京都ゆるり休日さんぽ

立春から新年を始めよう 京都人が心待ちにする「節分祭」へ

旧暦の正月節にあたる立春を前に、京都の人々が楽しみに待つ祭りがあります。節分の時期に、各所で開催される「節分祭」。家庭での豆まきの風習で知られる節分ですが、旧暦で暮らしを営んできた古人にとってこの日は、一年の厄をはらい、来たる年の福を迎える大みそかのような日。今でも、京都の人々はまるで新年を祝うかのように、節分祭と翌日の立春を心待ちにしています。京都三大祭のような華やかさはないけれど、庶民に愛され、暮らしや町と地続きにある京都の立春の風物詩。中でも、毎年多くの人出でにぎわう二つをご紹介します。

独特の熱気とにぎわいを醸す、吉田神社の節分祭

立春から新年を始めよう 京都人が心待ちにする「節分祭」へ

吉田神社の節分祭は2月2日〜4日の3日間開催。2日と3日は約800店もの露店でにぎわう(画像提供:吉田神社)

数ある京都の節分祭の中でも、とりわけ盛大で、立春前夜の独特な熱気を味わえるのが「吉田神社」。毎年約50万人もの参拝者でにぎわい、「観光客の多い祭りにはしばらく足を運んでいないけれど、吉田神社の節分祭は必ず行く」という地元の人も多い一大行事です。子どもからお年寄りまで、どこか浮足立って歩く人々のにぎわいを感じると、新しい年と遠くない春へのほのかな期待に胸が高鳴ります。

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抽選券付き福豆(200円)。抽選は4日。結果は吉田神社HPなどで公表される(画像提供:吉田神社)

その高揚感の理由の一つは、境内で授与していただける「福豆」。豆の入った袋とともに、1枚の抽選券が付いてきます。陳列所には抽選で当たる賞品がずらりと並んでいますが、その品々の豪華なこと! 家電や旅行券、お酒や食品から車まで。京都の企業や老舗を中心にさまざまな協賛商社からの賞品が当たる抽選会は、今ではすっかり名物に。この夢のある催しは、吉田神社の節分祭が市民に愛され、時代とともに歩んできたことを物語っています。

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追儺式の一幕。古式にのっとり行われるも、鬼の演技は迫力満点(画像提供:吉田神社)

一方で、室町時代から続く伝統を継承し、古式にのっとって執り行われる神事も楽しみの一つ。節分の前日、午後6時から行われる「追儺式(ついなしき)」は、俗に「鬼やらい」と呼ばれる儀式。疫病や天災を招く悪鬼が境内に現れ、四つ目の仮面をかぶった大舎人(おおとねり)が鬼を退散させるという神事が繰り広げられます。鬼たちは神事が始まる前にも時折境内を歩いており、出くわした子どもがあまりの迫力に泣き出すこともしばしば。鬼は昔話や空想の中だけに登場する生き物ではなく、日常の中に潜む災いとして存在していると感じられるのも、この祭りの興味深いところです。

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一時は規模が縮小された火炉祭だが2017年より再開。伝統の復活に喜ぶ地元の声も(画像提供:吉田神社)

節分当日の夜11時。三ノ鳥居前に設けられた巨大な火炉に点火される「火炉祭」が行われます。参拝者は古い神札やお守りを持参し、浄火によって神霊を天にかえします。しんと冷え込む夜の空気に熱気とざわめきが入り交じり、燃え盛る火炉を眺めていると、一年に区切りをつけ、心新たに春を迎えようという気持ちが湧いています。このどこか勇気付けられるような感情を味わいたくて、京都の人々は毎年足を運ぶのかもしれません。

伝統芸能に魅せられる、洛西名物の節分祭

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島根県益田市より奉納される「石見神楽」は松尾大社の節分祭の名物(画像提供:松尾大社)

洛西の節分祭で、見応えたっぷりの伝統芸能を堪能できるのが「松尾大社(まつのおたいしゃ)」。節分当日、日本神話を題材にした島根県益田市の「石見神楽(いわみかぐら)」がおよそ2時間にわたり奉納されます。主人公の素戔嗚尊(すさのおのみこと)がヤマタノオロチを退治するこの演目は、素戔嗚尊が松尾大社の御祭神・大山咋神(おおやまぐいのかみ)の祖父神にあたる由縁から、毎年奉納されるようになったもの。拝殿にとぐろを巻くヤマタノオロチが素戔嗚尊の仕掛けた酒に酔い、回ったり絡まったりしながら首を取られるパフォーマンスに、思わず拍手喝采となります。

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本殿中門より拝殿まで、豆まきで疫鬼を追い払いながら進む(画像提供:松尾大社)

午後からは、宮司が豆まきで拝殿へと鬼を追い払う「追難行事」が行われます。きらびやかな衣装と振り乱される髪、憤怒した形相の鬼の姿に、小さな子どもは泣き出すほどに怖がり、大人はその精巧な意匠とふるまいに釘付けになるはず。拝殿で弓を構えた宮司が弦を三回引き、和歌を唱えて疫鬼の退散を念じる神事が続きます。一幕の演目を鑑賞したような見応えに、京都の節分行事の多彩さと奥深さを実感します。

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矢を放ち和歌を唱えて疫鬼をはらう神事の一つ「四方奉射神事」(画像提供:松尾大社)

一連の神事の後は、その年の福男・福女による福豆まき。袋入りの豆が飛び交う頭上に、訪れた人は皆大喜びで手を伸ばします。また、1日〜3日は福引券付きの福豆(300円)の授与もあり。家電などの豪華賞品から日用品などの粗品まで、その場で運試しできるチャンスに盛り上がります。

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拝殿からの福豆まき。時にはみかんが投げられることも(画像提供:松尾大社)

新暦での年末年始をバタバタとあわただしく過ごした人は、冬の終わりと春の予感を感じる節分の日に、もう一度“新年”を意識してみませんか。きっと12月よりも落ち着いて一年を振り返り、厄をはらい、福を迎える心の準備ができるはず。ユニークで暮らしに根ざした京都の節分祭は、鬼は必ず去り、春は必ずやって来ると教えてくれます。

吉田神社(節分祭:2月2日〜4日 ※4日は露店なし)
http://www.yoshidajinja.com

松尾大社(節分祭:2月3日 ※福豆の授与は2月1日〜)
http://www.matsunoo.or.jp

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PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告、家族写真など、多岐にわたり撮影に携わる。

温かい甘味に一粒の春を添えて 「茶菓円山」の苺汁粉

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