にっぽんの逸品を訪ねて

神様からの授かりもの 富山湾の冬の恵み「氷見の寒ブリ」

脂ののった「ひみ寒ぶり」。刺し身やブリしゃぶで味わいたい

脂ののった「ひみ寒ぶり」。刺し身やブリしゃぶで味わいたい

昨年12月2日、「ひみ寒ぶり」宣言が発表された。氷見(ひみ)市民や全国の食通たちも心待ちにした、この冬の寒ブリ最盛期到来の合図である。

寒ブリとは、冬に取れるブリのこと。
富山湾に面した富山県氷見市の氷見漁港は、日本海側有数の漁獲高を誇る。水揚げされる魚の種類は年間200種にものぼるといわれるが、なかでも地元漁師たちから「神様からの授かりもの」と、大切に思われてきたのが寒ブリだ。

産卵活動のために南下する途中、例年、11月~12月に富山湾を通るブリは、脂ののりがよく、ほどよく身が引き締まり、まさに食べごろ。
味だけでなく、昔から漁獲するチャンスが年に1、2回、しかも1回数時間しかなかったため、神様からの授かりものというほど貴重な品だった。

都内でも「ひみ寒ぶり」宣言のマスコミ発表会が行われた

都内でも「ひみ寒ぶり」のマスコミ発表会が行われた

「ひみ寒ぶり」は2011年に商標登録され、本格的なシーズンを迎えると「ひみ寒ぶり」宣言を発表。終了も宣言される。その期間に富山湾の定置網で漁獲され、氷見魚市場で競られた7㎏以上のブリだけが「ひみ寒ぶり」とよばれるのだ。1本1本に販売証明書を付け、専用ケースで出荷される。

都内にも「ひみ寒ぶり宣言が出た」という情報が届き、ぜひ現地へ行って食べてみたいと、氷見に向かった。

仲買人も務める魚のプロが営む宿へ

氷見市では、「第6回ひみぶりフェア」が開催され(~2月末日ころまで。ブリの水揚げがなくなりしだい終了)、市内の民宿や飲食店計36店で氷見のブリが味わえる。

この日の宿は、その1軒である民宿「あお」。漁師や魚屋、料理店勤務の経験もある松波久彭(ひさみち)さんが、40年前に開業。松波さんは魚の仲買人でもあり、市(いち)がある日は、氷見魚市場で直接、朝取れの魚を仕入れる。
氷見には40軒ほどの宿があり、そのうち約30軒が民宿で、それぞれに特徴があるそうだ。

阿尾城跡近くに立つ「あお」

阿尾城跡近くに立つ「あお」

「うちは宿泊人数20~25人のこぢんまりした民宿ですが、その分、料理は自分で手をかけて納得したものがお出しできると思っています。いろいろ試行錯誤しましたが、やはり昔から地元で食べられてきた氷見らしい食べ方が一番。お客さんにも喜んでもらえます」と松波さん。
氷見らしい食べ方とは、新鮮な素材を生かす調理法だという。

夕食の刺し身だけでもこれだけの種類が盛られていた

夕食の刺し身だけでもこれだけの種類が盛られていた

「氷見の魚は鮮度がいいからまずは生で食べる」との言葉通り、夕食にも生の魚が並んだ。予約したのはぶりコースだが、寒ブリ以外の魚もたくさん。
この日のお造りは、ブリの刺し身はもちろん、ヒラメにクルマダイ、甘エビ、フグのたたき。肉厚のヒラメやタイのおいしいこと。甘エビはとろりとして甘く、軽く表面をあぶったフグはうまみが凝縮されて香ばしさも加わっている。
富山湾の宝石といわれる白エビやスズキの白子、アンコウのキモも並んだ。

ブリの刺し身は脂の霜降りがきれい

ブリの刺し身は脂の霜降りがきれい

寒ブリの料理はこの日は5種類あった。
刺し身は、ぷりぷりと歯ごたえのある腹の部分と、脂ののりきった背の部分の、2種類の味わいが楽しめた。

「ふと」とよばれるブリの胃袋はコリコリとした珍味。そして北陸の郷土料理「かぶら寿し」は、塩漬けにしたカブとブリを合わせ、さらに麴(こうじ)で漬けてある。
実は、これまで都内でしかかぶら寿しを食べたことがなく、苦手にしていたのだが、この自家製かぶら寿しはおいしかった。分厚いブリのうまみと塩味がカブにしみて、麴の甘みも加わり、まろやかな味。
現地で本物の味に出会えるのも旅の妙味の一つだろう。

