京都ゆるり休日さんぽ

市松模様をおあがりやす。京寿司の老舗「いづ重」の上箱寿司

市松模様をおあがりやす。京寿司の老舗「いづ重」の上箱寿司

「上箱寿司」(持ち帰り1,728円・税込み)。えび、小鯛、とり貝、厚焼き卵などに、夏場はハモ、冬は鰆(さわら)など旬の魚が加わる

ひと箱に、彩り豊かな具材がモザイク画のようにきらめく「いづ重」の「上箱寿司(「じょうばこずし)」。祇園・八坂神社の石段下で京都人に愛され続ける、京寿司の老舗の逸品です。お正月、節分、ひな祭り、お花見など、お寿司の欠かせない行事とあれば、地元の人々がついのぞくのはいづ重の軒先。「まだある?」とのれんをくぐり、包みをさげて帰路につく常連客の姿に、京都の暮らしの風景を垣間見ます。

市松模様をおあがりやす。京寿司の老舗「いづ重」の上箱寿司

店に入ってすぐの床几(しょうぎ)には、昔ながらの火鉢が。持ち帰り用のお寿司を暖をとりながら待つことができる

海が遠く鮮魚が手に入りにくかった京都では、お寿司といえば鯖(さば)寿司や箱寿司などの保存が利くものが主流でした。いづ重も、鯖寿司の名店「いづう」からのれん分けを許され、明治45(1912)年に店を構えて以来、100年以上京寿司の文化を担ってきた店の一つ。現在のレシピのほとんどは幕末には完成されており、今もその味や作り方をまったく変えることなく作り続けている店は、京都でも数少ないといいます。

市松模様をおあがりやす。京寿司の老舗「いづ重」の上箱寿司

カウンターでお寿司を仕上げる4代目・北村典生さん。変わらぬお品書きの一方で、「大人のいなり」など北村さんが考案したメニューも

「例えば、酢飯のことを私らは『しま』と呼びますが、この呼び方が残っている店ももうほとんどありません。米やお揚げもおくどさんで炊いているし、呼び方や道具まで昔ながらのやり方ゆうんが、うちの特徴ですね」

市松模様をおあがりやす。京寿司の老舗「いづ重」の上箱寿司

今もかまどでごはんとお揚げを炊き上げている。釜から上がる湯気の変化を見極めて、火加減を調節するのは熟練の技

4代目・北村典生(きたむら・のりお)さんはそう語ります。祇園・八坂神社前という立地から、客層は観光客が中心かと思いきや、多くは顔なじみの地元客。街の変化を見守りながらも、古き良き京都の姿を誰よりも知る祇園の人々に「昔なつかしいお寿司の味がする」と言ってもらえることから、「変えずにこられたんは、ここ(祇園)やったからかもしれませんわ」と北村さんは笑います。

市松模様をおあがりやす。京寿司の老舗「いづ重」の上箱寿司

歴代の店の当主や従業員たちの写真。祇園の街とともに歩んできたことがうかがえる

さてこの上箱寿司、美しい市松模様がどうやって作られるのか想像できますか? てっきり、さいの目状に切り分けたものを1マスずつ組み合わせていくのかと思いきや、1枚の押し寿司を切って並び変えるだけ。えび、小鯛、厚焼き卵などを並べて作った押し寿司を切り、まるでパズルのように少しずつずらすと、見事な市松模様に組みあがるのです。

市松模様をおあがりやす。京寿司の老舗「いづ重」の上箱寿司

上箱寿司は、このように具材の並んだ1枚の押し寿司を切り、組み替えることで市松模様を作る

伝統的な京寿司がそうであるように、この上箱寿司もまた、すべての具材を煮たり酢じめにしたりしてひと手間加えたもの。少し甘めながらもしつこさがなく、ネタに挟まれた木の芽がさわやかな余韻を残します。

市松模様をおあがりやす。京寿司の老舗「いづ重」の上箱寿司

切り分けたお寿司の位置をサッと変えるだけ。あっという間に組みあがる

看板商品の鯖寿司は、脂ののった長崎県・対馬産の鯖を使用。昆布と竹の皮でぎゅっと包むと、2〜3日は日持ちするそうです。「鯖だけでもくさる、米だけでもくさる。でもなぜか、これが合わさると日持ちする。昔の人の知恵ですね」と北村さん。手摺(す)り木版の掛け紙で包まれた古風なパッケージも、長年変えずに守り続けていることの一つです。

市松模様をおあがりやす。京寿司の老舗「いづ重」の上箱寿司

自慢の鯖寿司(大4,536円、小・2,268円、極上5,616円・すべて税込み)。端正な包みも魅力

間もなく訪れる桃の節句。それを過ぎれば日に日に春の気配は増し、人々は桜の一報を心待ちにします。ひな祭りやお花見に、祇園のなじみ客にならって、美しい京寿司のひと折を持ち帰ってはいかがでしょう。(撮影/津久井珠美)

市松模様をおあがりやす。京寿司の老舗「いづ重」の上箱寿司

八坂神社前に店を構えて70年ほど。老舗ながらも親しみを感じるたたずまいで地元客に愛される

【いづ重】
075-561-0019
京都市東山区祇園石段下
10:30〜19:00
水曜定休
市バス祇園からすぐ

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PROFILE

大橋知沙

編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

フォトグラファー

津久井 珠美(つくい・たまみ)

1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告、家族写真など、多岐にわたり撮影に携わる。
http://irodori-p.tumblr.com/

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