京都ゆるり休日さんぽ

美しき煎茶の愉しみ、ティールーム「冬夏」で味わう新茶の味

一煎(せん)、二煎と煎を重ねるごとに、うつろい、生まれ変わってゆく煎茶の味わい。京都の名水の水脈に建つ一軒家ギャラリーに併設されたティールーム「冬夏(とうか)」では、そんな知的な煎茶の愉(たの)しみを体験することができます。ティールームにはちょうど、摘み終えたばかりの新茶が届く季節。手摘みの新茶を皮切りに、古くから産地に根付く在来種、高級品種「朝露」と続き、7月下旬ごろまで今年の新茶を味わうことができます。

美しき煎茶の愉しみ、ティールーム「冬夏」で味わう新茶の味

目の前で煎茶をいれる、その所作も楽しみの一つ

6席のみのカウンターは、目の前で煎茶をいれる所作を見ることができる静かなステージ。お湯を注いで茶器を温めたり、茶葉を入れたりする動作一つひとつが流れるように美しく、まるで演奏家のソロに聴き入るような気分で眺めてしまいます。

美しき煎茶の愉しみ、ティールーム「冬夏」で味わう新茶の味

氷出しの新茶は煎茶のイメージが変わるほど濃厚な一杯

一煎目の準備をしていただいている間、まず出されるのは氷出しの煎茶。こちらは新茶のセットだけに付く一杯で、ゆっくりと溶けてゆく氷のみで茶葉のうまみを引き出したもの。口に含むと、煎茶とは思えないほど濃厚なうまみが広がり、ここからお茶を味わうための感覚を一気に目覚めさせるような力を秘めています。

美しき煎茶の愉しみ、ティールーム「冬夏」で味わう新茶の味

うまみの凝縮された最後の一滴まで注ぎ切ることが大切

茶器に伝わるお湯の温度を手のひらで確かめ、適温になったら宝瓶(ほうひん)と呼ばれる持ち手のない急須に注ぎます。新茶の場合、一煎目の適温は50度前後。熱くもぬるくもない、絶妙な温度で茶葉をゆっくりと開かせたら、しっかりと湯呑(の)みに「注ぎ切り」ます。もっとも長く茶葉に触れていた最後の一滴は、お茶のうまみの結晶。余すことなく注がれた一煎目は、フレッシュな風味とふくよかな甘みが心地よく体に染み渡ります。

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「煎茶 やぶきた 手摘み 2018」(2300円・税込み)。水ようかんとおかきが付き、7~8煎ほど楽しめる

煎を重ねるごとに少しずつお湯の温度を上げてゆき、その都度、お茶は違った印象に変化します。徐々に爽やかな渋みや青々とした香りを際立たせるお茶は、一煎目のまろやかな味わいとは全く別の飲み物に生まれ変わったかのよう。お茶をいれる所作に見とれながら、風味の変化、お菓子との相性、庭のしつらえや茶器の意匠へと意識はめぐり、飲み終えるころには、美しい短編映画を鑑賞したかのような充実感に満たされます。

美しき煎茶の愉しみ、ティールーム「冬夏」で味わう新茶の味

四季折々の花のしつらえにも心を奪われる

冬夏で使用する茶葉は、滋賀県朝宮地方で40年以上オーガニック栽培に取り組む農家から直接仕入れたもの。オーナーの奥村文絵さんが生産地へと通い、品種ごとに異なる畑の状況や作り手の声に耳を傾けながら、オリジナルのレシピを完成させました。「新茶葉の収穫は一年に一度ですから、40年続けても、40回しか成果を得られません。スピードが求められる現代の感覚とは全く異なる、自然との果てしない対話が必要なのだと、私たちも農家さんから教わりました」と、奥村さんは語ります。

美しき煎茶の愉しみ、ティールーム「冬夏」で味わう新茶の味

茶葉はギャラリー内にあるグロサリーで販売されている

そうして収穫されたお茶は、品種はもちろん、その年の気候によっても味わいが変わります。「自然の産物なのだから、それでいいんです」と奥村さんは言います。冬夏では3種類の新茶をはじめ、品種や製法、収穫年ごとに10種類以上のお茶がラインナップ。なかには、一切の肥料も使わず野生に近い状態で栽培したお茶や、数年熟成させたヴィンテージ煎茶などもあり、自然と時間の魔法が生み出すお茶の魅力に興味は尽きません。

美しき煎茶の愉しみ、ティールーム「冬夏」で味わう新茶の味

庭をのぞむギャラリーには職人の手仕事の品が並ぶ

ティールームの奥には「日日(にちにち)」というギャラリーがあり、冬夏で扱うお茶やお菓子、茶器をはじめ、日々の暮らしを豊かにしてくれるような道具を販売。心を整え、いつもより少し丁寧にお茶をいれたくなるような、美しい工芸との出合いが待っています。

気負わず構えず、普段の暮らしで飲むことが多い煎茶。しかし時には姿勢を正して、美しい所作とともに、最後の一滴までじっくりと味わってみてください。ワインやコーヒーにも劣らないほど知的で奥深い煎茶の世界の扉を開いたら、毎日のお茶の時間はもっと豊かに、心潤すひと時になるはずです。(撮影:津久井珠美)

冬夏
京都市上京区信富町298
075-254-7533
10:00~18:00
火曜定休
https://www.tokaseisei.com

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PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。

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