京都ゆるり休日さんぽ

咲き誇る、京都の名庭のしだれ桜を訪ねて 退蔵院と高台寺

咲き誇る、京都の名庭のしだれ桜を訪ねて 退蔵院と高台寺

紅しだれ桜のシャワー越しに見る石庭(画像提供:退蔵院)

3月下旬から4月の上旬にかけて、京都では街を歩けば桜の祝福を受けます。老舗の料亭や居酒屋が軒を連ねる木屋町通、人々が散歩を楽しむ鴨川沿いや京都御苑、観光の合間に立ち寄れる哲学の道や蹴上インクライン、祇園白川、琵琶湖疎水……。街でふいに出くわす桜の景色はうれしいものですが、門をくぐらなければ出あえない、とっておきの桜があるのもまた、京都。この季節にだけ見られる、桜色の花かんざしをさした寺の名庭をのぞきに出かけましょう。

古刹の庭を薄紅色に染める、桜傘の下で

咲き誇る、京都の名庭のしだれ桜を訪ねて 退蔵院と高台寺

二つの石庭の間に大きな傘のように花をつけた枝が広がる(画像提供:退蔵院)

瓢簞(ひょうたん)が描かれた門をくぐると、すぐさまゆったりと枝を垂らした紅しだれ桜の大木に出迎えられるのが、「退蔵院」の「余香苑(よこうえん)」です。洛西の禅寺・妙心寺の塔頭の中でも600年以上の歴史を持つ退蔵院は、室町時代の絵師・狩野元信が作庭した枯山水庭園「元信の庭」と、昭和の造園家・中根金作による池泉回遊式庭園「余香苑」という、二つの庭園が時代を超えて隣り合う古刹(こさつ)。上空から包み込まれるようなしだれ桜の傘の下で、昭和の名庭を眺めることができるのはこの季節の特権です。

咲き誇る、京都の名庭のしだれ桜を訪ねて 退蔵院と高台寺

花が散る時期にしか見られないこんな風景も(画像提供:退蔵院)

平安神宮の紅しだれ桜の孫桜にあたるこの木は、樹齢約50年。白砂、黒砂に別れた石庭「陰陽の庭」の境界で咲き誇り、ゆるやかに弧を描くしだれ桜の流線とそれぞれの石庭との共演を楽しむことができます。満開を過ぎ、はらはらと桜が散るころには、砂紋のはざまに花びらが降りつもる風雅な景色が。均衡と調和を感じさせる石庭と、うつろい、揺らめくしだれ桜の対照的な美しさは、見つめるほどにため息がこぼれます。

咲き誇る、京都の名庭のしだれ桜を訪ねて 退蔵院と高台寺

水の流れが穏やかな光景を描く「余香苑」(画像提供:退蔵院)

ひょうたん池を中心に四季折々の草花が彩る「余香苑」には、入り口の紅しだれ桜のほかにも随所に桜の木があり、庭園に春の色を添えます。一通り散策を楽しんだら、苑内の茶席「大休庵」で雪見障子に縁取られた額縁庭園を眺めながら一服を。耳を澄ませば水のせせらぎや鳥のさえずりが聞こえ、薄紅色の桜の枝が優雅にたなびく。そんな春の庭の風景に、静謐(せいひつ)な禅寺の空気もどこか華やいでいるように感じられます。

ねねの一途な思いを映す、高台寺の一本桜

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方丈前庭に咲くしだれ桜(画像提供:高台寺)

豊臣秀吉の妻・ねね(北政所)が秀吉の菩提(ぼだい)を弔うために建立した、高台寺。伏見城から移築された方丈前の枯山水庭園「波心庭」の片すみに、しだれ桜が毎年優美な花を咲かせます。ねねの手植えと伝えられ、現在4代目を数えるこのしだれ桜は、華やかな桃山文化の面影を伝える境内の中でもどこか清らかで、繊細な雰囲気。端正な石庭の風景にさらさらと花がそよぐ姿は、方丈を見守るねねの魂を想像させます。

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庫裡(くり)前の八重桜は素朴なたたずまい(画像提供:高台寺)

勅使門周辺には染井吉野、庫裡前には八重桜が咲き、春を追いかけるように表情の異なる桜が花開きます。春の夜間特別拝観期間中(3月8日〜5月6日)はライトアップも行われ、昼間とはひと味違うあでやかな夜桜の姿に、しばし夢心地で見とれてしまいます。

咲き誇る、京都の名庭のしだれ桜を訪ねて 退蔵院と高台寺

夜間特別拝観期間中のライトアップでは、石庭も桜も幻想的な表情に(画像提供:高台寺)

一方、東山を借景に、臥龍池(がりょうち)、偃月池(えんげつち)の二つの池を中心とした池泉回遊式庭園は、江戸時代前期の作庭家・小堀遠州が手がけたもの。伏見城の遺構や千利休ゆかりの茶室、夫婦の木像が安置される霊屋(たまや)などが配され、秀吉亡き後のねねの思いをうかがい知ることができます。この庭は、高台寺がたびたび火災に見舞われながらも難を逃れ、創建当時の姿を今に伝える希少な場所。ねねと同じ景色を見つめながら、天下人を支え、時の武将や側室からも慕われていたというしなやかな女性に思いをはせてみてください。

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小堀遠州設計の庭園は、約400年前の姿を今に伝える(画像提供:高台寺)

凛(りん)とした表情をたたえる庭園に、ふわりと薄紅の化粧をほどこす桜。その柔らかな色彩に、人々は自然に笑みを浮かべ、巡りゆく月日を思います。しだれ桜は寿命が長く、一本の木がさまざまな縁や物語を秘めていることもしばしば。古都の春を幾度も見守ってきたあの桜は、この春はどんな表情で花を咲かせているのでしょうか。

退蔵院
http://www.taizoin.com

高台寺
https://www.kodaiji.com

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PROFILE

大橋知沙

編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

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