京都ゆるり休日さんぽ

京都に暮らすような旅時間をかなえる町家ステイ 「京の温所」

築150年の町家を再生した釜座二条は、8月1日にオープンしたばかり(画像提供:京の温所 釜座二条)

築150年の町家を再生した釜座二条は、8月1日にオープンしたばかり(画像提供:京の温所 釜座二条)

花屋で一輪のキキョウが目にとまる。錦市場に並ぶ旬の京野菜に心が躍る。季節の色を閉じ込めた上生菓子や、地元で評判の焼きたてパンを買って帰る……。そんなふうに、まるで京都に暮らしているかのような日常を過ごすことのできる宿があります。一棟貸しのスタイルで、岡崎、釜座二条の2カ所で展開する町家宿「京の温所(おんどころ)」。京都らしいしつらえと情緒を味わいながら、この街に暮らすかのようなリラックス感と一体感を実感できる、新しい京都ステイのかたちです。

町家の継承を目的とした「京の温所」プロジェクトの2軒目となる(画像提供:京の温所 釜座二条)

町家の継承を目的とした「京の温所」プロジェクトの2軒目となる(画像提供:京の温所 釜座二条)

京町家の象徴でもある格子戸をカラカラと開けると、古い日本家屋特有のしつらえを随所に残しながら、過ごしやすくモダンに生まれ変わった空間が旅人を迎えます。ここにはフロントもなければ、レストランや大浴場もありません。滞在中は、この町家が丸ごと、プライベートな自由空間。キッチンや調理器具、バスルームにランドリーなど普段の暮らしに必要なものが完備された建物の奥にある、四季折々の風景を描く坪庭が、ここで営む日常が少し特別であることを伝えています。

建築家の中村好文氏と「ミナ ペルホネン」デザイナー皆川明氏が手がけた空間(画像提供:京の温所 釜座二条)

建築家の中村好文氏と「ミナ ペルホネン」デザイナー皆川明氏が手がけた空間(画像提供:京の温所 釜座二条)

「岡崎の温所には花器がありますが、あえて花はいけていません。それは、宿泊される方がご自身でお気に入りの花を飾るような、宿を自分らしい空間に仕立てる楽しみを体験してもらいたいから。実際にご利用になった方からも『閑静な京都の住宅街に住んでいるようなぜいたくさを味わえた』という声をいただいています」。そう語るのは、「京の温所」を手がけるワコール町家事業部の杉山絵美さん。このプロジェクトは、京都の景観を維持し、暮らす場所としての町家を保全するというワコールの新しい取り組みの一つなのです。

和室の床の間には、四季を感じるアートピースが飾られている(画像提供:京の温所 岡崎)

和室の床の間には、四季を感じるアートピースが飾られている(画像提供:京の温所 岡崎)

今年4月オープンの岡崎は築約90年、8月にオープンしたばかりの釜座二条は築150年(推定)と、街の遺産とも言える歴史ある建物。空き家になっていたり、このままでは保全が難しかったりする古い町家をオーナーから借り、宿として再生した後、十数年後には再び住居として次世代につなげるというプロジェクトです。

見事な梁(はり)を残した寝室は自然光が心地よい(画像提供:京の温所 岡崎)

見事な梁(はり)を残した寝室は自然光が心地よい(画像提供:京の温所 岡崎)

住む人を失った町家が、時代の息吹を吹き込まれ、京都を訪ねる人々を迎えながら根を張り、もう一度街へと帰っていく……。住居としての町家の未来を見据えた設計のため、一般的な町家一棟貸しの宿よりもキッチンや収納が充実しています。また、町家にスタッフは常駐していません。宿泊客は、京都駅近くのワコール新京都ビルにあるフロントで受付を住ませ、町家に向かいます。電子キーを導入しており、午前10時までに宿を出ればチェックアウトは完了。フロントに立ち寄る必要はありません。リアルで快適な「京都暮らし」を実践できる理由がここにあります。

ストウブの鍋、イッタラの食器など、使い勝手の良い調理器具が揃う(画像提供:京の温所 岡崎)

ストウブの鍋、イッタラの食器など、使い勝手の良い調理器具がそろう(画像提供:京の温所 岡崎)

SNSなどで発信される京都の楽しみ方は、定番の観光地や名物グルメから少し離れ、日常の中にも見いだされつつあります。その日のうちにいただきたい上生菓子、朝作りたての京豆腐、全国トップレベルを誇るパンや、プロの料理家にも定評のある台所道具。京都に住む人々は当たり前のように手に入れられるこれらのものは、日持ちしないものや、ホテルの一室で包みを開くには味気ないと感じるものも。しかし、持ち帰る先が「京町家の住まいのような宿」なら、旅の収穫は日常へとつながるのではないでしょうか。

パンがおいしいことでも知られる京都。朝食を自分たちで用意するのも楽しい(画像提供:京の温所 岡崎)

パンがおいしいことでも知られる京都。朝食を自分たちで用意するのも楽しい(画像提供:京の温所 岡崎)

「宿泊者には滞在中の過ごし方のヒントになる『暮らしの提案帖』という冊子をお渡ししています。また、宿で過ごす時間も楽しめるよう、釜座二条には約200冊の本をそろえたライブラリーもあります。自分らしい京都時間を見つけながら、市場に足を運んだり、季節の祭りのおはやしに耳を澄ませたりする京都の日常を感じてもらえたら」と、杉山さんは語ります。

釜座二条には、庭を眺めながら読書できるライブラリーが(画像提供:京の温所 釜座二条)

釜座二条には、庭を眺めながら読書できるライブラリーが(画像提供:京の温所 釜座二条)

旅と日常が一続きになったその先に、見えてくるのは、軽やかで自由な旅のかたちです。京都の食材を使って自分たちで朝食を用意するのも、夜はとっておきの料亭を予約するのも、グループで1棟を借りてワイワイと過ごすのも、宿に居る時間を主役にしてゆったりと過ごすのも、思うまま。定型化された旅のスタイルから少し自由になって、京都という街を歩いてみたら、そこにはガイドブックにはない新鮮な景色が広がっているのかもしれません。

【京の温所】
http://www.kyo-ondokoro.kyoto

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PROFILE

大橋知沙

編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

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