あの街の素顔

ベスト・クリスマスマーケット、ハートがあふれるクロアチアの首都ザグレブ

クリスマスマーケットといえば、本場のドイツを思い浮かべる人が多いだろう。しかし、旅行者が選ぶ「ヨーロッパ・ベスト・クリスマスマーケット」に2016年から3年連続1位に選ばれているのがクロアチア共和国の首都ザグレブだ。発表しているのは、ヨーロッパ地域の文化や観光振興を目的に設立された機関「ヨーロピアン・ベスト・デスティネーション」。一般投票で順位が決まる。

クロアチアを始めとするキリスト教国では、クリスマス前の4週間をアドベント(待降節〈たいこうせつ〉)と呼び、イエス・キリストの降誕を持ち望む期間となる。アドベント期間に入り、街中がイルミネーションに包まれたザグレブのクリスマスマーケットを旅した。

(文・写真/鈴木博美)

ザグレブはハートの街

ベスト・クリスマスマーケット、ハートがあふれるクロアチアの首都ザグレブ

ザグレブの街を歩いているとあちこちで見かけるのが、赤いハートの飾り「リツィタル」。16世紀から続く、伝統的なジンジャークッキーでできた飾りだ。2010年に伝統的なジンジャーブレッド・クラフトとしてユネスコの無形文化遺産にも登録されている。クッキーといっても、焼き上げた後に長期間乾燥させているので硬く加工されている。主に大切な人への贈り物として、またクリスマス用の飾りとして、古くからこの地で親しまれてきたものだ。今はお土産用として季節を問わず街中にあふれている。

アドベントでは何をする?

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各家庭や教会では、常緑樹を装飾したリースに、4本のロウソクを立てたアドベント・クランツを飾り、日曜日ごとに1本のロウソクに火をともす。4本目にロウソクに火がともるとクリスマスはもう目前。楽しみながらクリスマスまでの時間を待つ伝統的な習慣だ。

一般的にアドベント期間中にクリスマスマーケットが開かれ、街はイルミネーションで華やぎ、様々な催し物が行われる。ザグレブのクリスマスマーケットは、この期間に加えて、東方の三博士がイエス・キリストの元を訪れ、その誕生を祝福したことを記念する1月6日の公現節まで開催される。

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紋章入りの屋根瓦が目を引く聖マルコ教会前の広場に立つ大きなクリスマスツリー

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アドベント期間中に運行されるクリスマス・トラム(路面電車)。サンタクロースも乗車している

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アドベント開催中は伝統的な習慣が目白押しだ。そのひとつが、聖ニコラウス・デー。サンタクロースの起源ともされる聖ニコラウスは、3~4世紀の小アジア(現在のトルコ)にいた司教だ。貧しい家庭の3人の少女を売春婦の生活から救い、彼女たちが結婚する時の持参金にと、3袋の金を父親にこっそりと届けたことから、聖ニコラウスは贈り物をもたらす象徴となったという。

彼が亡くなった12月6日の聖ニコラウス・デーの前夜に、子どもたちは窓の上にピカピカに磨いたブーツを置いて寝る。良い子には翌朝ブーツの中にプレゼントが入っており、悪い子には棒切れが入っていて、罰が与えられると言われている。12月は子どもたちにとって、聖ニコラウス・デーとクリスマスにプレゼントをもらえる一年で一番うれしい月なのだ。

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さらに12月13日の聖ルチア・デーには「プシェニツァ」と呼ばれる麦の種をまく習慣が残る。麦は主食となるパンの種。キリスト教にとってパンは非常に重要な意味を持つ。聖書では「最後の晩餐(ばんさん)」でイエス・キリストがパンを裂き「これはわたしの体である。(マタイ 26:26)」と言って、弟子に与えたとある。キリスト教の礼拝でもそれに倣った儀式がある。パンの原料となる麦の種をまくのは、発芽し育つ様子をキリストの誕生になぞらえてクリスマスを待ち望むためだ。同時に芽の成長を来年の運気を占う物差しとするそうだ。

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またカトリックの古い習慣として、“アドベント期間中は慎む”という意味で肉食を避けたことから、代わりにバカラオと呼ばれる塩漬けの干しダラを使った料理を食べる。この時期に魚市場をのぞけば干しダラが売られ、レストランでもクリスマスメニューとしてバカラオを使った料理が食べられる。

エリアごとに趣向を凝らしたクリスマスマーケット

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ザグレブではアドベント期間中、10を超えるクリスマスマーケットが立ち、それぞれが趣向を凝らしている。大小様々な催しが行われ楽しげな雰囲気だ。特に夜になるとクリスマスソングはもちろん、ジャズやポップなどのライブ演奏で寒さを忘れるほど盛り上がっている。明かりに誘われるようにクリスマスマーケットをはしごした。

