にっぽんの逸品を訪ねて

気分爽快! 奥飛驒の渓谷を走るレールマウンテンバイク

鉄道レール上を走る新感覚のアクティビティー

鉄道レール上を走る新感覚のアクティビティー

岐阜県飛驒市の神岡町では、マウンテンバイクで廃線跡の鉄道レールを走る「レールマウンテンバイクGattan Go!!(ガッタンゴー)」が人気をよんでいる。
歩くよりは早く、車よりはゆっくりと、まわりの景色を楽しむのにちょうどよい速度。しかもマウンテンバイク2台が左右バランスよく金属フレームで固定され、ペダルをこいでレール上を進むので、安全性も高い。幅広い年齢層が楽しめる新発想のアクティビティーだ。
あまりの人気ぶりに、市街を走る「まちなかコース」に加え、4月21日には新しく「渓谷コース」がオープン。奥飛驒の絶景スポットを満喫できる待望の新ルートが誕生した。

鉄道資産を残したい! 住民の熱意で誕生

なぜ、神岡町で新発想の乗り物が生まれたのだろう。
奥飛驒の深い山あいにあるこの町は、鉱山とともに発展してきた歴史がある。養老年間(奈良時代)にはすでに金を産出したといわれ、江戸時代には幕府直轄の鉱山となった。明治初期に三井組が経営に着手してからは鉱山も町もめざましい発展を遂げた。

鉱山からの貨物輸送などにも活躍していたのが、山あいを縫って走る旧神岡鉄道だった。当初は旧国鉄神岡線だったが、第三セクターの神岡鉄道が経営を引き継ぎ、やがて道路などが整備されると2006年に全線廃止に。
神岡の人たちにとって、暮らしを支え、ともに歴史を歩んできた神岡鉄道は、町のシンボルであり、心のルーツともいうべき存在。残された鉄道資産をそのままの形で保存し活用したいと、地元有志が結束して考え、創り出したのが「レールマウンテンバイクGattan Go!!」だった。

トンネルや鉄橋など神岡鉄道の路線は変化に富んでいる

トンネルや鉄橋など神岡鉄道の路線は変化に富んでいる

市街を走る「まちなかコース」は、今や年間乗車数4万人を超える人気アトラクション。
利用者からの「市街だけでなく、旧神岡鉄道の絶景ポイントを走るコースもあったらいいのに」という声に応えて、今回「渓谷コース」が開業。ファンも地元の人も待ち望んだ新コースなのだ。

渓流や鉄橋 壮大なパノラマを望む路線

「渓谷コース」の出発は、市街から高原川を下流へ進んだ旧神岡鉄道の漆山(うるしやま)駅。ここから二ツ屋トンネルまでを往復する全長6.6キロメートルの行程だ。
走行中の注意点などの説明を受けて、マウンテンバイクに腰かけると、予想以上の安定感。自転車は脱輪防止のためガイドローラーが付いた金属フレームに固定され、腰に巻く安全ベルトも付いている。
走り出しこそ少し力が要るが、電動アシスト付きなので動き始めれば走行はスムーズ。レールの継ぎ目ごとに「ガッタン、ゴットン」という音と振動が伝わって、電車に乗っているような気分だ。

出発して木立が茂る緩やかなカーブを進むと、前方に奥飛驒の雄大な山並みが見えてきた。まさに大自然の真っただ中に踏み出した気分。緑が茂る季節は一段と美しい景色だろう。

奥飛驒の大自然へ向かってペダルをこぐ

奥飛驒の大自然へ向かってペダルをこぐ

やがて、視界が開けて第1高原川PC橋というコンクリート橋に差し掛かった。欄干が低いのでぐるりと景色が望めて爽快だ。長さ246メートルの橋の下を、高原川が白い水しぶきをあげて流れていく。

長いトンネルを抜け、通称「神岡鉄道の赤い橋」とよばれる第2高原川鉄橋を渡った。赤い鉄骨と深いエメラルドグリーンの水面の対比が美しい。水面まで15メートルあるそうで、橋の下をのぞくとちょっとスリリング。

第2漆山トンネルを走り、第3高原川PC橋を渡ると、折り返し地点である二ツ屋トンネルに到着。ここで自転車を反転させて、来た路線を漆山駅まで戻った。

トンネルから抜けるときは、次にどんな景色が待っているのかが楽しみだ

トンネルから抜けるときは、次にどんな景色が待っているのかが楽しみだ

往復で約1時間。説明時間なども入れると所要時間は1時間15分ほど。ほんのりと汗をかき、ほほに吹きつける風が心地いい。すがすがしいサイクリングだった。
例年、5月下旬から新緑がはじまり、10月末から11月初旬には紅葉が見ごろだという。季節を変えて訪れたいコースだ。

地元で人気の隠れ家フレンチ「シェ・ボア」

「Gattan Go!!」でほどよくおなかがすいたら、ランチは神岡の中心地にある「ビストロ シェ・ボア」へ。住宅街の一角に立つ隠れ家風のこの店は、地元の人も絶賛するフレンチの名店。
神岡出身のシェフ、林暢之さんが名古屋で修業した後にオープンし、約20年間、愛され続けている。飛驒の山の幸、富山から運ばれる海の幸など、地元の旬の食材を生かした料理が、ランチとディナーで比較的手ごろな価格から味わえる。