肉厚のブリをはさんだ自家製のかぶら寿し。奥は「ふと」

肉厚のブリをはさんだ自家製のかぶら寿し。奥は「ふと」

焼き物はブリのカマ焼き。宿泊人数によっては切り身になるそうなので、幸運だった。カマの食べ方が分からない宿泊客には、身を取り出してくれるという。

妻の恵利子さん(左)がブリのカマの身をほぐしてくれた。右は松波久彭さん

妻の恵利子さん(左)がブリのカマの身をほぐしてくれた。右は松波久彭さん

そして、ブリしゃぶ。つやつやと光る切り身をさっと湯にくぐらせ、自家製ポン酢でいただく。
表面だけ火が通り、中はレア状態。とろりとした舌触りとともに、ブリの甘みとうまみが口に広がる。溶けるような食感。脂がほどよく落ちて食べやすく、もう1枚、もう1枚とはしがすすむ。
このほか、カニも付いて、大満足の夕食だった。朝食の食卓にはブリ大根もあった。

ブリしゃぶはさっと湯にくぐらせて

ブリしゃぶはさっと湯にくぐらせて

寒ブリの最盛期を迎えて活気づく氷見漁港へ

翌日の早朝、氷見漁港で6時から始まる競りを見学した。観光客も、2階の通路から見学できる。
氷見の漁業は400年の歴史がある定置網漁だ。魚を追いかける漁ではなく、魚が広大な網の中に入り込んで泳いでいるので、魚にストレスがかからない。
その定置網までは、氷見の浜から漁船で20~40分ほどの近さ。まるで、氷見沖に天然のいけすがあるような状態なのだ。

漁から戻った漁船が、次々に岸壁に横付けされ、降ろされた魚はあっという間に仕分けて並べられる。
さまざまな魚の競りが終わると、おおとりとでもいうべき寒ブリの競りが始まった。競り人の声に応じて買い手が手やりで値段を示す。素人目にはわからないが、あっという間に買い手が決まるようで、次から次へ、丸々と太ったブリに購入者が用紙を置いていく。

競り人のまわりに緊張感が漂う

競り人のまわりに緊張感が漂う

それにしても、早い。一刻を争うように、手際よく大量の魚が競られ、運ばれていく。
「氷見の魚の鮮度は抜群」と聞くが、それを目の当たりにした思いだった。
松波さんは、「氷見の魚は大量の氷を使って、活(い)けじめにするから鮮度が長持ちしておいしい」と話す。漁船がたくさんの氷を積んでいき、水揚げしたそばから±0度ほどで仮死状態にするそうだ。
地形という自然の恵み、そこに人間の知恵と工夫が加わって、氷見の食文化が育まれてきたことを感じた。

丸々と太ったブリ。見た目にも鮮度抜群

丸々と太ったブリ。見た目にも鮮度抜群

松波さんによれば「氷見の魚の旬は30~40日くらいで変わる」という。では、この記事が出るころは寒ブリが終わってしまうかもしれない、と心配すると「寒ブリが終わっても、2、3月はアンコウやタラ、4、5月はクロダイやサヨリ、そのあともフグやメジマグロ、カキ……と寒ブリに負けないくらいおいしい魚介類の食べごろが続くよ」とのこと。
魚好きにはたまらない町のようだ。

*食事内容は取材当日のものです。季節や仕入れで、質はそのままに内容が変わることがありますのでご了承ください。

*氷見の魚の旬は短期間で変わります。気象条件などにも左右されますので、ご希望の食材がある場合は、前もって氷見市観光協会や各宿へご相談ください。

*氷見魚市場の場内は特別な許可を得て撮影しています。

問い合わせ

氷見市観光協会
http://kitokitohimi.com/

民宿 あお
http://www.kitokitohimi.com/site/stay/ao.html

PROFILE

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの温泉宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

富士山を望む絶好の立地 優美にたたずむ世界遺産センター

一覧へ戻る

世界遺産で過ごす静かな夜 五箇山相倉の合掌造り

RECOMMENDおすすめの記事