ザグレブの中心、まずはイェラチッチ総督広場へ

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広場は17世紀からあり、ザグレブ発祥の地とされる重要な場所。中心にはクロアチアの民族独立運動の英雄ヨシップ・イェラチッチ総督の立派な像が立っている。そんな威厳のある広場もこの時期は、イルミネーションと楽しげな音楽に包まれたくさんの屋台が並ぶ。

特にホワイトクリスマスをイメージしたような「フェアリーテール」と名付けられた一角は、まるでおとぎの国に迷い込んだような空間が広がる。グリューワインと呼ばれるスパイスやフルーツが入ったホットワイン、ホットチョコレートなどで温まる人々のあふれる笑顔に満ちている。

同広場にあるマンドゥシェヴァツと呼ばれる泉は、大きなアドベント・クランツに見立てて飾り付けられ、ザグレブのアドベントのキックオフとなる点灯式が行われる。

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広場にはSNS映えする撮影スタジオ風の屋台もあり、若者たちに大人気だ。今どきの楽しみも同居する面白さがベスト・クリスマスマーケットに選ばれる理由のひとつなのだろう。

アイスパーク(トミスラヴ王広場周辺)

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ザグレブ中央駅の正面にある、クロアチアの初代王トミスラヴの騎馬像が立つ広大な広場に、ヨーロッパでもっとも大きなアイススケートリンクが設置され、その周りにおいしそうな匂いを漂わせている屋台が立ち並ぶ。ライトアップされた美しい光に包まれたリンクを滑れば、恋人同士なら気分もいっそう盛り上がるに違いない。スケート靴のレンタルもあるので旅行者も気軽に楽しめる。

ベスト・クリスマスマーケット、ハートがあふれるクロアチアの首都ザグレブ

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またトミスラヴ王広場からイェラチッチ総督広場に向かって続くストロスマエル広場とズリニェヴァッツ公園もイルミネーションで飾られ、屋台やメリーゴーラウンドなどの移動遊園地が集まる華やかなクリスマスマーケットとなる。特に夜は歩行が困難なほど、たくさんの人がクリスマスシーズンの風情を楽しんでいる。まるで日本の初詣のようなにぎわいだ。

丘の上の旧市街ゴルニィ・グラード周辺

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イェラチッチ総督広場すぐそばにある、片道30秒の世界最短のケーブルカーに乗ってアッパータウンと呼ばれる旧市街へ。ケーブルカーを降りると東西に伸びる眺めの良いプロムナードがクリスマスマーケット会場になっている。高台にあるこの会場は、眼下に広がるザグレブの街を眺めながら、音楽と屋台料理を楽しむベストスポットだ。

ベスト・クリスマスマーケット、ハートがあふれるクロアチアの首都ザグレブ

プロムナードや広場にはクリスマスらしい小道具セットが点在し、撮影スポットとしても人気が高い。サンタクロース人形や絶景をバックに撮影する人たちで昼夜問わずにぎわっている。

ベスト・クリスマスマーケット、ハートがあふれるクロアチアの首都ザグレブ

ザグレブのクリスマスマーケットは、伝統だけでなくエンターテインメント性も高く、街全体でホリデーシーズンを盛り上げている。この時期の旅先の候補としてもオススメしたい。ただし気温が0度を下回ることもあるので、防寒対策を忘れずに。

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<アドリア海のクリスマス、クロアチア第二の都市スプリト、ザダルを巡る>

■取材協力
クロアチア政府観光局
https://croatia.hr/ja-JP

「ターキッシュ エアラインズ」でイスタンブール新空港から新たな旅

トルコ共和国の建国95周年となった記念すべき2018年10月29日に、世界最大級の新空港が黒海沿岸に開港した。1月1日より全便が新空港から運航する。また、全便「ターキッシュ エアラインズ」の利用でイスタンブールの乗り継ぎ時間が20時間以上ある場合に適用される無料宿泊サービス「よっ得! イスタンブール」をこの機会に活用して、トルコの魅力にも触れたい。
https://www.turkishairlines.com/ja-int/

PROFILE

  • 「あの街の素顔」ライター陣

    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、高松平蔵、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 鈴木博美

    旅行業界で15年間の勤務を経てフリーの旅行家に。旅を通じて食や文化、風土を執筆。日本航空機内誌のほか、新聞雑誌等に海外各地の旅の記事を寄稿。著書に一人旅に役立つ電子書籍「OL一人旅レシピ」インド編、カンボジア・ベトナム編、エジプト編、世界中のおいしい料理をおうちで作る「いつもの食材で作る世界の料理レシピ」。ブログ「空想地球旅行」で旅のあれこれを発信中。

刺し身用アジをぷりぷりのフライに 聖地・長崎県松浦市を訪ねて

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熊本・天草を歩く 潜伏キリシタンの足跡をたどって 

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