あの街の素顔

まるで「かじるマーマレード」 完熟きんかん「たまたま」の濃厚な甘み 宮崎

まるで「かじるマーマレード」 完熟きんかん「たまたま」の濃厚な甘み 宮崎

たわわに実ったつややかなきんかんは、輝く宝石のようだ

プロ野球のキャンプでにぎわう2月の宮崎を、ひときわ明るく輝かせるフルーツがある。宮崎のブランド完熟きんかん「たまたま」だ。

きんかん生産量日本一を誇る宮崎県。もともとは露地栽培が行われていたが、現在の主力商品はハウス栽培による「完熟きんかん」。きんかんといえば苦みや酸味があるため甘露煮にするイメージが強いが、完熟きんかんはそのまま生で、皮ごとまるかじりできる。

完熟きんかんの登場は「たまたま」の名のごとく、偶然だった。昭和50年代、記録的な大寒波が襲来し霜による大損害を被ったことをきっかけに、ハウス栽培がスタート。露地ものとの競合を避けるために、出荷時期を遅らせようと長く育てたところ奇跡が起きた。熟度が増し、誰もが想像しなかった甘さ、そして玉太りもよく、色・つやもよくなった。「皮ごと食べられる果実」が誕生したのだ。

まるで「かじるマーマレード」 完熟きんかん「たまたま」の濃厚な甘み 宮崎

河野利泰さんのハウス。完熟きんかんの栽培は手間ひまがいる。成長を促すための的確な剪定(せんてい)、開花後は優れた果実を残すための摘果が収穫まで続く

JA宮崎中央ハウス金柑(きんかん)部会長・河野利泰さんのハウス(宮崎市高岡町)を訪ねると、一面にオレンジ色の水玉が躍っていた。「毎年シーズンを迎えると、わたしもハウスに入った途端、『うわーっ』と声を上げてしまいます」と河野さんが笑う。

まるで「かじるマーマレード」 完熟きんかん「たまたま」の濃厚な甘み 宮崎

河野利泰さん。きんかんの開花時期もハウスに入ると思わず声を上げてしまうそう。「白い花がいっせいに咲いて雪のよう。桜よりきれいやもんね」

たまたまは花が咲いてから210日間を経過し、樹上で完熟させた、直径28ミリ以上、糖度16度以上、大玉で外観の優れたブランドきんかんだ。「たまたまエクセレント」にいたっては直径32ミリ以上、糖度は一般的なメロンやいちごを上回る18度以上。かじると口の中に優雅な甘さ、皮の風味、とろりとした食感がひろがる。その味わいは、まるでマーマレードのようだ。

まるで「かじるマーマレード」 完熟きんかん「たまたま」の濃厚な甘み 宮崎

大野勝市さん。1982年の創業時、たまたまはおろか、きんかんの取り扱いもなかった。「ここまでのブランドになったのは本当に関係者の努力あってこそです」

宮崎市の繁華街・西橘通りの老舗果物店「フルーツ大野」でも、たまたまは、この時期一番人気の商品だ。同店では「たまたまパフェ」も楽しめる。生クリームやアイスクリームが層をなした大きなパフェは、甘さ、酸味、ほんのりした苦味を兼ね備えた「たまたま」と一緒に食べると爽やかにあっさりといただける。

まるで「かじるマーマレード」 完熟きんかん「たまたま」の濃厚な甘み 宮崎

特大のたまたまをたっぷり使った「たまたまパフェ」。飲んだ後の「しめパフェ」としても人気。必ず皮ごと食べて!

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たまたまパフェのてっぺんには、たまたまがてんこ盛り

「でも」と、社長の大野勝市さんが顔を曇らせた。「まだまだ県外に知られていないんですねえ、たまたまは」。パフェを食べたあとをみれば、すぐわかるという。「きれいに皮だけ残っていることがあるんです。もったいないねえ」。食べられる皮こそが、たまたまならではの大きな魅力なのだ。

たまたまは、料理に使ってもおいしくいただける。宮崎市内で3月15日まで、今年で4回目となる「宮崎ひなたフルーツフェア2019」が開催されている。和食、フレンチ、カフェなどさまざまな店舗でたまたまを使ったオリジナルメニューを提供。サラダ、茶碗蒸し、カルパッチョ、肉と合わせた煮込みなどじつに多彩。ここまでフルーツをスイーツではなく、「料理」に使っているフェアは珍しい。

まるで「かじるマーマレード」 完熟きんかん「たまたま」の濃厚な甘み 宮崎

「マルハチ」のオーナーシェフ八田淳さん

参加店である「ふらんす食堂Bistroマルハチ」のオーナーシェフ八田淳さんは、「たまたまはフレンチとの相性が抜群です」と語る。フランス各地のレストランで修業した経験から「フランスではフルーツを使った料理が豊富。そもそもあまり、生で食べる習慣がないんです。酸味があったりクセが強かったりするものが多いので、加熱することが多いですね」。一方、生食がメインの日本のフルーツはおおむね「味が淡い」。そんななか、たまたまは「味が濃いですね。しっかりした主張があるのが魅力。とくに加熱してコンポートにすると、濃厚で複雑な味わいになります。皮の部分もまるごと煮るからでしょうね」。

まるで「かじるマーマレード」 完熟きんかん「たまたま」の濃厚な甘み 宮崎

「日向鶏とたまたまのロースト」。フレッシュのトマトソースも添えられている

たまたまの個性をストレートにいかした一皿が「日向鶏とたまたまのロースト」。食べてみると淡泊な鶏胸肉に、とろりとした甘酸っぱいたまたまが見事に華を添えている。何も加えずに加熱しただけで、たまたまは素晴らしいソースに変身していた。意外なことに、ひとふりされたコショウのピリッとした風味もじつに合う。

