あの街の素顔

移住先としてもぴったり?! 神戸を“暮らすように旅する”

移住先としてもぴったり?! 神戸を“暮らすように旅する”

新神戸駅から歩いて20分で見られる布引の滝

<神戸再発見! 見落とされがちな港町の魅力>から続く

「神戸は移住先としてもぴったりなんですよ」
神戸観光局の松下麻理さんに、そういわれてハッとした。
神戸といえば、異人館や港の印象が深い観光地であり、白いワンピースをまとった品のいい女性が、ツバの大きなハットの下から観光客をちらりと確認するようなイメージがあったからだ。

正直に松下さんにそう告げると、ころころと笑われた。
今回は神戸を“暮らすように”過ごせる場所を紹介しよう。

移住先としてもぴったり?! 神戸を“暮らすように旅する”

公共交通機関が充実しているのもポイントだ

出勤前にハイキング 六甲の水源“布引の滝”へ

松下さんは神戸の魅力を伝えたい人たちを集め「KOBE EYE(こうべあい)」という会議を開いている。メンバー構成は年齢も在住地もさまざま。30代の神戸在住の女性メンバーに神戸の魅力をひとつだけ挙げるなら、と問うと全員「自然」と答えが一致したそうだ。

海のイメージが強い神戸だが、著名な観光地が多い六甲山の南側にいると、たしかにどこからでも山が見える。ここでは、山が見える方が北で、海があるのは南。神戸出身者が他県で暮らすと「山が見えなくて現在地が分からず、ストレスを感じる」と思うことがあるらしい。聞けば、元町の大丸神戸店の店内サインでさえ「海側」「山側」と表示されているという。

山への愛着はサインとしてだけではなく、ハイキング文化が根付いている。それぞれに好きな登山道があり、気分と体力に合わせて選べるほど、コースも潤沢に用意されている。

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新神戸駅1階の様子

今回は、体力に自信のないわたしでも「神戸暮らし」がイメージできる「布引の滝ハイキングコース」を歩くことになった。集合は午前7時30分、山陽新幹線の新神戸駅で。駅のロータリーにはたしかに「布引の滝0.4KM」のサインがある。電車の喧噪(けんそう)にコースの存在を信じられないでいたが、2分も歩けば雰囲気が一変した。山は、駅の真裏にあったのだ。

「出勤前に登山ミーティングしている方もいますよ」と聞いて、本当だろうかと笑っていたら、革靴で登山道を上る3人のビジネスパーソンを目にして、心の中で非礼をわびた。

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ハイキングコースはきれいに整備されている

ゆっくり歩いて20分ほどで、目的地の「布引の滝」に着いた。最大高低差は43メートル。上流にあるダムの影響で天候により水量に差があるというが、この日は申し分のない迫力。この水こそが六甲の水源。さっきまで新神戸駅にいたとは信じがたい。

せっかくなのでもう10分ほど歩いて展望台へ。朝の活気をまとった神戸の街が眼下に広がる。

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神戸港に朝の光が降り注ぐ

和洋中仏伊折衷な居酒屋レストラン「味加味」

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植物に包まれていて一見なに屋さんか分からない

仕事終わりに気の置けない仲間たちと一日の労をねぎらうのにぴったりのお店がある。というのもこの「味加味(みかみ)」は、何でもあるからだ。メニューには和洋折衷どころか、中華、イタリアン、フレンチまで連なる。しかも、それぞれがおいしい。

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「魚」「秋」「フランスから」とカテゴリも多彩

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訪れたのは10月末。秋の味覚に山栗とポルチーニのリゾットを

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リゾットの隣にサンマの刺し身も並ぶ

みんなでつまみを注文して居酒屋的に分け合うのもいいし、ひとりでガツッといく定食気分も満たしてくれる万能の店だ。

パティスリーたちの新たな試み「ORIGINE KOBE」

神戸で暮らす人の話を聞いていると、全体的に文化的水準が高いな、と感じる。お気に入りのハイキングコースもそうだし、パンの消費額が日本で一、二を争うだけあって、フランスパンならここ、とか、それぞれの人がパンの種類ごとにお気に入りのパン屋があるなど、ジャンル内での選択肢が多いように感じる。

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「ざくろ」は毎日食べて欲しいとの思いから価格も270円と抑えられている

神戸の文化を語る上で、スイーツも外せない。たとえば、元町ケーキの「ざくろ」はイチゴの赤色、カステラの黄色、クリームと粉砂糖の白色が美しい。見るからにふわふわの食感を期待して口に運ぶと、意外なほど軽やかな甘み。これなら、明日も食べたいと思えるのも納得。