温かな明かりが満ちる店内

温かな明かりが満ちる店内

この日のメインディッシュは飛驒地鶏のモモ肉のローストに、地元で採れたフキノトウのソースが合わせてある。ふっくらときれいなピンク色に焼き上がった地鶏は、弾力があるのにやわらかく、上品な味わい。それをほんのり苦みのあるソースが絶妙に引き立てる。季節の野菜を使った盛り付けも色彩豊かで、目からも楽しめるひと皿だ。

盛り付けも美しいこの日のメインディッシュ

盛り付けも美しいこの日のメインディッシュ

イノシシの肉、寒干し大根、シイタケと、飛驒の山の恵みを取り合わせたスープもおいしかった。干した大根の甘みとシイタケのうま味、肉のコクがぎゅっと凝縮され、奥深い味わい。一緒にいた仲間たちとともに感嘆の声を上げてしまったほど。
日によってメニューは変わるが、「食べてみたい食材がありましたら、予約時にご相談ください」と林シェフ。一人で切り盛りする家庭的な店なので、前もって予約すれば予算に応じた特別コースなど、臨機応変に対応してくれるという。

旧花街など昭和の面影を残す町並み

ランチのあとは、ガイドさんと町歩きを楽しんだ。「神岡街歩きガイド」(有料)に申し込むと、歴史や町並みの解説を聞くことができる。
神岡鉱山は、明治から昭和にかけて盛んに採掘が行われ、一時は「東洋一の鉱山」とよばれたそうだ。山あいの町には、ひしめくように民家や商家が並び、大いににぎわった。神岡には今も繁栄の歴史を伝える昭和の町並みが残り、ノスタルジックな風情をたたえている。
「ビストロ シェ・ボア」の周辺はかつて花街だったエリア。路地に面して見番だった建物や、格子窓の茶屋や料亭の建物が残っている。
中でも貴重なのが遊郭だった旧若松屋だ。現在は市が保有し、「深山楼(みやまろう)」とよばれる。昭和初期の建築がそのまま保存され、歴史の一端を今に伝えている。一般公開はされていないが、「神岡街歩きガイド」を頼むと内部が見学できる。

細い京格子や二重になったひさしなど、繊細で凝った外観が目を引く。2階の外縁とよばれる手すりは遊郭特有の造りだそうだ。玄関を入るとすぐに帳場があり、急な階段を上った2階には床の間付きの部屋が並んでいる。飛驒の木材を使った堅牢な造りが印象的だった。

旧花街に立つ深山楼(左手前)。ここだけ時代が止まったようだ

旧花街に立つ深山楼(左手前)。ここだけ時間が止まったようだ

深山楼を後にして東へ、路地を歩くと、地域で管理する共同の水屋があった。
神岡は周囲に水源となる山が多く、歩いていると、どこからともなくさらさらと水音が聞こえてくるほど水が豊富な町。古くから山水や湧き水を生活に利用し、今も町内に16カ所の共同水屋がある。野菜を洗ったり、冷やしたり、住民が顔を合わせるコミュニケーションの場でもあるという。

水屋内は神棚が設けられ、掃除が行き届き、住民が大切にしているようすが伝わってくる。日常の生活にも、古き良き昭和の温かさが息づいていることを感じた。

共同水屋の内部。すっきりと清潔で花も飾られていた

共同水屋の内部。すっきりと清潔で花も飾られていた

駅舎カフェでこだわりのコーヒーを

町をめぐったら、「自家焙煎珈琲(ばいせんこーひー)あすなろ」でひと休み。本格コーヒーと自家製ケーキ、飛驒牛サンドなどの軽食が味わえるカフェレストランだ。
白壁とこげ茶色の柱のコントラストが美しい店舗は、旧国鉄神岡線の終点「神岡駅」の駅舎を利用したもの。使用されなくなっていた建物を何とか残したいと、地元の有志10人が尽力して1986年に店舗として再生。現在のオーナーが引き継いで営業を続けている。ここでも、地元の人たちの鉄道への愛着を感じた。

自家焙煎珈琲あすなろ。隣接して「Gattan Go!!」の「まちなかコース」の起点駅がある

自家焙煎珈琲あすなろ。隣接して「Gattan Go!!」の「まちなかコース」の起点駅がある

コーヒーのメニューはなんと19種類あり、豆の種類や深煎り、浅煎りの違いで選べる。
オーナーが生豆から吟味し、欠点のある豆を手作業で取り除く「ハンドピック」を行っている。それぞれの豆の味わいを引き立てるように焙煎を行い、ハンドドリップで丁寧にいれて、納得の一杯を提供している。
やわらかな照明に、カウンターやテーブルがあめ色に輝く店内は、木のぬくもりにあふれ、ゆったりと時間が流れる。かぐわしいコーヒーを飲みながら、神岡の旅の1日を振り返り、静かに心に刻みたい。

コーヒーの香りに包まれ、穏やかな時間が過ぎていく

コーヒーの香りに包まれ、穏やかな時間が過ぎていく

【問い合わせ】

レールマウンテンバイクGattan Go!!
https://rail-mtb.com/

ビストロ シェ・ボア
http://chezbois.hida-ch.com/

神岡街歩きガイド
http://kamioka-guide.jp/

自家焙煎珈琲あすなろ
http://asunarocoffee.deca.jp/

飛驒市観光協会
http://www.hida-tourism.com/

PROFILE

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの温泉宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

「奇跡の温泉」で体験するアクアセラピーや現代湯治 天城船原温泉

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