写真家を演じると、自分では撮れない写真が撮れる 永瀬正敏さんインタビュー(2) 新連載開始を前に

今月から始まる新連載「永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶」。連載開始に先立つロングインタビューの2回目は、俳優と写真家が、永瀬正敏さんの中でせめぎう時に話題が及びます。
(聞き手:&TRAVEL副編集長・星野学)

<永瀬さんインタビュー(1)から続く>

――今年、デビュー36年を迎えられました。振り返ってみて、いかがですか。

「まだまだですね。自分の感覚ではあっという間でした。実際には時間はたっていますけれど、まだまだ足りない」

――何が足りないのでしょう?

「たぶん、自信がないんでしょうね、自分の芝居に。自信がある役者さんがうらやましいですね。自分が欲張りだから、というのもありますが、いろんな役がやりたいので、その都度、どう演じていいのかわからなくなる時があります。撮影初日は特に。またお芝居にははっきりとした答えがないですから」

写真家を演じると、自分では撮れない写真が撮れる 永瀬正敏さんインタビュー(2) 新連載開始を前に

――国内外で100本を超える映画に出演され、さまざまな役を演じてこられても?

「まだまだ……まだまだですね……。何年か前に、久々に樹木希林さんとご一緒して、すごいなって。足元にも及ばない、すごいなあと、毎日思っていました」

――河瀨直美監督の映画「あん」ですね。

「そうです。河瀨監督の映画では、演じてはいけなくて、その役として生きていなければいけないので、撮影中は、樹木さんが演じられた役の徳江さんとして見ているんですけれど、寝る前とかにふと思い出すと、もう、すごすぎる。何がすごいって、お芝居を自分の手柄にせず、相手の手柄にするんです。それってなかなかできない」

――手柄、とは?

「樹木さんのお芝居は、あたしすごいでしょ、というお芝居じゃないんです。あなたすごいわよ、というお芝居をされる。でも、絵(映画)になったら、樹木さんの大きさはちゃんと刻印されている。並大抵のことではありません。『あん』の撮影が終わってインタビューしていただいた時によく言ったんですが、これから僕がやらせていただく作品では、全部共演したい、と思っていたんですけれど……」

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「すごいお芝居といえば、まだ20代の頃にご一緒させていただいた三國連太郎さんにも感じたことがあります。三國さんの場合は、こちらが勘違いするんです。自分がガンガンに演じられて、『俺、三國連太郎と同じくらいやれてるじゃん』と思う。ところが、ラッシュを見ると圧倒的にやられている。三國さんは、ただ背中が映っているだけなのに、その後ろ姿の存在感の大きさに圧倒されちゃうんです」

――山田洋次監督の映画「息子」ですね。三國さんが、永瀬さんのお父さん役でした。

「ええ。初めて、『役者さんってすごいな……』と思った出来事でした。三國さんはものすごく謙虚な方で、僕みたいな若造のちんぴら役者にも、すごくおもしろおかしく話しかけてくださり、腰も低い方で。もちろん、(僕が)緊張しないようにしていただいているんでしょうけれど。その雰囲気のまま撮影が始まり、僕は全力で直球を投げ込ませてもらえるんだけど、後で気がつけば三國さんには、全部ホームランを打たれている。若い頃に三國さんや、(映画『男はつらいよ 寅次郎の青春』で共演した)渥美清さん、デビュー作で藤竜也さんとご一緒できたことは、今思えばありがたかったですね」

――このところ、カメラマン役をよく演じておられますね。河瀨直美監督の「光」では、次第に視力を失っていく写真家。「毎日かあさん」でもカメラマンでした。写真家でもある永瀬さんにとって、写真家を演じることとは?

「写真に対する思いが、写真を撮ってない人よりはわかる。マイナスからではなくゼロからのスタートで現場に立てるところはありますね」

写真家を演じると、自分では撮れない写真が撮れる 永瀬正敏さんインタビュー(2) 新連載開始を前に

――演じるときに、カメラを構えたり、撮ることもありますよね。そういう時、「写真家・永瀬正敏」は目覚めないのですか?

「それが不思議なことに、撮影中に撮ると、普段自分が撮らない写真、その時にしか撮れない写真になることがあるんです。『毎日かあさん』の撮影中は、自宅の部屋中に、自分が演じた鴨志田穣さんの撮られた作品と鴨志田さんの顔を貼ってたんです。一日が終わる瞬間に鴨志田さんの作品が見られて、始まる瞬間に鴨志田さんの作品が見られるよう、ベッドの周りにも」

――「毎日かあさん」の作品中で永瀬さんが撮った写真は、写真家・永瀬正敏が撮る写真とは違う、と?

「違うんです。映画の中で、いろんな点描を撮っているシーンがあるのですが、どうしても、玄関にある靴を撮りたくて、みんなでご飯を食べるテーブルの誰もいないときを撮りたくて。夜のシーンの撮影が控えていて照明を変えなきゃいけなかったのですが、撮りたいなと思って監督にお願いして、照明部さんにもお願いして、追加のシーンとして写真を撮らせてほしい、僕が撮影しているところを撮っていただきたい、とリクエストしたんです。できあがった作品を原作者の西原理恵子さんが見てくださり、『同じことを鴨ちゃんがしてた。あれを見たとき、ぞくぞくっとして涙が出そうになった』と言っていただいたんです。何で僕がそこまであのツーカットを撮りたかったのかはわからなかったんですが、そう言われて『ああ、鴨志田さんが撮らせてくれたんだな』と思ったんです」

――写真家・永瀬正敏が、写真家・鴨志田穣を呼んだ。

「助けてくれたんだと思います、鴨志田さんが」

(第3回に続きます)

写真家を演じると、自分では撮れない写真が撮れる 永瀬正敏さんインタビュー(2) 新連載開始を前に

撮影:葛西亜理沙 スタイリスト:渡辺康裕(W) 衣装協力:YOHJI YAMAMOTO ヘアメイク:遠山美和子

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