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左からパティスリー・モンプリュ林周平シェフ、神戸在住のスイーツコーディネーター松本由紀子さん、コンパルティール・ヴァロール大西達也シェフ

それでいて、同業者同士の仲がいいというから驚きだ。2015年から神戸を代表する実力派フランス菓子店(パティスリー)が集まり「ORIGINE KOBE(オリジンコウベ)」を結成。「エレガンス」「かくれんぼ」などのテーマにそってスイーツを考案している。現在は8店が参加し、2018年秋冬コレクションのテーマは「クレーム(Crème=クリーム)」だ。

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「コンパルティール・ヴァロール」の「ORIGINE KOBE」秋冬コレクションは、ゆずの風味のメレンゲクリームをのせたケーキ「オンクチューズ」

2017年3月には「神戸スイーツ」を象徴するお土産を、ということで同名のお菓子も発表された。大量生産不可能なレシピを8店それぞれが共有し、まったく同じものを提供している。県外への手土産にちょうどよさそうだ。

各地からクリエイターが集まる坂の町・塩屋

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海岸線に沿って走る山陽電鉄と塩屋の住宅街へ伸びる階段

移住先として神戸の交通を考えると、確かにいい。新幹線の新神戸駅から神戸空港までは、バス・電車・ポートライナーで30分程度。東京まで飛行機で約1時間、LCCを利用すれば片道1万円しない。大阪は通勤圏内だし、有馬には温泉もある。車を持っていなくても、阪神間には阪急、JR、阪神電車が通り、さらに市営地下鉄と山陽電車があるので困ることもないだろう。どこへ行くにも30〜40分みておけば事足りる。ならば、ちょっと面白い場所を拠点にしてみるのもいいだろう。

「オシャレでハイソな神戸」のイメージとは一線を画した港町、神戸市西部の垂水区・塩屋にはここ数年、移住者が増えているという。コンサートなどのイベント会場として親しまれている異人館・旧グッゲンハイム邸の管理人で、音楽家の森本アリさんに町を案内してもらった。

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1912(明治45)年にイギリス人建築家の設計で建てられた

森本さんは塩屋の生まれだ。子どものころは小さな漁師町である塩屋のことが好きになれず、ベルギーの大学へ留学。卒業後、塩屋に戻ると街の見え方が変わっていたという。

「塩屋は山と海に挟まれたすり鉢状の地形で、とにかく土地が足りないんですよ。坂と階段だらけだし、やたらと上がったり下がったり。でも、視点を変えれば個性的で面白い風景だと思えるんですよね。塩屋には駅近に24時間のコンビニもありませんが、個性的な店主の個人店も多い。そういう魅力を集めて“塩屋百景”として楽しんでもらえたらと思います」

たしかに、冒険心をくすぐる小路や階段を行き来すると、坂の曲がり角に切り株や不要な椅子を並べた「シルバーのお休み処」や、奥に鉄板で傾斜をつくり、少しでも人が通る平地を確保しようとする駐車場など、細かすぎて伝わらない個性的な住人の手仕事を眺めていると、時折異人館が現れる。見覚えのあるような映画のロケ地もあり、息を切らして階段を上れば絶景にも出会える。なにより目の前の海は神戸港とは違い、瀬戸内の穏やかな自然が広がる。夕暮れを眺めながらの釣りなんて、ステキだろうな。クリエイターがアイデアを練るのにこれ以上最適な場所はないのでは、とさえ思えてくる。

神戸で感じた気負わずに歩くハイキングのすがすがしさも、文化にこだわることで広がる生活の豊かさも、異文化を受け入れ続けてきた懐の深さも、全然知らなかった。

ここではないどこかの暮らし。移住は空想から始まると思う。次の休みは空想を確認するため、暮らすように過ごす神戸旅をしてみてはいかがだろうか。

PROFILE

「あの街の素顔」ライター陣

こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、松田朝子

コヤナギユウ

デザイナー・エディター
1977年新潟県生まれ。「プロの初心者」をモットーに記事を書く。情緒的でありつつ詳細な旅ブログが口コミで広がり、カナダ観光局オーロラ王国ブロガー観光大使、チェコ親善アンバサダー2018を務める。神社検定3級、日本酒ナビゲーター、日本旅のペンクラブ会員。
公式サイト https://koyanagiyu.com/

冬の愛知で心の大掃除を。年の瀬こそ行きたい歴史・アート・美食の旅

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