あの街の素顔

紀州のチーズ洗練士と梅、ぶどうサンショウ 和歌山の食を訪ねて(1)

「和歌山県に行ってみたい」
そう思い始めたのは、チーズ洗練士の宮本喜臣さんとの出会いがきっかけでした。
和歌山県紀の川市でナチュラルチーズの専門店「コパン・ドゥ・フロマージュ」を営む宮本さんは、チーズプロフェッショナル協会の認定資格者であると同時に、フランスやイタリアから輸入するチーズに「何か」をプラスしてアレンジするチーズ洗練士です。その際、和歌山県の特産品ばかりを使うのが宮本さんの特徴です。

「チーズを通して和歌山の食文化を世界に発信したい」と語る宮本さんの、地元の食に対する情熱と誇りは一体どこからやってくるんだろう? 私の素朴な疑問は日ごとに膨らみ、まだ訪ねたことのなかった和歌山県への思いが募りました。そこで私が見て体験した食と、それらを育んだ大自然やおすすめスポットを、3回にわたってお伝えしたいと思います。

紀州のチーズ洗練士と梅、ぶどうサンショウ 和歌山の食を訪ねて(1)

フルーツの名産地である紀の川市の住宅街にある「コパン・ドゥ・フロマージュ」

チーズ洗練士に、ライセンスや認定証のようなものはありません。「フランスよりもイタリアの方が発達していて、一流チーズ洗練士のお店には、グルメたちが買いに集まります」と宮本さん。イタリアでチーズ洗練士の第一人者に師事したそうで、その仕事を「メイクを施してすっぴんとは違う美しさを引き出すメイクアップアーティストのチーズ版」にたとえます。

宮本さんの作り出すチーズのおいしくて美しくておしゃれなことと言ったら。例えばこんな感じです。

紀州のチーズ洗練士と梅、ぶどうサンショウ 和歌山の食を訪ねて(1)

イタリア産ブルーチーズを和歌山県の梅焼酎で洗い、和歌山県特産の肉桂(シナモン)パウダーをまぶした「ブルー・アッラ・カネッラ」。イタリア本国でも人気を博しました

紀州のチーズ洗練士と梅、ぶどうサンショウ 和歌山の食を訪ねて(1)

和歌山県湯浅町が発祥という日本のしょうゆ。その生産過程でできるもろみでイタリアのフレッシュチーズを熟成させた「モロマッジョ」

紀州のチーズ洗練士と梅、ぶどうサンショウ 和歌山の食を訪ねて(1)

宝石のように美しくてうっとりする「ロゼッタ・ブルー」は、和歌山産みかんのハチミツと合わせると最高においしい

紀州のチーズ洗練士と梅、ぶどうサンショウ 和歌山の食を訪ねて(1)

「コパン・ドゥ・フロマージュ」の宮本喜臣さん

さて、「フード」をメインテーマに旅をする私が、和歌山県と聞いてまず思い浮かべるのは「紀州の梅」。特に「南高梅」はなぜこんなにおいしく、高級品とされるのか? その秘密を探りに、さっそく梅の生産地、和歌山県みなべ町へ。

「日当たりのいい斜面にいい梅が実るんですが、勾配が急だから作業が大変なんだ」と畑を見せてくれたのは、梅農家の中早大輔さん。和歌山県南西部のみなべ・田辺地域は日本一の梅生産地で、国内生産量の50%以上を担います。その昔、平地が少なく水はけがよすぎたこの土地では、米が作れず年貢が払えないという問題を抱えていました。試しに梅を栽培してみると、勾配のきつさと水はけのよさが幸いして上質な梅が育ったというのです。

私が暮らすイタリアの、最高峰ワインの生産地ピエモンテもトスカーナも、同じように急勾配の丘陵地帯に畑があります。梅干しとワイン。意外なところで共通項を発見。日当たりがよく水はけがいいことで、果実の水分・成分が凝縮され、素晴らしい味と香りの果実が育つというわけです。

梅畑へ行ってみると、そこは一面、梅の谷。2月の満開時には辺り一面梅の花で埋め尽くされ、甘酸っぱい香りに包まれます。

紀州のチーズ洗練士と梅、ぶどうサンショウ 和歌山の食を訪ねて(1)

開花期間中に限り、一般の人も畑にアクセスできるイベントや、ピクニックスペースなども企画、提供されるそう

「木の下にネットを張っておいて、完熟して落ちた梅を拾い集め、加工するんだけれど、この斜面に機械は入れないので、手作業でとても大変なんだ」と中早さん。確かに、うっかりすると転んでしまいそうな急勾配です。でも生産者の皆さんが苦労をいとわず、完熟するまで待ってから収穫するというていねいな作業が、皮が薄く肉厚でジューシーな南高梅を生み出すのです。その陰には、114種類もあった梅の中から「南高梅」となった品種をえりすぐった研究チームの努力もありました。そして、ミツバチによる受粉など、梅畑のある山の環境を保善するための様々な方面での努力がみなべ・田辺地域の梅を支えます。そのシステムは世界農業遺産に認定されました。

