あの街の素顔

「赤毛のアン」の島は美食の島 シェフ育成にも力 カナダのプリンス・エドワード島

  

<赤毛のアンの「世界一美しい島」へ カナダのプリンス・エドワード島から続く>

150年前に初の建国会議が行われ、カナダ発祥の島とも呼ばれるプリンス・エドワード島。1997年に長さ12.9キロのコンフェデレーションブリッジが出来るまで、カナダ本土とのつながりは空と海しかなく「100年前の暮らしが残る素朴な島」と呼ばれていた。

見渡す限りの畑

見渡す限りの畑

緑のグラデーションと鉄分を含む赤土のコントラストが見るからに豊かそうな大地から収穫される主な農産物はジャガイモだ。わずか愛媛県程度の広さしかない小さな島でカナダ全土の約30%のジャガイモが作られている。おいしさの秘密は土の管理。大地の豊かさが失われないよう、ジャガイモは3年に1度だけつくるよう州の法律で決められており、大豆や麦などのほかさまざまな野菜が赤土の恩恵を受けている。今年ジャガイモを作る畑かどうかは、土の畝(うね)があるかどうかを見ればわかる。

プリンス・エドワード島の地図

プリンス・エドワード島の地図

また、複雑に入り組んだ静かな入り江では貝類の養殖が盛んで、特にカキはニューヨークのオイスターバーで人気のブランド品だ。近海で獲れるロブスターも忘れてはならない写真映えするごちそうだ。

カキ漁師のジョージ・ダウドルさんによるデモンストレーション

カキ漁師のジョージ・ダウドルさんによるデモンストレーション

素朴な島の豊かな食材と聞けば、「100年前の暮らし」のような素材感を生かした簡素な料理とばかり思っていたけれど、21世紀のシェフはおいしい食材を見逃さないようで、近年ここは美食の島として注目されているという。

食材が生まれ口に入るまでを楽しく追えるレストランホテル

古いロブスター漁の仕掛けを用いた屋外のキッチンエリア

古いロブスター漁の仕掛けを用いた屋外のキッチンエリア

バンクーバーオリンピックの料理長も務めたスターシェフのマイケル・スミスが、ホテル「ジ・イン・アット・ベイフォーチュン」を買ったのが2015年。実はこのホテル、かつてマイケルが働いた場所でもある。ニューヨークに生まれ、世界中を渡り歩きシェフ修行をした彼は、この島の食材の豊かさにおどろいたという。その後、本土に渡り素材を生かしたダイナミックでフォトジェニックなメニューを収めたレシピブックを次々出版、テレビ番組を持ち、カナダのスターシェフに上り詰めた。

取材時マイケルは不在だったが、エントランスには彼の本がずらり

取材時マイケルは不在だったが、エントランスには彼の本がずらり

畑ではレストランで使う野菜やハーブを栽培

畑ではレストランで使う野菜やハーブを栽培

いまや島のフード大使も務める彼が考えるのは、やはり食材の良さが重要だということ。どんなにすばらしい料理でも、皿の上にあるものを口に運ぶだけでは本当のおいしさは味わえない。それが、このホテルの特徴でもある「Farm・Fires・Feast」だ。Farm(ファーム)は畑、Fires(ファイヤーズ)は調理、Feast(フェスト)は宴。敷地内にある農園を見て回るファームツアーから始まるこのイベントは宿泊客全員が参加する。

目の前で調理するさまを見るFiresでは、出来たてのフィンガーフードを片手に飲み歩き、生まれて初めての生ガキを食べる旅行客に祝福の鐘を鳴らす。この瞬間をともに出来た喜びをシャンパンカットで祝い、夕飯の宴が始まるのだ。

初めて生ガキを食べる人には、金色の鐘が鳴らされる

初めて生ガキを食べる人には、金色の鐘が鳴らされる

着々とできあがっていく料理

着々とできあがっていく料理

訪れたのは6月。旬のロブスターと山菜がメニューに

訪れたのは6月。旬のロブスターと山菜がメニューに

その演出はどれもスタイリッシュで洗練されており、胸もお腹もいっぱい。
夢のような一夜を過ごすことが出来るだろう。

元教会で「島流のおもてなし」をつくって覚える

「ザ・テーブル」の内部

「ザ・テーブル」の内部

プリンス・エドワード島は小説「赤毛のアン」のモデルとしても有名だが、読んだことのある人なら、マリラやリンド夫人がつくるさまざまな料理を想像しておなかを鳴らしたこともあるだろう。100年前の素朴なおもてなし、こってりとしたクリームの乗ったレイヤー・ケーキ。島に来ればそれらを習うことも出来る。

ケーキ作りも

ケーキ作りも

古い教会をリノベーションした調理教室兼レストラン「ザ・テーブル(The Table)」では、地元農家や漁師と協力して収穫のデモンストレーションを楽しんだあと、料理教室で学べる。アンをテーマにしたクラスもあり、本に登場する料理の再現にも挑戦できる。専ら食べる人なら、予約でディナーをいただくのもおすすめだ。

