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フェルメール&陶器の「ふるさと」デルフトとマウリッツハイス美術館のハーグ

デルフトの新教会

画家フェルメールが生まれ育ち、住んだ街として知られる古都・デルフト。旧市街のマルクト広場にそびえ立つ新教会

オランダ南西部の小都市デルフト。この街は世界中に愛されている二つの「ふるさと」としての顔を持ちます。一つは、白地に藍色の鮮やかな染め付けが美しく、デルフト・ブルーの名称で親しまれる「デルフト陶器(デルフト焼)」が誕生した場所として。もう一つは、「光の画家」と呼ばれ、日本でも絶大な人気を誇るフェルメールが生涯のほとんどを過ごした街として、多くの人々をひきつけています。石畳にそって連なるレンガ造りの建物に、もくもくと広がる雲――。フェルメールの描いた世界が広がるデルフトと、隣にある政治の都市・ハーグへ足を伸ばしました。

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デルフト陶器の職人技に触れる

ロイヤル・デルフト

17世紀から唯一続く「ロイヤル・デルフト」の工房。当時から続く伝統の手法で一つ一つ手作業で絵付けをしていく様子を見学できる

アムステルダム中央駅から電車で約50分。さらにバスで約10分。一つ目の「ふるさと」の謎を探るべく、「ロイヤル・デルフト」を訪ねました。1653年に「デ・ポルセライネ・フレス」として創業したロイヤル・デルフトは17世紀から続く唯一の窯元。ここでは、デルフト陶器の歴史や制作工程を学んだり、数々の貴重なコレクションを見たりすることができます。また、手作業で絵付けする職人の技を間近で見学できるのも魅力です。

レンブラント

480枚のデルフト焼きを使用して描かれたレンブラントの「夜警」。2人の絵付け師が1年かけて制作したそう

マヨリカ焼きの技法が16世紀後半オランダに伝わると、デルフトでも陶器が作られるようになりました。1602年にオランダ・東インド会社が設立され、大量の中国磁器がオランダに輸入されると、デルフト陶器にも影響を与えます。中国・明の衰退で輸入量が減少するにつれ、デルフトでも中国磁器を模して白磁に藍色の絵付けをするようになり、「デルフト・ブルー」が生まれました。

絵付け 

17世紀から唯一続く「ロイヤル・デルフト」の工房。左は細い筆でデザインの輪郭を描いた状態。右は絵付けが完成したもの

実際に絵付け師の作業を間近で見ると、その細やかさに驚かされます。PR&コミュニケーション担当のヘレン・テイラーさんは「伝統的な手法ですべて手塗りの一点物。一つとして同じ物はありません。高度な技と経験が必要なマスター・ペインターになるには、8~10年ほどかかります」。

  

手作業でつくられたデルフト陶器の底には「デルフト」の文字や絵付け師のサイン、製造番号が入る

目の前で作業していた二人もマスター・ペインター。毛の太さや形、長さが少しずつ違う筆を何本も使い分け、巧みに動かして黒1色のみで全体を描きます。色の濃淡は水の分量を変えるだけ。細かく水量を調整して表現します。絵付けの段階では黒色ですが、1200度の窯で焼かれ、美しい藍色へと変身します。

窯

絵付けされた陶器は1200度の窯で焼いて冷ました後、仕上げの作業に入る

ロイヤル・デルフトでは5人を含む20人の絵付け師がいます。職人の養成も行っており、コンピューター・デザイナーから職人になった人もいるそうです。

ショップ

「ロイヤル・デルフト」のショップ。ピンクや赤のチューリップとデルフト陶器の色合いは相性抜群。風車や船などオランダらしいデザインが人気という

  

オランダ生まれの人気者ミッフィーの商品も。ミッフィーのマグネットは日本人のお土産に人気だそうです

びびりは禁物 マイ「デルフト・ブルー」をつくろう 絵付けを体験!

