京都ゆるり休日さんぽ

京都に最初の春を伝える「城南宮」のしだれ梅

梅が香を桜の花ににほはせて柳が枝に咲かせてしがな

『後拾遺和歌集』に収録された、中原致時(なかはらのむねとき)の和歌です。香り、花、枝、それぞれの美しさが一体となった至高の花を夢想しながら、かなうことはないというほのかな切なさも漂う一首。平安貴族が夢見たそんな春の景色をほうふつとさせるのが、洛南の「城南宮」です。

京都に最初の春を伝える「城南宮」のしだれ梅

神苑の「春の山」はしだれ梅の梅林で有名(画像提供:城南宮)

平安京を守護してきた神社のうち、南に創建された城南宮。方除(ほうよけ)、車のお祓(はら)いなどの神社として知られますが、早春の時期には、約150本もの「しだれ梅」が神苑を彩ります。まるでシャワーのように花の咲いた枝を垂れるしだれ梅は、まさに中原致時が詠んだ理想の花のよう。梅が咲き誇る神苑の一帯は、甘く柔らかな梅の香りに包まれます。

京都に最初の春を伝える「城南宮」のしだれ梅

しだれ梅の枝にはメジロの姿も(画像提供:城南宮)

梅は、まだ芽もつぼみも眠る冬枯れの景色のなかで、いち早く春の訪れを伝えてくれる花。厳しい寒さのなかでも、少しずつ日が長くなり、街や庭先に一つ、二つと梅の花がほころんでいるのを見つけると、一筋の光が差したかのような温かい気持ちになるものです。神苑にこれほどの梅が植えられたのも、そんなふうに訪れる人々の憩いになればという思いから。「修行の場としての庭ではなく、参拝者の癒やしや休息の場としての庭を」と作庭。「昭和の小堀遠州」と称えられた、中根金作が手がけました。梅林のある「春の山」をはじめ、「平安の庭」「城南離宮の庭」など趣の異なる五つのゾーンが目を楽しませてくれます。

京都に最初の春を伝える「城南宮」のしだれ梅

視界を包み込むしだれ梅。眼下には落ち椿が彩りを添える(画像提供:城南宮)

「春の山」は、なだらかな丘の上にしだれ梅の花の咲いた枝が降り注ぎ、花の散る惜梅(せきばい)の時期には花びらが一面を覆います。さらに、神苑入り口から「春の山」や「平安の庭」にかけては、さまざまな品種の椿(つばき)も色を添えます。苔(こけ)の上にぽとり、ぽとりと落ちた「落ち椿」としだれ梅の共演を見られるのは2月下旬〜3月中旬まで。「咲きはじめから満開、風の強い日には花吹雪が、花も終わりに近づくと花びらのじゅうたんがご覧になれます。季節とともに移ろう景色は、一度訪れると、時期を変えて何度も足を運びたくなるはずです」と、城南宮広報の山本弘毅さんは語ります。

京都に最初の春を伝える「城南宮」のしだれ梅

神楽殿で行われる「梅が枝神楽」。平日は10時、土日・祝日は10時と15時(画像提供:城南宮)

今年は2月18日から3月22日まで開催される「しだれ梅と椿まつり」で、梅の花を冠にさした巫女(みこ)が神楽を舞う「梅が枝神楽」が奉納されます。また、参道で販売される「椿餅」もこの期間だけの楽しみ。地元の和菓子店・松甫堂(しょうふどう)が白玉椿を模して作る道明寺餅で、桜餅のような粒つぶとした食感に、ひと足早い春の口福を感じます。

京都に最初の春を伝える「城南宮」のしだれ梅

「しだれ梅と椿まつり」期間中のみ販売される「椿餅」(画像提供:城南宮)

一年を通して『源氏物語』に登場する約80種もの草花が四季折々の表情を見せる神苑ですが、寒さに耐えて花を咲かせるしだれ梅は、芽吹きを伝えるはじまりの花。城南宮の梅が開花すると、京都の春の足音がはっきりと聞こえてきます。春を待つのではなく、迎えに行くような気持ちで、梅の花咲く場所へと足を運んでみませんか。視界を包み込む花々と甘酸っぱい香り、落ち椿や、遊びに来たメジロの姿を見つける楽しみ……。季節の小さな変化を見逃さない瞳を持つことが、一番の春への近道だと気づくはずです。

京都に最初の春を伝える「城南宮」のしだれ梅

「春の山」以外でも境内ではあちこちで梅が花咲く(画像提供:城南宮)

城南宮
http://www.jonangu.com

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PROFILE

大橋知沙

編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

心豊かに時を過ごす、クラシカルな喫茶店「フランソア喫茶室」

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