京都ゆるり休日さんぽ

季節に寄り添い、一輪の花に野山を見る京都の花屋「みたて」

季節に寄り添い、一輪の花に野山を見る京都の花屋「みたて」

足元から芽吹く春をそのまま切り取ったような寄せ植え

すっかり葉を落とした木の根元から、むっくりと芽が吹き、やがて小さな花が開く――。

冬山の情景を手のひらにすくいとってきたかのような寄せ植えが並ぶのは、京都・紫竹にある花屋「みたて」です。枯れ木のように見える枝には、よく見ると芽やつぼみが点々と。季節が進むにつれ、堅く閉じていたそれはゆるゆるとほころび、春の訪れをそっと教えてくれます。

季節に寄り添い、一輪の花に野山を見る京都の花屋「みたて」

自然のままの形の枝もの。1本からでも購入可能

「この季節の植物は不思議で……。一見死んでいるようで生きている。他の季節では、花が咲き、散ると見頃を終えますが、今の時期は、枯れているようにも見える植物が逆に芽吹いてゆくさまを楽しめるんです」。そう話すのは、店主の西山隼人さん。妻の美華さんとともに、山野草を中心とした花屋「みたて」を開いたのは5年ほど前のこと。それぞれ一年中色とりどりの花が並ぶ花屋で働く中で、「うそのない、本当の季節を伝える花を扱いたいと思うようになりました」と美華さんは話します。

季節に寄り添い、一輪の花に野山を見る京都の花屋「みたて」

花が開いたふきのとう。この後どんどん背が高くなる

季節に歩みを合わせ営む「みたて」にとって、冬から春にかけてはもっとも花が少ない時期。温度を管理して早く芽吹かせるようなことも行いません。店頭には寒々とした枝ものや寄せ植えが並び、ぽっと光がともるように、わずかな花が楚々(そそ)と咲いているだけ。よく目を凝らしてみると、草の背丈もずいぶん伸びています。そのけなげな姿を見つけたとき、子どもの頃、散歩道で花を摘んだ記憶のようないとおしさが、胸にこみあげてくるのです。

季節に寄り添い、一輪の花に野山を見る京都の花屋「みたて」

朴訥(ぼくとつ)とした姿が心に響く、フキタンポポの小さな鉢植え

ものを、表現の文脈上本来の姿や用途とは別のものになぞらえる「見立て」という手法は、茶の湯をはじめ、庭園や落語などさまざまな日本文化の中に息づく美意識です。季節の流れと自然の姿のままに集められた植物が、「みたて」の手にかかると、凛(りん)とした空気やしなやかな色気を帯びるのは、その見立ての成せる技。花入れや鉢には、陶工の窯道具や陶片、古い土器など、本来花を生ける用途ではないものも多く用います。まるで置き去りにされていた陶片が苔(こけ)むし、草花が芽生えるように、見立てることでそこに新しい景色が生まれます。

季節に寄り添い、一輪の花に野山を見る京都の花屋「みたて」

店頭には花入れになる土器や骨董(こっとう)も並ぶ

「みたて」の花の世界観は、店頭の切り花や寄せ植えのほか、季節や行事に合わせたお飾り、ギフトなどで暮らしに取り入れることができます。4寸、6寸の木箱に季節を表現した贈り物「季節の木箱」(10日前までに要予約)や、日本の風習を取り入れつつモダンな空気をまとった正月飾りは、全国からオーダーが集まります。昨年12月には、正月飾りを竹や漆、染めの職人とともに作る風景を収録した写真集『みたての正月』を出版。餅花の小さな小さな一粒を紅花から抽出した染料で色付けする様子など、細やかで美しい手仕事の過程に引き込まれます。

季節に寄り添い、一輪の花に野山を見る京都の花屋「みたて」

写真集では、どのように正月飾りが制作されているのかを垣間見ることができる

「“伝統に倣って”と言うよりは、いつか、どこかの村人が作っていたようなお飾りを作りたいと思っています。例えば、餅花は柳で作るのが一般的ですが、柳の枝がない家ならば、きっとそれに代わる枝を見つくろって作ったでしょう。餅の数は八十八にするだろうな、と。そういうところから発想して、伝統という形になる以前の、自然な思いつきや純粋な祈りを形にしています」と隼人さんは話します。

季節に寄り添い、一輪の花に野山を見る京都の花屋「みたて」

柳ではなく高野箒(こうやぼうき)を使った餅花。見立てることで新しい表情が生まれる

「見立てる」という行為は、茶人や芸術家だけが持つ才能ではなく、いつの時代にも人びとに宿る想像の目。「みたて」の表現する植物の姿に、私たちは野山の景色を重ね、繰り返されてきた風習を思い、時には歌や物語の世界にまで飛び立つことができます。一輪の花から広がるまだ見ぬ景色に会いに、京都の小さな花屋を訪ねてみてください。(撮影:津久井珠美)

みたて
http://www.hanaya-mitate.com

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PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告、家族写真など、多岐にわたり撮影に携わる。

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