「ロイヤル・デルフト」でのメインイベントは絵付け体験のワークショップ。タイル(所要時間約1時間、1人29ユーロ、最少催行人数2人)の絵付けに挑戦しました。
もちろん、自分で好きな柄を下絵に描いてもOKですが、絵心のない筆者は、いくつか用意された見本からオランダらしい風車のデザインをチョイス。鉛筆でプレートに下書きをします。
その後、いよいよ絵付けスタート。しかし、分量がわからず、さっそくシミのような点を描いてしまいました。「筆を扱い慣れている日本の方はお上手です」とヘレンさん。確かに筆の動かし方は徐々に慣れてくるのですが、太さの調整や濃淡のつけ方がとても難しい……。

  

絵付け体験。まずは、先の細い筆を使ってアウトラインから描きます。失敗できないと思うと、手が震えます……

そこで、ヘレンさんにコツを聞きました。
「まずは、アウトラインから始めましょう。毛先の細い筆で描き始めるのがいいですね。描くときは上から下へ。濃い色から塗り始め、水で薄めていく方がうまくいきますよ。あとは、いきなり始めず、破片などで練習してからがいいです」

なるほど。おそるおそる筆を動かしていたら、線がぶれます。その姿を見て、ヘレンさんがもうひと言。「思い切りも大事です。大胆に!」

確かに、1度筆を置いたら、ためらわずに線を描いた方が濃淡のバランスもよく、美しい線になります。リズミカルに楽しく。水の分量もパレットの上で少しずつ足したり、増やしたりをこまめに行うとイメージ通りの絵に近づきそうです。

  

左上の見本を参考に、絵付け。筆の太さも変えながら濃淡を出すのが想像以上に難しかった

約1時間半で絵付けが完成。この日の作業はこれで終了し、後日、窯で焼かれた完成品が郵送されます(郵送料が別途必要。事前に確認を)。

どきどきしながら到着を待った、マイ・デルフト・ブルーは思った以上の出来栄えで、白地に鮮やかな藍色が上品に焼き上がっていて感動しました。今はチューリップと一緒にリビングに飾り、オランダの香りを楽しんでいます。

タイル以外にも、装飾皿(37ユーロ)やクリスマスベル(39ユーロ)などの絵付け体験が可能。デルフト・ブルーという伝統的なシリーズを器に使ったアフタヌーンティー(1人19.50ユーロ)もあります。すべて事前予約が必要です。

デルフト焼き

完成したデルフト焼き。自分が絵付けしたとは思えないほどの出来栄えに思わず感動

ちなみに。KLMオランダ航空の機内安全ビデオでは、デルフト焼が登場します。その数なんと1000枚以上! タイルを一枚一枚撮影し、ストップモーションの技法を使って作られています。つい、見逃しがちな機内安全ビデオですが、ワークショップ体験後に搭乗した時は、制作工程の大変さを想像しつつ、その美しさに見入ってしまいました。

フェルメールの「光」を探して デルフト町歩き

デルフトが生んだオランダを代表する画家、ヨハネス・フェルメール(1632~75)。現存する作品がわずか三十数点で、残した作品もしばしば謎めいています。また、フェルメール自身も自画像が残っておらず、言葉も伝わっていないため、謎のベールに包まれた画家とされています。
フェルメールのわずかな作品のうち、風景画は「デルフトの眺望」と「小路」の2点のみ。ともに、デルフトを描いた作品と考えられています。

デルフトの眺望

フェルメールが「デルフトの眺望」を描いたとされる場所 (c)Delft Marketing

デルフトが活躍した時代から約350年。「ロイヤル・デルフト」を出て駅の方向へ戻ると、「デルフトの眺望」が描かれたとされる風景が広がります。フェルメールが作品で描く柔らかな光。その光を想像しながら見ると、水面と空から放たれる静かな光を感じます。時間の流れが止まったかのような穏やかな世界です。

  

古都デルフトの中心部、マルクト広場。新教会がそびえ立つ。左手に進み橋を渡ったところにフェルメール・センターがある

水路が走り、屋根が階段状になったレンガ造りの建物が並ぶ旧市街に入ると、フェルメールが過ごした17世紀の面影を色濃く感じます。中心部のマルクト広場にはフェルメールが洗礼を受けた新教会、その向かいには結婚式を挙げた新庁舎がそびえ立ちます。この広場周辺に、アトリエだった建物や幼少期を過ごしたとされる場所などフェルメールゆかりの地がいくつかあります。

フェルメール&陶器の「ふるさと」デルフトとマウリッツハイス美術館のハーグ

フェルメールが洗礼を受けた新教会。旧市街にはフェルメールが埋葬された旧教会もある

広場から一本運河を越えるとフェルメールの生涯や作品を紹介する「フェルメール・センター」があります。数軒先にある「Kek(ケック)」は「ロイヤル・デルフト」のヘレンさんもお薦めの人気カフェ。ヘルシーなメニューが豊富で、新鮮な野菜や果物を使ったフレッシュジュースは町歩きのひと休みにぴったり。店内はデザイナーズ・グッズも展示され、おしゃれな空間です。

