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琉球王朝の文化を反映する、正殿の外壁塗装とデザイン 首里城(2)

琉球王朝の文化を反映する、正殿の外壁塗装とデザイン 首里城(2)

絢爛(けんらん)豪華な、正殿2階の御差床(うさすか)。御差床は国王が座る玉座で、正面には正月の儀式や中国皇帝への親書を送る儀式などにも使用した唐玻豊(からはふ)という部屋がある。御差床は2階と1階の同じ場所にあり、極めてめずらしい構造といわれる

<首里城(1)から続く>

目が覚めるような、鮮やかさ。首里城正殿の壁面を彩る美しい朱色は、いまや沖縄のイメージカラーのひとつともいえるのではないだろうか。その首里城の正殿外壁の漆(うるし)が昨年末に塗り直され、新たな輝きを放っている。部分的な塗り直しはされていたが、背面側から唐破風(からはふ)、正面左右など、全方位を同時期に塗り直したのは、1992年の復元以来、今回が初めてとなる。

つやめく朱色は、琉球独特の発色だ。緋色(ひいろ)のように鮮やかでありながら、茜色(あかねいろ)のような心落ち着くトーンでもある。中国建築の影響を強く受けながらも日本の伝統色を連想させる色合いなのは、琉球王国が中国と日本の様式や技術を取り入れながらも独自の文化をつくってきたからだろう。だから、異国の風を感じながらもほっと安心するのだ。

琉球王朝の文化を反映する、正殿の外壁塗装とデザイン 首里城(2)

塗り直しが完了し、よりつやめく正殿の外壁

琉球王国時代の首里王府で王府御用品の漆塗り業務を担当していた貝摺(かいずり)奉行所の文書から、外壁の顔料や漆塗りの基本工程と技法が明らかになった。正殿をはじめ淑順門(しゅくじゅんもん)や漏刻門(ろうこくもん)などの外壁は、研究の成果を元に琉球の漆塗装技法を取り入れて往時の色へとよみがえらせている。外壁の塗装の工程はなんと27にも及び、桐油(とうゆ)と弁柄を混ぜたものを塗っているのが特徴だ。赤色の顔料は弁柄で、桐油は琉球で密陀絵(みつだえ)に用いられたもの。正殿の外壁塗装では黒漆の上に桐油弁柄を塗っているため、茶を帯びたような深みのある赤色に仕上がるのだという。

外壁塗装は漆職人が手塗りで仕上げており、伝統技術継承の絶好の機会でもあるという。外壁の赤色が塗り立てのつやを放つのは、1年ほど。大きく変色するわけではないが、やはり外気にさらされているため多少は落ち着いてしまうようだ。早めに見ておくのがおすすめだ。

琉球王朝の文化を反映する、正殿の外壁塗装とデザイン 首里城(2)

首里城の顔といえる正殿は、木造3階建て。1階は主に国王自ら政治や儀式を執り行う下庫理(しちゃぐい)、2階は国王と親族・女官らが儀式を行う大庫理(うふぐい)と呼ばれる場、3階は屋根裏部屋だった

首里城の正殿が和漢折衷でありながら琉球独自の技法や文化を取り入れていることは先に触れた通りだ。正面にある彩色された向拝柱の色調や文様などは、中国の影響を大きく受けている。柱を取り巻くように描かれた龍(りゅう)も国王の象徴で、5本あるはずの龍の指が4本しかないのは、中国皇帝を象徴する龍が5本指であることに配慮しているという。こんなふうに、随所に琉球らしさがうかがえる。正面階段脇に左右対でつけられた大龍柱(だいりゅうちゅう)は、龍をモチーフにしながらも龍の彫刻の形態としては琉球にしか存在しないものだ。

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琉球だけのオリジナル、大龍柱

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正殿1階の御差床(国王の玉座)の左右の柱にも4本指の龍が描かれている

正殿の内部の御差床(うさすか)と呼ばれる国王の玉座にも、日本らしさとともに琉球独自の文化とデザインが感じられる。壇(だん)の形式が寺院の須弥壇(しゅみだん)に似ているところなどは、実に日本的だ。2階の御差床にある玉座下の羽目板にある、リスとぶどうの彫刻は注目すべきもののひとつ。思わずほっこりしてしまうかわいらしい彫刻なのだが、沖縄にもともとリスは生息しておらず、ぶどうの栽培もしていなかった。リスはたくさん子供を産む動物で、ぶどうは房になっていくつも実をつける果実。中央アジアからシルクロードを経て琉球に取り入れられたと考えられる二つのモチーフは、豊かさや子孫繁栄の象徴とされたようだ。琉球漆器の模様にも、リスとぶどうは多く使われている。

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2階の御差床(国王の玉座)の壇

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御差床の壇の羽目板にある、リスとぶどうの彫刻

須弥壇のまわりをめぐる高欄と呼ばれる黒漆塗りの手すりには、毛彫りの模様に金粉や金箔(きんぱく)を埋め込む沈金の技法で「鉄線」が描かれている。これも、沖縄にはもともと存在しないモチーフだ。鉄線とは、中国原産のクレマチスの花のこと。江戸時代に工芸品や女性の小袖などの模様として日本で流行し、琉球でも取り入れられたと考えられている。見たことはないはずのクレマチスの花を琉球の人々が描いたのは、江戸や上方ではやった絵柄を取り入れたからなのだろうか。もしくは、日本と中国にはさまれた琉球王国が、日本の絵柄として取り入れたのか…………。そんなことを考えながら、きらびやかな世界を鑑賞するのも楽しい。

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沈金が施された模様には、かなり高度で繊細な技術が用いられている

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天井額木にある五色の雲は、古来吉兆とされるもの。仏教では五色の彩雲などと呼ばれ、西方極楽浄土から阿弥陀如来(あみだにょらい)が五色の雲に乗ってやってくる来迎図などにも描かれている

ところで、正殿1階で世界遺産の遺構が見られるのをご存知だろうか。「琉球王国のグスク及び関連遺産群」のひとつとして世界文化遺産に登録されている首里城だが、建物はすべて沖縄戦で焼失したため、建物が世界遺産登録されているわけではない。正殿も、1992年に復元されたものだ。首里城が世界遺産たる理由は、内郭や外郭の石積みの一部や正殿1階の床下部分に地下遺構が奇跡的に残っているからだ。地下遺構は数段階の拡張の跡が見られ、首里城および琉球の歴史を物語る遺構として価値が認められている。

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正殿1階の床下に残る首里城の地下遺構

(この項終わり。次回は3月18日に掲載予定です)

#交通・問い合わせ・参考サイト

■首里城
ゆいレール「首里」駅から徒歩約15分で守礼門
http://oki-park.jp/shurijo/(首里城公園管理センター)

PROFILE

萩原さちこ

小学2年生のとき城に魅了される。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演、講座などをこなす。著書に『わくわく城めぐり』(山と渓谷社)、『戦国大名の城を読む』(SB新書)、『日本100名城めぐりの旅』(学研プラス)、『お城へ行こう!』(岩波ジュニア新書)、『図説・戦う城の科学』(サイエンス・アイ新書)など。webや雑誌の連載多数。

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