絵本のぼうけん

ふるさとの夏―長崎・大村の海を描いた絵本『だいちゃんとうみ』

ふるさとの夏―長崎・大村の海を描いた絵本『だいちゃんとうみ』

『だいちゃんとうみ』 作・絵:太田大八 (福音館書店)

 このお盆には、休暇を故郷で過ごしている家族も多いことでしょう。あるいは、「子連れの帰省は大変で……」と、自宅から、旅先から、ふるさとの地を思い浮かべている人もいるかもしれません。今回ご紹介する『だいちゃんとうみ』(福音館書店)は、長崎県大村町で生まれ育った著者・太田大八さんが、大村湾の夏の一日を描いた絵本です。海育ちのお父さんやお母さんにとっては、子どものころにタイムスリップしたかのような風景がページいっぱいに広がります。暑さの盛り、ふるさとの日々をじんわりと思い出させてくれる一冊をどうぞ。

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ふるさとの夏―長崎・大村の海を描いた絵本『だいちゃんとうみ』

 主人公のだいちゃんは夏休みに、いとこのこうちゃんの家に遊びに来ました。朝はやく、2人は、みそづけとたくわんを入れた「てぼ」(*1)を持って、うたせぶね(*2)が帰ってくる船着き場にかけていきます。そしてとれたばかりの魚やえびなどを、てぼに入れてもらいます。

ふるさとの夏―長崎・大村の海を描いた絵本『だいちゃんとうみ』

 家にかえると、すぐに2人はカワエビをすくいに小川へ。それをエサにして、海へ釣りにでかけるのです。こうちゃんのおにいさんの船上で、2人は次々ときすや小鯛を釣り上げていきました。

 おひるごはんは、こうちゃんのきょうだいみんなで取った、みなという貝で作ったみなめしと、釣ってきた魚のさしみです。食後は海辺で遊んで、あっという間に夕暮れに。かぜがすこしつめたくなってきました。

ふるさとの夏―長崎・大村の海を描いた絵本『だいちゃんとうみ』

 ページいっぱいに広がる風景からは、だいちゃんが肌で感じた、夏の海の一日が伝わってきます。海が近くにない子どもたちにとっては、どの場面も魅力的なようで、小さな子も小学生も引き込まれるようにお話に耳をすませます。太田さんの絵本の世界を満喫できる代表作です。
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 2016年8月に97歳で他界された太田大八さんは、その生涯を通して400冊近い絵本と児童書にさし絵を描かれました。長年子どもたちに親しまれてきた『ともだち』(講談社)、『みどりいろのたね』(福音館書店)、『今昔物語』(岩波書店)、『世界のむかしばなし』(のら書店)、『二年間の休暇』(福音館書店)なども太田さんのさし絵です。翻訳作品や日本の民話など、それぞれのテーマに合わせて雰囲気やタッチが異なる、その独特な作風は国内外でも高く注目されています。また文字のない絵だけの作品『かさ』(文研出版)は、読み手がいろいろな発見をしたり、物語を作ったりできるユニークさが話題となりました。
 太田さんは生前「こどもの本が好きな人たちが手に手をとって大きな波を起こそう」と呼びかけ、児童文化運動の情報センター「こどもの本WAVE」を立ち上げられました。子どもと絵本との出会いを大切にしつづけた太田さんの温かい思いが、『だいちゃんとうみ』からも伝わってきます。

(*1)九州地方に古くからある素朴な竹籠(かご)
(*2)伝統的なうたせ網(底引き網)漁に使う木造船

<旅のメモ帳>
 本書の最後のページには、お話の舞台となっている大村湾の地図に、こうちゃんの家やみなめしを食べたところなどが紹介されています。大村湾の北に位置する人気観光スポット、ハウステンボスから少し足をのばして、美しい海と島の風景を訪ねてみてはいかがでしょうか。詳しくは、大村観光ナビにて。

PROFILE

長嶺今日子

子ども一人ひとりの個性に合わせて絵本を選び届ける「ブッククラブえほんだな!」主宰。子育て支援のイベントやライブラリーの選書も手がける。また、外国語による絵本の読み聞かせ活動にも長年携わっている。

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