フェルメール&陶器の「ふるさと」デルフトとマウリッツハイス美術館のハーグ

デルフトで人気のカフェ「Kek」。ランチタイムは待ち時間必至です(筆者は午後1時前に行き、30分ほど待ちました)

ケックの隣はフェルメールが生まれた「飛ぶ狐亭」があった場所。そのまま運河沿いを進み、フラミング通り40と42の間が「小路」が描かれた場所といわれています。
旧市街を歩くと、どの街角も「小路」から切り取ったような空間で、300年以上たった今でも変わらず、フェルメールの描いた世界が日常として息づいているように感じました。

  

運河沿いに並ぶ、レンガ造りの街並み

あの名画に会える「マウリッツハイス美術館」

デルフトから、トラムに乗り込み、約20分離れたオランダ第3の都市、ハーグへ向かいます。
ハーグは国王の暮らす宮殿や中央官庁、国際司法裁判所がある、政治の中心地。まず、国会議事堂に隣接する「マウリッツハイス美術館」を訪れました。数々の至宝を有するこの美術館での一番の目的は、フェルメールの代表作「真珠の耳飾りの少女」を鑑賞すること。そして、忘れてはならないのが、先ほど実際にこの目で見たデルフトの眺望をフェルメールの作品として味わうことです。

マウリッツハイス美術館

オランダで最も美しい建物のひとつと称されるマウリッツハイス美術館

マウリッツハイス美術館は17世紀に建てられたオランダ王室の系譜の貴族の元邸宅。ルネサンス風の建物が美しく落ち着いたたたずまいです。内装も豪華なシャンデリアや鮮やかな天井画が美しく、重厚感たっぷり。貴族の邸宅でコレクションを楽しむ気分で、じっくりと作品の世界にひたることができます。

  

マウリッツハイス美術館は館内の装飾も見応え十分。シルクの壁紙や輝く豪華なシャンデリア、鮮やかな天井画などに彩られる。貴族の邸宅の面影を残しつつも、親しみやすい雰囲気もあります

いよいよ、邸宅の一室に静かに飾られている「真珠の耳飾りの少女」とご対面。近くで鑑賞すると、光と影の巧みな筆遣いがよくわかります。真っ黒な背景にラピスラズリを原料とする青色の美しさが目を引き、耳からこぼれ落ちそうな真珠の粒の艶(つや)やかさも印象的。作品全体に透明感があり、少女の瞳に吸い込まれるような気持ちになります。

続いて、先ほどデルフトで見た「デルフトの眺望」を鑑賞。実際の景色と見比べると、フェルメールが巧みに建物の位置などを変えていることが分かります。しかし、作品の方が雲の様子や描かれた人物が今にも動きそうなほど生き生きとしているように感じられるから不思議です。フェルメールの筆で新たな命が吹き込まれているかのようです。

他にも見逃せない作品があります。フェルメールと同時期に活躍したレンブラントの「テュルプ博士の解剖学講義」も圧巻。ルーベンスの「聖母被昇天」など200点以上が展示されているので、時間には余裕を持って訪れることをおすすめします。

館内では小さな子供たちも、大人に手を引かれフェルメールの作品をじっと鑑賞しています。こんなに身近に、思い立ったら気軽にフェルメールやレンブラントを鑑賞できるなんて……。ハーグに住む人たちがうらやましくなりました。

ビネンホフ

ビネンホフの一角

美術館を出たら、オランダの国会議事堂・ビネンホフをお散歩。13世紀の「騎士の館」など、13~17世紀にかけて造られた建物が並びます。ホフフェイファの池に映る姿も貫禄があります。日本と比べると規模は小さいですが、そのたたずまいに由緒と威厳を感じました。スーツ姿の人たちが自転車でビネンホフ内を颯爽(さっそう)と駆け抜ける姿もまた、オランダらしさを感じました。ハーグは街全体が緑に囲まれ、古い建物も点在し、とても落ち着いた雰囲気が印象的でした。

ビネンホフ

ビネンホフは街の中心部にありながら落ち着いた雰囲気

デルフトとハーグは、アムステルダムから約1時間と日帰りが可能な街です。職人の手仕事に触れ、旅の思い出の一品を作るのもよし、オランダが生んだ巨匠の足跡をたどり謎解きをするもよし、貴族の邸宅で自宅気分で名画を満喫するもよし。あなただけの楽しみ方で、すてきな1日を過ごしてみてください。(&TRAVEL編集部)

■取材協力
オランダ政府観光局
https://www.holland.com/jp/tourism.htm

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