楽しいひとり温泉

温泉+森の散歩道 自然の中の野天湯へ温泉散歩「北海道・上の湯温泉」

銀婚湯の敷地の森に貸し切り温泉が点在している

銀婚湯の敷地の森に貸し切り温泉が点在している

とにかくひとりになりたい。たくさんの物、事、人に囲まれた日常を離れて、ぽつんと自然の中でひとりきりの時間を満喫したい。ふと、そんな気持ちになることがあります。
どこかに安心して楽しくひとりの時間を過ごせるサンクチュアリみたいな場所はないかしら……。

木漏れ日が照らす温泉が、薄絹をまとったような神秘的な色に輝いています。そうそう、これよこれ。これでした。わたしの心が求めていたピースフルなサンクチュアリ。それは、こんなお湯にどぼんと入れるひとり温泉の旅なのです。

木をふんだんにつかった館内にはくつろげる談話室も

木をふんだんにつかった館内にはくつろげる談話室も

函館線で海辺を行く旅路。ガタンゴトン。列車は無人の落部(おとしべ)駅に到着し、改札を出ると、宿の主人の温かな笑顔が出迎えてくれて、ちょっとほっとします。「ようこそ、遠くまでよく来たね」。なんだか、もう、泣きそうです。

森に囲まれた宿の玄関を入って、中へと進むと、薪ストーブがある談話室を発見。居心地の良さそうな雰囲気に、来てよかったと思いました。

大浴場の男女別露天風呂

大浴場の男女別露天風呂

上の湯温泉「温泉旅館 銀婚湯」は1万坪の敷地に自噴する源泉が5本もあります。湯船は全部で11カ所あり、全てが源泉かけ流し。館内にある大きな内湯と家族風呂だけは温度調整のために10%ほど湧き水を加えていますが、それでも天然100%。そのほかは、どの湯船にどの源泉をどのようにして注いでいるのかを詳しく解説した図が部屋に置かれています。こういう情報を全て開示しているところに、温泉への誇りを感じてうれしくなります。

まずは、館内の大浴場へ。大きな内湯は首まですっぽりと浸れる深さがあって、手足を伸ばして旅の疲れがほどけていくようです。ひんやりとした風が心地いい露天風呂は、木漏れ日が差し込んで、お湯が薄緑色に輝いて見えます。北の大地のミネラルたっぷりの温泉は、つるりとした肌触りでよく温まります。

つり橋を渡って隠し湯へ向かう

つり橋を渡って隠し湯へ向かう

この宿のお楽しみは、なんといっても「隠し湯めぐり」。広大な敷地は落部川をはさんで森が続いていて、その中に貸し切り風呂や足湯が点在しているのです。フロントで鍵を借りて、いざ、出発。地図と看板を頼りに森の道を進みます。

一番人気の「トチニの湯」は、森の奥にあります。ちょっと冒険だけど、勇気を出して行ってみることにしました。宿の裏手の遊歩道を行くと、つり橋が出現。一歩踏み出すと、ちょっと揺れる。数歩進むと、風も吹いてきて、かなりのアドベンチャー。それでも、一歩一歩踏みしめて渡っていくと、なんだか、もう怖いものはないという気持ちになって元気がもりもり湧いてきます。本当にこの道でいいのかしら、と、少し不安になったころ、ようやくトチニの湯の門を発見。「わー。あった。あった」と、叫んでしまいました。実際には、10分ほどの道のりですが、隠し湯へのひとり散歩は、生きる勇気をもらえるような気分です。

紅葉が美しい「トチニの湯」

紅葉が美しい「トチニの湯」

落部川の渓流のすぐ近くにぽつんと二つの湯船。大自然に囲まれて野天湯のような気分で入れる温泉を独り占めです。杉の丸太をくりぬいた湯船の温泉はちょっと熱め。ざぶんとつかって「ふうううう」と、いい気持ち。「トチニの湯」は5本の自噴源泉のうちの川向2号源泉を単独で100%かけ流しにしていて、他に比べて濃いと評判なのです。泉質はナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉。成分総計が1キロあたり8.622グラムもあり、体の芯までしっかりとあたたまってきます。

「トチニの湯」の奥の湯船は渓流ぎりぎりにある

「トチニの湯」の奥の湯船は渓流ぎりぎりにある

少し温まったら、もうひとつの湯船へ。こちらはややぬるめの四角い湯船。川に突き出すように作られていて、渓流の迫力がすごい。流れる水面をぼーっと眺めて、ひとりぽつんと温泉につかる。日常の様々なものから遮断された大自然の中で、ただただ、温泉のぬくもりに身を委ねて過ごす時間は、宝物のようです。

鶏のすき焼き鍋(写真は3人前)

鶏のすき焼き鍋(写真は3人前)

宿の名物料理は「鶏のすき焼き鍋」。鶏は内臓や様々な部位の肉を使っていて、一羽丸ごと仕入れて料理に使っているのがわかります。きのこや山菜、野菜もたっぷり、ぷりぷりした地鶏のおいしさをしみじみと感じます。卵を割ると、黄身がレモン色でびっくり。近くの松永農場で平飼いし、無添加のエサで育てられたニワトリが生む卵は淡い色味ですが、味わい深くて、鶏鍋のおいしさを引き立てます。

カツラ並木が美しい遊歩道

カツラ並木が美しい遊歩道

翌朝は、宿から近い隠し湯の「かつらの湯」へ。すっと天へとのびるカツラ並木がとても美しい小道を歩きます。このカツラの木は全て種から植えて育てたと聞いて感激してしまいました。

「かつらの湯」は巨石を手彫りした湯船

「かつらの湯」は巨石を手彫りした湯船

「かつらの湯」は巨大な岩の上に湯小屋が建っています。駒ケ岳から運んだ巨石を宿の人の手でコツコツ掘って作った岩上の温泉は、大名にでもなったようなぜいたくな気分。野趣あふれる野天湯を独り占めして至福の時を過ごしました。

■「楽しいひとり温泉」ポイント
1. 大自然の野天湯を独り占め
2. 森の小道を散歩して心も潤う
3. 鶏のすき焼き鍋がおいしい

温泉旅館 銀婚湯
http://www.ginkonyu.com/

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PROFILE

石井宏子

温泉ビューティー研究家・トラベルジャーナリスト。日本・世界の温泉や大自然を旅して写真撮影・執筆をする旅行作家。テレビにも出演。温泉・自然・食で美しくなる旅を研究する。海外ブランドのマーケティング・広報の経験から温泉地の企画や研修もサポート。日本温泉気候物理医学会会員、日本温泉科学会会員、日本旅のペンクラブ会員、気候療法士(ドイツ)、温泉入浴指導員。著書「癒されてきれいになる おひとりさま温泉」(朝日新聞出版)「地球のチカラをチャージ! 海温泉 山温泉 花温泉 76」(マガジンハウス)ほか。新著「感動の温泉宿100」(文春新書)が10月に発売された。

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