テーブルいっぱいに並ぶ大皿の料理

テーブルいっぱいに並ぶ大皿の料理

もとは調理教室だけだったザ・テーブルでは、3年前からオーナーシェフとなったデリック・ホアーさんがディナーの提供を始めた

もとは調理教室だけだったザ・テーブルでは、3年前からオーナーシェフとなったデリック・ホアーさんがディナーの提供を始めた

「初めて島に来たとき、地元の人たちにえらく歓迎されてね。食べきれないくらいのごちそうをたくさん振る舞ってもらったんだ。ああいう体験を味わって欲しくて、ディナーでは大皿の料理でみなさまを歓迎するよ」そう話すのはオーナーシェフのデリック・ホアーさん。

地球の恵みが満載の大皿

地球の恵みが満載の大皿

島の名産品と季節の食材を豪快に盛りつけた大皿は食欲を刺激する。胃袋に限界があることがくやしくて仕方がない。

いい食材と時間があるところに人は集まる

シャーロットタウンにある調理学校

シャーロットタウンにある調理学校

プリンス・エドワード島で一番大きな街シャーロットタウンにはホーランドカレッジの調理学校がある。「ザ・カリナリー・インスティテュート・オブ・カナダ(The Culinary Institute of Canada)」には世界中から生徒が集まる。全校生徒は250名。料理科、製菓科のほか、ホテルやレストランの経営を学ぶ国際接客経営科もあるそうだ。卒業生はこの学校を卒業したというお墨付きがあれば、カナダならどこのレストランでも雇ってもらえるという。

ガラス張りのレストラン

ガラス張りのレストラン

講堂内には生徒が運営するレストランがあり、パノラマのガラス張りからは海が一望できる。スマートな接客とスタイリッシュな内装は高級レストランさながら。オープンキッチンでは先生のチーフシェフが目を光らせ、生徒たちが指先にまで神経をとがらせて調理の腕を振るう。

おもてなしは一期一会。真剣勝負だ

おもてなしは一期一会。真剣勝負だ

シックなテーブルに置かれた料理

シックなテーブルに置かれた料理

雰囲気もばっちり

雰囲気もばっちり

光沢のある黒いテーブルにサーブされていく料理たちは一流ホテルのそれと違わない。食材の美味しさを生かした芸術的な料理に「素朴な島」であることをすっかり忘れてしまいそうになる。卒業生たちは島の食材の豊かさにひかれ、そのまま島に残る人も少なくないというのもうなずけた。

はちみつを使ったワインの製造販売も

はちみつを使ったワインの製造販売も

島の山あいではオンタリオ州から移住してきた元不動産のセールス担当チャールズ・リプニキさん夫妻が3年の準備期間を終えて2017年、はちみつを使った酒の製造販売所「アイランド・ハニーワイン・カンパニー」を開店させた。

「美しい島だと聞いて旅行に訪れたんだけど、半年後には移住を決めてここへ引っ越してきたわ。街での生活も楽しかったけれど、とにかく忙しくて、この島の豊かさと時間の流れ方のとりこになってしまったの。趣味だったハニーワイン造りで生計を立ててみようと思って、蜂を増やすために畑をつくって開墾したわ」そう話すのは奥さんのローラさんだ。

見た目はぶどうのワインとそう変わらない

見た目はぶどうのワインとそう変わらない

ハニーワインというものを初めていただいたが、名前の印象とは違い、キリッとした白ワインのような味わいに花のような豊かな香りを感じた。ブドウのワインと変わらない感じだ。もたつきやべたつきがない分、こちらの方が上質な印象もある。同行していた人によると、一般的なハニーワインはもっとはちみつくさく、もったりとしているという。つまり、これはチャールズさんたちの技術の高さといえるようだ。

畑の除草は羊に任せ、犬のアビーは羊を守っている

畑の除草は羊に任せ、犬のアビーは羊を守っている

わたしたちが旅をして、異国に行き、異文化に触れたいと思うのはなぜだろう。それは人生をより豊かにしたいと考えるからに違いない。では、豊かさとはなんだろう。知ること、体験することもそうだが、身体を作る「食」はもっともダイレクトな「豊かさ作り」といえる。世界では食材を目的としたフードツアーがはやっているそうで、このプリンス・エドワード島も2012年に米国のグルメガイ「ZAGAT」にて「世界の8大グルメ観光地」となり、2018年には食業界では権威のある「World Food Travel Association」が主催する「食を目的として訪れるべき場所」に島として1位に選ばれた。

食のプロたちが注目し、景色まで美しいとくれば、足を運んで舌鼓を打つしかなさそうだ。

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PROFILE

「あの街の素顔」ライター陣

こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、松田朝子

コヤナギユウ

デザイナー・エディター
1977年新潟県生まれ。「プロの初心者」をモットーに記事を書く。情緒的でありつつ詳細な旅ブログが口コミで広がり、カナダ観光局オーロラ王国ブロガー観光大使、チェコ親善アンバサダー2018を務める。神社検定3級、日本酒ナビゲーター、日本旅のペンクラブ会員。
公式サイト https://koyanagiyu.com/

酒、麻、コーヒー 清流ゆかりの体験3選 滋賀・愛荘町

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