イメージ7

紀州のチーズ洗練士と梅、ぶどうサンショウ 和歌山の食を訪ねて(1)

品種の調査研究を行ったのは、地元の県立南部高校農業科(現・食と農園科)の先生と生徒たち

そんな梅を使った梅干しや梅ジャム、梅酒などなど、それぞれの農家や生産者の方々が工夫を凝らして作っています。作るところも見てみたいなあ、と思っていると、梅干しや梅酒作りを体験できる梅干館や工房などもあるよ、と町役場の方が教えてくれます。

そういえば、みなべ町は海にも面していて、イセエビやイワシ、サバなどの魚介が約800種類も水揚げされるんですって。

紀州のチーズ洗練士と梅、ぶどうサンショウ 和歌山の食を訪ねて(1)

梅干しを毎日食べる梅干し農家の皆さんは、「一年を通じて風邪をひかない」と話します

次回は必ず海の幸も!と心に決め、お土産の梅干しと梅酒を抱え次の目的地へ急ぎます。行き先は、和歌山自慢のあるものを使った料理が面白いという「田舎cafe かんじゃ」です。

あるものとは「ぶどうサンショウ」。聞きなれない名前ですが、ぶどうの房のような形に実がなることからこの名前があるそうです。サンショウの一種ですが、香りが鮮烈で粒が大きいことが特徴とか。かんでみると確かにスーッと華やかな香りが鼻に抜けていきます。サンショウの収穫量が全国1位の和歌山県にあって、ぶどうサンショウは有田川町の特産品で、生産量もこの町が日本一。

紀州のチーズ洗練士と梅、ぶどうサンショウ 和歌山の食を訪ねて(1)

梅農家・中早家の方々。長男の大輔さん(左)と三男の洋行さん(右から2番目)は生産に携わり、次男の良太さん(左から2番目)はみなべ町役場「うめ課」に勤務。いとこの有本陽平さん(右)は極上の梅酒を作って世界進出を狙います

サンショウといえば日本人は「うなぎ」と考える人が圧倒的だそうですが、私の暮らすイタリアのトップシェフたちは、その爽やかな香りとピリッとしたおいしさを「ペーペ・ジャッポネーゼ」(日本のコショウ)と呼び、料理やスイーツにどんどん使い始めています。

小高い山や森、川、まるで映画のシーンのように美しい田舎道をレンタカーで走った所に、「田舎cafe かんじゃ」はありました。“緑のダイヤ”と呼ばれるほど粒が大きく肉厚、香りも素晴らしい最高級品ぶどうサンショウを使った食材が買えて、食べられるこのお店は、県外からもお客さんがやってくるとのこと。

紀州のチーズ洗練士と梅、ぶどうサンショウ 和歌山の食を訪ねて(1)

カフェ営業は土日、祝日の午前11時〜午後5時

紀州のチーズ洗練士と梅、ぶどうサンショウ 和歌山の食を訪ねて(1)

ぶどうのように実をつける「ぶどうサンショウ」(和歌山県観光連盟提供)

紀州のチーズ洗練士と梅、ぶどうサンショウ 和歌山の食を訪ねて(1)

畑の真ん中にポツンとカフェはありました

紀州のチーズ洗練士と梅、ぶどうサンショウ 和歌山の食を訪ねて(1)

ブラックペッパーの代わりに完熟した赤サンショウを利かせた「かんじゃ風カルボナーラ」、サンショウドレッシングのサラダ、ゆずソースがけヨーグルトのデザートとセットで1,300円

紀州のチーズ洗練士と梅、ぶどうサンショウ 和歌山の食を訪ねて(1)

かんじゃ風スープカレーセット(1,000円)にもサンショウの香りがいっぱい!

紀州のチーズ洗練士と梅、ぶどうサンショウ 和歌山の食を訪ねて(1)

サンショウジャム、サンショウみそ、粉サンショウやおろしサンショウなど、自家製サンショウ製品も販売

洗練されたセンスを感じさせるおいしいパスタやカレーに、ふんだんに使われたサンショウのパウダーやジャム。思った以上にいろいろな料理と合っておいしくて、これは家でもまねしてみたい!と、またもやあれもこれもと買い込んで車に乗り込みました。

次なる目的地はユネスコ無形文化遺産にも登録された「和食」を支えるあの調味料の生まれ故郷です。

紀州のチーズ洗練士と梅、ぶどうサンショウ 和歌山の食を訪ねて(1)

カフェから車を走らせると、近くに「あらぎ島」が。日本の棚田百選にも選ばれた風景です。写真は新緑の季節(和歌山県観光連盟提供)

コパン・ドゥ・フロマージュ
https://www.copain-f.com/

田舎cafe かんじゃ
http://www.sansyou-en.com/cafe/

文・写真 宮本さやか(フードジャーナリスト・在イタリア)

PROFILE

「あの街の素顔」ライター陣

こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一

まるで「かじるマーマレード」 完熟きんかん「たまたま」の濃厚な甘み 宮崎

一覧へ戻る

「ちゃんちゃらおかし」 女装して勇み踊る大瀬まつり 静岡県沼津市

RECOMMENDおすすめの記事