あの街の素顔

香り高いダージリンティー、紅茶の街の裏舞台

  

ダージリンティーが品薄に?

おお、壮観。

ダージリン(インド)の街の中央部を横切るロープウェーに乗り、下界を見下ろすと視界いっぱいに緑の茶畑が広がっている。訪れた3月は一番摘み茶(ファーストフラッシュ)の季節で、朝は茶摘みの風景も見られるのだとか。

ロープウェーから茶畑を一望。日本の茶畑よりぐっとワイルドな印象だ

ロープウェーから茶畑を一望。日本の茶畑よりぐっとワイルドな印象だ

19世紀半ば、イギリス東インド会社がスタートさせたダージリンの紅茶栽培。甘く爽やかな香りとしっかりした味のダージリン産の茶葉は世界で愛されるようになり、観光とともに、この地域の主要産業になっている。街なかには紅茶専門店がそこかしこにあり、「ダージリンティー」の一大ブランドのもと、90ほどの茶園がその味を競い合っている。街歩きの途中のティータイムは、ダージリンでの楽しみのひとつだ。専門店の紅茶やホテルの部屋に運ばれてくるポット入りの紅茶、街角のチャイ、ダージリンで飲む紅茶は本当においしい。

(左)紅茶専門店では、さまざまなお茶のテイスティングも楽しめる、(右)街角のチャイ屋。一杯ずつていねいに作っている

(左)紅茶専門店では、さまざまなお茶のテイスティングも楽しめる。(右)街角のチャイ屋。一杯ずつていねいに作っている

だがこのダージリン産の紅茶が品不足になる騒ぎが昨年起きた。茶園の労働者の間にストライキが広まり、夏の収穫期に多くの茶園が閉鎖に追い込まれたのだ。生産量は大きく落ち込み、影響はいまも続いているという。

民族のはざまで揺れる紅茶の都

「あれはさ、政府が悪いよ」

タクシードライバーが言う。名峰カンチェンジュンガの日の出を拝もうと、まだ暗いなか、タイガー・ヒル展望台にタクシーで向かっていた。

「ここはベンガルだって政府は言うけど、僕はベンガル人じゃない、グルカ(ネパール人)なんだ」

ネパールやブータンに近いこの地域には、昔からチベットやネパール系の民族が多く暮らし、西ベンガル州といえども言葉も生活習慣もインド人、ベンガル人とは異なる。ストのきっかけは州政府がベンガル語の授業を義務化したことだが、それ以前からダージリンではネパール系の住民による「グルカランド州」の創設を求める分離独立運動が盛んだ。茶園の労働者はネパール系が多く、経営者は非ネパール系が多い、というのも対立の背景にあった。

街なかにはチベット料理、ネパール料理店が多い。写真はチベット風のラーメン、ギャコックヌードル

街なかにはチベット料理、ネパール料理店が多い。写真はチベット風のラーメン、ギャコックヌードル

水不足は深刻で、共同の水場はいつも人だかり。インフラが整備されないのも政府への不満につながっている

水不足は深刻で、共同の水場はいつも人だかり。インフラが整備されないのも政府への不満につながっている

「観光やお茶でもうかっている豊かなダージリンを、政府は手放したくないんだ。だったら僕らの文化を尊重してほしいし、尊重できないなら独立させてほしい」

「自由を勝ち取るまで戦うんだ」とドライバーが息巻いているうちにタクシーは展望台の駐車場に到着した。

地元交通警察のマークには、グルカの象徴である山刀がデザインされている

地元交通警察のマークには、グルカの象徴である山刀がデザインされている

丘を登り、夜明けを待つ展望台に行って驚いた。大変な人ごみなのだ。20年ほど前にも来たことがあるのだが、閑散としていた当時とは大違い。土産物やチャイ、さらには座布団を売る物売りまで出現している。スマホ片手にセルフィーを撮る観光客は、主にインド人だ。

「インド人の旅行者は増える一方だよ。ダージリンは人気の新婚旅行先だからね」

ドライバーが解説してくれた。確かにどこに行ってもインド人観光客は多いし、さらに世界各地からの旅行者も以前よりずっと多い。ここダージリンもそんなことになっていたとは……。

日の出とともに薄くオレンジに照らされるカンチェンジュンガ。見物客でぎっしり

日の出とともに薄くオレンジ色に照らされるカンチェンジュンガ。見物客でぎっしり

最終日、同じドライバーに頼んで空港へと向かった。最新のインド・ポップスを車内で流しながら、ダージリン山岳鉄道の線路脇を走るのんびりドライブだ。

「いいところだねえ、ダージリン」

英国風の街並みと茶畑が交互に出現する車窓からの風景は、デリーやコルカタのような“私のイメージするインドな光景”とはひと味もふた味も異なる。

「もちろんだよ。ここはグルカの土地だからね」

ドライバーは得意げに笑った。

  

ダージリンにはヒマラヤ登山学校もあり、エベレストに初登頂したテンジン・ノルゲイが初代校長をつとめた。多くのシェルパや登山ガイドがダージリンでトレーニングを積んでいる。写真はテンジンがクライミングの練習をしたというテンジン・ロック

余談だが、ダージリンにはエベレストに初登頂したテンジン・ノルゲイが初代校長をつとめたヒマラヤ登山学校もある。多くのシェルパや登山ガイドがダージリンでトレーニングを積んでいる。写真はテンジンがクライミングの練習をしたというテンジン・ロック

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PROFILE

「あの街の素顔」ライター陣

こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、松田朝子

山田静(やまだ・しずか)

女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『旅の賢人たちがつくったヨーロッパ旅行最強ナビ』(辰巳出版)、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。2016年6月中旬、京都に開業した小さな旅館「京町家 楽遊 」の運営も担当。

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