京都ゆるり休日さんぽ

祇園の文化を伝える「万治カフェ」の手みやげとおもてなし

ぼんぼり、千鳥、まぁるいお抹茶。ひと箱に花街の色と形を詰め込んだようなクラシカルなクッキー缶が、新しい祇園の手みやげとして話題を集めています。個包装の菓子折りが一般的な現在ですが、お菓子を包まず、美しい意匠を見せながらお弁当のように隙間なく詰めるクッキー缶は、昔ながらの洋菓子店のスタイル。箱を開けた瞬間、「わあっ」とこぼれる歓声を思い浮かべるとうれしくて――。そんな心づかいがうかがえる贈りものです。

「祇園クッキー 万じセレクション」(2808円・税込み)

「祇園クッキー 万じセレクション」(2808円・税込み)

この美しいクッキー缶が並ぶのは、昨年、花見小路から路地を入った一角にオープンした「万治カフェ」。ぼんぼり型のゆずサブレ、千鳥型の白ゴマココナツサブレのほか、抹茶のボルボロン、山椒(さんしょう)とチョコレートのクッキーなど、6種類のフレーバーがひと箱の中にぎっしりと詰まっています。芸舞妓(げいまいこ)さんが行き交い、歌舞伎や芝居の役者たちが通い、一年中観光客でにぎわう祇園において、手みやげとして喜ばれるものは何か。万治カフェのオーナー・北尾貴代子さんが、京都市内の洋菓子店「カトレア」のシェフである夫と一年かけて開発したものです。抹茶や山椒、大徳寺納豆などの京都らしい素材を取り入れ、時代の味覚にフィットするフレーバーながら、昔懐かしい缶入りクッキーのスタイルにこだわりました。

カフェ手前の物販スペース。手土産のみの利用も可能

カフェ手前の物販スペース。手土産のみの利用も可能

のれんをくぐってすぐ右の小部屋に、この缶入りクッキーほか「カトレア」が手がけた手みやげにぴったりの洋菓子が並びます。広々とした玄関と表の間は、とりわけ祇園の町家らしい空間構成。靴を脱いで奥に進むと、柔らかいあかりと楚々(そそ)とした坪庭の景色に彩られた、大人のカフェ空間が広がります。この建物は、3年前まで北尾さんの父が暮らしていた町家。1861(文久元)年から「万治」の屋号で炭屋を営み、「万じさん」の愛称で親しまれてきた祖父の代から住み継がれてきた家でした。

祖父のお気に入りの玄関周りはかつてのまま残されている

祖父のお気に入りの玄関周りはかつてのまま残されている

「父が亡くなり、それまで手付かずだった蔵の整理をしていると、祖父が買い集めた掛け軸やうつわ、都をどりの茶わんや、万治150周年のお祝いに父があつらえた尾形乾山写しのティーカップなど、祇園の町や万治の歴史にゆかりのある品々がたくさん出てきました。これらが日の目を見ないまま仕舞われるのは、なんだかさびしい気持ちになって……。私自身は洋菓子屋を営む主人と結婚し、一緒に仕事をしてきましたから、その経験を生かして、もう一度この場所で『万治』の屋号で商いができればと思ったんです」

石畳の路地に、ぼんぼりと格子戸の町家が並ぶ

石畳の路地に、ぼんぼりと格子戸の町家が並ぶ

北尾さんの父は、祇園町南側協議会を立ち上げ、町の景観維持に尽力してきた人物。店の前の路地はもちろん、祇園町南側地域の石畳を約20年かけて整備してきました。そんな父の背中を小さい頃から見つめながら、同時に、次々と東京資本の店が進出し変わってゆく町の姿も目の当たりにしてきた北尾さん。地元の人間が地元で店を営むことで、祇園の文化を継承していきたいという強い思いが、カフェのオープンを後押ししました。

「季節のスイーツと抹茶セット」(1512円・税込み)

「季節のスイーツと抹茶セット」(1512円・税込み)

和栗をふんだんに使った栗ペーストを、注文を受けてから絞り出すモンブランはカフェの人気メニュー。祇園の名物「都をどり」のお茶席で使われる団子皿や茶わんなど、祇園ゆかりの品やこの家の蔵から見つかったうつわで提供されます。京都を代表する茶舗「柳桜園」「祇園辻利」から選べる抹茶のほか、ラオスのアラビカ種ティピカの豆でいれるコーヒー、スリランカの人気茶園・ロスチャイルドの茶葉で作るプレミアムロイヤルミルクティーなど、洋菓子の味を引き立てるドリンクも豊富。上質な空間とスイーツをゆっくりと味わいながら、うつわやしつらえ、坪庭の表情一つひとつに、おもてなしの心を感じ取ることができます。

モダンな組み木の天井も、既存の意匠をそのまま生かした

モダンな組み木の天井も、既存の意匠をそのまま生かした

「生前、父は『生活する者がおり、そこに文化が生まれて初めて町になる』と申しておりました。町は一軒一軒の家や店の集合体。おのおのがその気概を持ち、祇園の文化を伝える一員になれたら」

包みも美しい洋菓子はすべて「カトレア」の手作り

包みも美しい洋菓子はすべて「カトレア」の手作り

祇園らしい意匠が並びつつどこか懐かしさの漂う缶入りクッキーは、観光客が祇園土産に買い求める一方で、地元の人々のおもたせにも、楽屋への差し入れにもなる手みやげです。靴を脱いで上がり、美しい調度品や地元の社寺のお札などが飾られたカフェでは、なんだか祇園の邸宅にお呼ばれしたような気分になります。「手みやげ」と「おもてなし」。花街の人々が自然と行い、育んできた二つの文化は、時代に合わせて少しずつ形を変えながら、この場所で確かに息づいています。(撮影:津久井珠美)

【万治カフェ】
http://manjicafe-gion.jp

バックナンバー

>> 記事一覧へ

PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告、家族写真など、多岐にわたり撮影に携わる。

京都「うね乃」で見つける和食の神髄・おだしのチカラ

一覧へ戻る

色と香りとアンティークが物語を奏でる料理店「Maker」

RECOMMENDおすすめの記事