「たまたまは『エキゾチック』にもなります」と八田さん。「シナモンやクローブ、八角などのスパイスと相性がいい。個性的な組み合わせの料理に向いています。料理人としてイマジネーションをかきたてられますね」

まるで「かじるマーマレード」 完熟きんかん「たまたま」の濃厚な甘み 宮崎

「サバとたまたまのテリーヌ」。サバ、カレーピラフ、たまたまのジュースで煮たにんじんを組み合わせた一品

「サバとたまたまのテリーヌ」は、たまたまのピュレに付け込んだサバと、カルダモン、ターメリックなどを入れたカレーピラフを組み合わせた一品。サバやスパイスに負けることなく、たまたまの風味がつややかに浮き立つオリエンタルな味わいに驚く。

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「鹿肉生ハム 完熟きんかんとトマトで 」。西米良産の鹿を塩漬けにして仕上げた生ハムと、たまたまを、葉わさび入りのラディッシュすりおろしとともに召し上がれ

たまたまを和食で楽しめるのは、居酒屋「みやざき晴夜」。料理長の馬込一則さんは「たまたまは存在感があり、肉に合うと思います」と語る。その個性をいかすべく組み合わせたのはジビエ。「​鹿肉生ハム 完熟きんかんとトマトで 」は鹿のうまみと、たまたまの濃い甘酸っぱさが拮抗(きっこう)した味わいの一品。酸味、香りづけ、臭み消しとしての役割を果たすレモンやゆずといったほかのかんきつ類と、たまたまはまったく違うものだと気付く。

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「完熟きんかんの豚巻き天ぷら」。添えられた豚みそをつけて食べると、焼酎にぴったりの味わいに

「食感も面白い。プチトマトみたいなイメージでも使えます」と馬込さんが勧めてくれたのは、たまたまを使った天ぷらだ。「完熟きんかんの豚巻き天ぷら」は、たまたまを半分に切って「ひむか完熟ポーク」で巻き、衣をつけて揚げたもの。サクッとした衣をかじると、皮の軽い歯ごたえ、続いてジューシーな甘酸っぱさが広がる。

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「完熟きんかんと早川農苑野菜、小海老のかき揚げ」。完全無農薬、無化学肥料の野菜を使用

一方、「完熟きんかんと早川農苑野菜、小海老のかき揚げ」は串切りにしたたまたまと芝エビ、にんじん、たまねぎ、ごぼうを揚げたもの。衣全体にたまたまの甘みと爽やかな香りが広がり、驚くほど「フルーティーなかき揚げ」だ。「加熱しても主張する。糖度が高いのに酸味も苦みもあってジューシー。皮と実のバランスがいいんですよね」。たまたまのポテンシャルはやはり「皮」にあるらしい。

ひなたフルーツフェアには、市内のバーも参加し、たまたまを使ったカクテルも楽しめた。
若草通りのバー「Awato」のオーナーバーテンダー粟戸稜大(あわとりょうだい)さんは、「カクテルにオレンジやグレープフルーツを使うと、スッキリした仕上がりになるけれど、たまたまは違う。足し算したくなる味わいなんですよね」と語る。

まるで「かじるマーマレード」 完熟きんかん「たまたま」の濃厚な甘み 宮崎

「金柑たまたまと生姜のモスコミュール」。たまたま、ショウガ、タイムの絶妙なマリアージュが楽しめる

「金柑たまたまと生姜(しょうが)のモスコミュール」は、ピュレ状につぶしたたまたまに、ジンジャービア、ショウガを漬け込んだウォッカを使ったカクテル。仕上げに使うのは、なんとタイムで、軽くあぶって加える。口に含むと、たまたまのコクのある甘さ、ピリッとしたショウガ、そしてタイムの鮮やかな風味が駆け抜けた。

皮ごと食べられる果実・たまたまは、どんなかんきつ類もまねできないほど、料理やカクテルの素材として、さんさんと光を放っていた。宮崎の日差しが生み出した「小さな太陽」を、ぜひ、まるごと堪能していただきたい。

■マルハチ
http://www.bistromaruhachi.com/

■フルーツ大野
https://www.miyazaki-fruit-ohno.com/

■晴夜
https://www.comfort-diner.com/hareruya/

PROFILE

「あの街の素顔」ライター陣

こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一

池田 陽子(いけだ・ようこ)

薬膳アテンダント、食文化ジャーナリスト、全日本さば連合会広報担当サバジェンヌ。
宮崎生まれ、大阪育ち。立教大学社会学部を卒業後、広告代理店を経て出版社にて女性誌、ムック、また航空会社にて機内誌などの編集を手がける。カラダとココロの不調は食事で改善できるのでは?という関心から国立北京中医薬大学日本校に入学し、国際中医薬膳師資格取得。食材を薬膳の観点から紹介する活動にも取り組み、食文化ジャーナリストとしての執筆活動も行っている。趣味は大衆酒場巡りと鉄道旅(乗り鉄)。さばをこよなく愛し、全日本さば連合会にて外交担当「サバジェンヌ」としても活動中。著書に『​ゆる薬膳。』(日本文芸社)、『缶詰deゆる薬膳。』(宝島社)、『サバが好き』(山と渓谷社)、『「サバ薬膳」簡単レシピ』(青春出版社 3月2日発売予定)など

タイ・バンコクのショッピングセンターで食べる絶品麺

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