京都ゆるり休日さんぽ

終い天神の寄り道に。330年以上続く「粟餅所・澤屋」で一服

毎月25日、北野天満宮の境内で開催される「天神市」。「天神さん」の愛称で親しまれるこの縁日ですが、一年の締めくくりとなる12月25日は「終(しま)い天神」と呼ばれ、年迎えの支度をする参拝客らでいっそうにぎわいます。

「紅梅」(450円)。あんこ、きなこが1個ずつ多い「白梅」(600円)も。ともに煎茶付き、税込み

「紅梅」(450円)。あんこ、きなこが1個ずつ多い「白梅」(600円)も。ともに煎茶付き、税込み

「終い天神」を訪れたなら、門前の「粟餅所・澤屋」に立ち寄るのが京都人のお決まりのコース。手土産を求める人から席で一服する人まで、店は常に多くの客でにぎわいますが、できたての粟餅(あわもち)が次々と包まれ、運ばれていく様子を眺めていると、待ち時間もあっという間。人々が「おおきに」「良いお年を」と口々に交わし合うのも、師走ならではの光景です。

その場でたっぷりきなこがまぶされる。あんこ・きなこを好みの配分で注文できるのもうれしい

その場でたっぷりきなこがまぶされる。あんこ・きなこを好みの配分で注文できるのもうれしい

粟餅とは、蒸した粟をなめらかにつきあげ、あんこやきなこでいただく和菓子。柔らかくもちもちとした食感に、時折ぷちっと弾ける粟のつぶがクセになる味わいです。店内用を頼むと、上品な甘さのこしあんで包まれたものと、棒状の粟餅に香ばしいきなこをまぶしたものとが一皿に。持ち帰りでは、あんこときなこを好みの配分で詰め合わせてくれます。

もちもちの食感をおいしくいただけるのは当日中。粟餅10個入り(1,200円・税込み)

もちもちの食感をおいしくいただけるのは当日中。粟餅10個入り(1,200円・税込み)

澤屋の創業は1682(天和2)年と伝えられ、13代にわたって北野天満宮の門前茶屋を営んできました。しかし、澤屋の粟餅が最初に文献に登場するのは、1645(正保2)年(序文には1638年と記述あり)に刊行された江戸時代の俳諧(はいかい)論書『毛吹草(けふきぐさ)』。店を構える以前に、すでに北野名物として澤屋の粟餅が親しまれていたことがうかがえます。

北野天満宮門前の店。持ち帰り専用の窓口もあり、天神さんの日はひっきりなしに来客が

北野天満宮門前の店。持ち帰り専用の窓口もあり、天神さんの日はひっきりなしに来客が

「粟はもともと、米の代用品として食べられてきたものです。当時は庶民の穀物だった粟を使って、甘いもんをこしらえたのでしょう。今のように砂糖が普及していなかった時代はもっと甘みが少なかったと思いますが、時代とともにおいしく改良されてきました」。そう語るのは、13代目当主・森藤哲良(もりふじ・てつろう)さん。

店内に飾られている粟の穂。現在は生産者が減り、四国や九州などから取り寄せている

店内に飾られている粟の穂。現在は生産者が減り、四国や九州などから取り寄せている

店内には、たわわに実った粟の穂が飾られており、珍しいと眺めていく人も多いとか。「今では粟の生産者が少なくなって、米より高価になりました」と、森藤さんは笑います。

森藤哲良さん、淳平さん親子。時には先代の與八郎さんが加わり、3代そろって作業することも

森藤哲良さん、淳平さん親子。時には先代の與八郎さんが加わり、3代そろって作業することも

時間が経つと硬くなりやすい粟餅は、できたてが一番おいしい状態。作り置きできないので、店の奥では常につきたての粟餅が仕込まれています。注文が入ってから手早く丸められ、その場であんこに包み、きなこをまぶして提供。一緒に作業をするのは、息子の淳平さん。手が記憶しているかのようにテキパキと作られる様子を眺めていると、その長い歴史以上に、日々のたゆまぬ努力やおもてなしの心が、このおいしさを作り上げているのだと感じられます。

落ち着いた雰囲気の店内。さっと一服するだけでも心が満たされる

落ち着いた雰囲気の店内。さっと一服するだけでも心が満たされる

日持ちせず、作り置きもできないため、北野名物の粟餅をいただけるのはこの門前の店のみ。だからこそ、北野天満宮に参拝すると自然に足が澤屋の方へと向かいます。師走の慌ただしさの合間に、この場所でしか味わえない口福(こうふく)を求めて、立ち寄ってみてください。(撮影/津久井珠美 文/大橋知沙)

【粟餅所・澤屋】
075-461-4517
京都市上京区紙屋川町838-7
木曜・毎月26日定休(日曜・祝日の場合はなるべく営業、前後の日が代休)
9:00〜17:00(16:30以降、売り切れ次第閉店)
市バス北野天満宮前からすぐ

PROFILE

大橋知沙

編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

フォトグラファー

津久井 珠美(つくい・たまみ)

1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告、家族写真など、多岐にわたり撮影に携わる。
http://irodori-p.tumblr.com/

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