入って関東から移り住んだ」という女性と知り合ったが、「何より感動したのが刺し身のおいしさ」だと話してくれた。
その友人に、観光客でも入りやすいおすすめの店、と教えてもらったのが「魚店亜紗(うおだなあさ)」だ。長崎駅から徒歩1分とアクセスもよい。
木材をふんだんに使った店内に足を踏み入れると、木の温もりに包まれる。適度な広さで照明もやわらかく、初めてでも落ち着ける雰囲気だ。
「うちは地元の方だけでなく、観光客の方も多いです」と店長の長戸誠二さん。味はもちろんだが、ほどよい活気があってスタッフが気さくなのも好まれる理由だろう。観光客にとっては「おすすめは何ですか?」と聞きやすいことも大切な要素だ。

刺し身の盛り合わせ(写真は2人前)は旬の魚介7~8種が味わえる

刺し身の盛り合わせ(写真は2人前)は旬の魚介7~8種が味わえる

刺し身の盛り合わせ(1人前2200円)は日によって種類は異なるが、7~8種の魚介が並ぶという。1人前でもたっぷりな量だが、「できれば2人前からのご注文の方が大きな魚も出せるので断然お得です」とのこと。
この日は、シマアジとイシダイ、マグロ、ミズイカ(アオリイカ)、タコ、アナゴのあぶり、赤貝と豪華。
めずらしいのは、ウチワエビ。主に西日本で獲れるが、漁獲量は多くなく、地元で消費されるので都市部にはあまり出回らないという。姿は不格好だが、味は伊勢エビにも匹敵するといわれる。確かに身はプリッと弾力があるのに、舌の上にのせるととろりと溶けていくよう。甘みが濃いのに、エビ特有のイガイガとした感じがなく、上品な余韻が残る。
また、“コリコリ”とでも表現したくなるほど新鮮で身の締まったシマアジ、甘みのあるイシダイやマグロなど、長崎の魚を堪能した。地酒をはじめ、お酒の種類も豊富にそろっていた。

ウチワエビの刺し身も美味。明るいスタッフが迎える

ウチワエビの刺し身も美味。明るいスタッフが迎える

交通・問い合わせ

・グラバー園 095-822-8223
http://www.glover-garden.jp/

・魚店亜紗 095-832-8220
https://tabelog.com/nagasaki/A4201/A420101/42004870/

PROFILE

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの温泉宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

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