京都ゆるり休日さんぽ

歩く、学ぶ、育む 新しい日本庭園とのかかわり「無鄰菴」

木々がいっせいに芽吹き、みずみずしい新緑が古都を彩る季節。この時期、木漏れ日や水のせせらぎといった初夏の自然を五感で感じながら、京都らしい文化に触れることができる場所が、岡崎エリアの日本庭園「無鄰菴(むりんあん)」です。国の名勝に指定されているだけでなく、日本文化に理解を深めるさまざまなアクティビティーを実施しているため、新しい日本庭園の楽しみを体感できると話題を集めています。

歩く、学ぶ、育む 新しい日本庭園とのかかわり「無鄰菴」

新緑あふれる初夏の「無鄰菴」。木々の向こうに東山の借景が広がる(画像提供:無鄰菴)

明治〜大正時代の政治家、山県有朋の別荘として造営された無鄰菴は、山県の意図を反映しながら、明治を代表する作庭家の一人、七代目小川治兵衛によって作られました。それまで日本庭園といえば、景石を大きな島に、池を大海に見立てたりといった象徴的な表現が多く見られました。しかし無鄰菴は、明るく開放的な芝生に琵琶湖疏水から引き込んだ「流れ」が躍動的に走り、庭を訪れる野鳥や自生する野花をも生かした野趣あふれる空間で、新しい庭園のスタイルを示しました。

歩く、学ぶ、育む 新しい日本庭園とのかかわり「無鄰菴」

園内の母屋から眺めた庭園。飛び石の配置や小川の流れ一つひとつが繊細な感性のたまもの(画像提供:無鄰菴)

無鄰菴のチケットには、庭園に造詣(ぞうけい)の深かった山県の庭園観を表す言葉がつづられています。「雨」「苔(こけ)」「東山」「野花」「流れ」の5種類があり、どれが配られるかはお楽しみ。例えば「苔」には、「苔によっては面白くないから、私は断じて芝を栽(うえ)る」と書かれており、日本庭園の定石であった苔ではなく芝生を採用することへの、山県の強い美意識がうかがえます。

歩く、学ぶ、育む 新しい日本庭園とのかかわり「無鄰菴」

無鄰菴の庭園美をひもとくキーワードが記されたチケット(画像提供:無鄰菴)

このように、ちょっとした鑑賞のヒントを得ることで、日本庭園のおもしろさはグッと深まります。現在無鄰菴の育成管理を行う植彌加藤造園(うえやかとうぞうえん)が取り組むのは、作庭当初の姿や名勝に指定された価値を守りながらも、現代の感性や気候変動に合った「生きている庭」を育み、それを後世に残してくれる人々を増やすということ。チケットに記されたキーワードもそのきっかけの一つですが、ほかにも日本庭園をより身近に感じ、理解を深めてもらうための取り組みを多数行っています。

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母屋は庭を眺めることを目的とした開放的な造り(画像提供:無鄰菴)

庭園を見渡すことのできる母屋や離れの茶室では、イベントや講座を月数回にわたり開催。庭園鑑賞のヒントになる講座はもちろん、お茶席やお香のワークショップ、時にはカフェや交流会など、多彩な切り口で日本の文化や庭園を学ぶアクティビティーを設けています。

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母屋でいただける抹茶(干菓子付き600円・税込み)。こちらは講座とは別に、毎日提供されている(画像提供:無鄰菴)

「日本庭園をより深く味わうには、お茶やお香といった庭園以外の文化の知識も必要です。和歌のフレーズが和菓子の銘になり、その情景が庭の造形となるように、それぞれの文化が別ジャンルのものではなく、生活の中で一体となったものだということを感じていただけたらうれしいです」と、無鄰菴プログラムディレクターの山田咲さんは語ります。

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毎週火曜日の「在釜(ざいふ)」。「釜を炉にかけているので、お気軽にお茶をどうぞ」という意味で、庭園解説付きでお点前を拝見できる(予約不要 1000円・税込み、画像提供:無鄰菴)

毎週火曜日に実施されているお茶席のように予約不要で参加できる体験から、テーマごとにじっくりと学ぶ予約制の講座、複数回にわたるプログラムまで、観光客でも、リピーターや地元の人々でも参加できる多彩なラインアップ。文化財の中でひざを突き合わせて学び、語り、体験すると、知識が腑(ふ)に落ちると好評です。

歩く、学ぶ、育む 新しい日本庭園とのかかわり「無鄰菴」

庭園コンシェルジュによる解説付きの散策や、野鳥の講座など、多彩なアクティビティーがそろう(画像提供:無鄰菴)

また、登録者にメルマガや限定イベントなどの案内を行う「フォスタリング・メンバーズ」や、地域の人々がボランティアで無鄰菴との関わりを見つける「フェローズ」など、独自のメンバーズ制度があることにも注目。伝統を守り、鑑賞されるだけの文化財ではなく、人や地域が一体となって育んでいく姿勢に、これからの日本庭園の可能性を感じます。

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1895(明治28)年に移築されてきた茶室(画像提供:無鄰菴)

それまでの日本庭園の意匠を根本から問い直し、明るく開かれた近代日本庭園の形を示した、無鄰菴。鳥のさえずりに耳を澄ませ、光を受けてキラキラと輝く水の流れを見つめながらゆっくりと庭を散策すると、五感が開かれていくような心地よさが感じられます。そして、眺め、歩くだけではない、体感する庭園の楽しみにもぜひ触れてみてください。山県有朋がこの庭に自由で新しい自然観を見いだしたように、現代の感性にフィットした日本庭園との関わりがきっと見つかるはずです。

【無鄰菴】
075-771-3909
京都市左京区南禅寺草川町31番地
4月〜6月8:30〜18:00(季節によって変動あり。詳細はHPで要確認)
入場料:410円(小学生未満は無料)
12月29日〜31日休
https://murin-an.jp

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PROFILE

大橋知沙

編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

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