バックパッカー歴30年、旅行作家・下川裕治インタビュー#02 相棒も共感できない特殊能力や癖とは?

1990年、『12万円で世界を歩く』で旅行作家としてデビュー以来、約30年間バックパッカースタイルで旅をし、多くの著書を出している下川裕治さん。こんな人生、なかなかない!?

現在、&TRAVELの連載『クリックディープ旅』で、再び12万円の旅に挑戦中だ。過去には玄奘三蔵が歩いたルートをたどる旅世界の長距離列車に乗る旅……。還暦を過ぎ、ひょうひょうと(つらい?)旅を続ける、その原動力は何なのだろうか? 相棒であるフォトグラファーの阿部稔哉さん、中田浩資さんも交え、お話を伺った。旅のスタイル同様、話題はあちこちに。

インタビューは3回に分けてお届けする。今回は第2回。

【前回はこちら】

いつもは“低予算で遠くへ”ということで、節約するためにすぐに乗り物にのるお三方。世界遺産などの観光名所はスルーすることが多い。そんな3人のレアショットを撮るべく、インタビューのロケ地はミニチュア世界遺産などがある「東武ワールドスクウェア」に。

おじさん3人がミニチュアの前でポーズ。かわいいかもしれない……。

どこでも熟睡できる下川裕治は、離陸時の重力も有効活用

バックパッカー歴30年、旅行作家・下川裕治インタビュー#02 相棒も共感できない特殊能力や癖とは?

【『再び「12万円で世界を歩く」赤道編1』より】。バスで南下を開始する。バンコクからハートヤイまで683バーツ、約2390円。30年前は約1627円。リクライニング&マッサージ機能付き椅子。ただし僕の椅子はマッサージが壊れていましたが。『12万円で世界を歩く』が売れ、僕は旅行作家になってしまった。以来30年。こういうバスで寝る術だけはうまくなった。切ない。(写真撮影=阿部稔哉)※写真をおせば当該記事へ。

――「クリックディープ旅」読者にはおなじみの、下川さんの寝姿ですが……。

阿部 これね! 本当にどこでも熟睡できる人なんですよ、下川さんは。

下川 移動中って他にやることないから。

阿部 僕はいまだにバスや電車の中では熟睡できないですけど。

下川 そうなんだ。

阿部 信じられないことに、下川さんは離陸直前の飛行機の中でも熟睡できる。離陸してからならわかりますけど、離陸するときってG(重力)がかかるじゃないですか。グオォォォンッてまさに飛び立つその瞬間の、あのGを利用して、スッと寝る。毎回、「今!?」「もう!?」って思います。

下川 みんなもやろうと思えばできると思う。

中田 いやぁ、なかなか。ふわっとする瞬間って気持ちいいですけど、それを使って眠るという境地まではさすがに。やっぱり、僕は下川さんみたいにはなれないなって思います。

バックパッカー歴30年、旅行作家・下川裕治インタビュー#02 相棒も共感できない特殊能力や癖とは?

ミニチュア東京駅前で。左から中田さん、下川さん、阿部さん

――ほかにも、下川さんには驚きのエピソードがあるんですか?

中田 僕、学生の頃に下川さんの本を読んで憧れていたから、大人になって下川さんの旅に同行できることになって本当にうれしかったんですが、期待通りというか、期待以上に下川さんは下川さんだったんですよ。

――というと?

中田 ひょうひょうとしていて、何事にも動じない。表情にも出さない。一緒に中国に行ったときにね、「野宿になっちゃうかもしれない!」ってことがあって……。

下川 新彊(しんきょう)ウイグル自治区から抜けたときのやつね。

バックパッカー歴30年、旅行作家・下川裕治インタビュー#02 相棒も共感できない特殊能力や癖とは?

【「チャルクリクから花土溝へ、玄奘三蔵が歩いた道・帰路編(9)」より】。花土溝に着いた。外国人が泊まることができるホテルは2軒。ところが、国慶節の休みのせいか満室だった。標高約2800メートル。外は寒く、野宿は無理。いやそんなことをしたら公安に捕まる。悩んでいると、このフロントの女性が笑顔をつくる。キャンセルがひとつ出た。ギリギリセーフの宿泊でした。(写真撮影=中田浩資)

中田 そもそも中国って外国人に厳しくて、外国人が泊まれる宿はその地域には2軒しかなかったんです。

阿部 うん。

下川 中国の宿泊施設は事前に国に届け出をしていないと、外国人を泊められないという決まりがあるんだよね。

中田 夜になるとマイナス20度まで下がるような場所で2軒とも断られたのに、ぜんぜん焦っているように見えないんです。下川さんは。

――実際のところ、焦っていなかったんですか?

下川 まぁ、50歳過ぎたころから大概のことはなんとかなる気がしていて……。

中田 「ちょっとおいしい」みたいな顔してるんですよ!  僕、中国語しゃべれるんですけど、結構ねばったのにそれでもダメで。「ロビーでもいいから!」と必死にお願いしていたのに下川さんは横で涼しい顔をしていて。

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下川 そうだったかな……。

中田 結局、運良く一室空きが出てそこに泊まれたから良かったものの、ダメだったら大変でしたよ〜。

下川 まぁ、バックパッカーの旅って基本的に予約しないからね。今はホテルも航空券もネットで事前予約ができるようになって便利だけど、予約すると絶対にその日、その時間に到着しなきゃいけなくなるから、なんだかせわしない気分になって嫌だし。

阿部 それは確かにそうですけど。

下川 なにより、海外の交通網って遅延するのが当たり前だから、たどり着けないことの方が多い。となると、やっぱり予約はしないよね。行けばだいたい何とかなるし。

中田 下川さんだから何とかなってるだけですよ……。

仕事道具のノートを忘れるのは、もはやお約束

バックパッカー歴30年、旅行作家・下川裕治インタビュー#02 相棒も共感できない特殊能力や癖とは?

この日はノートを持参。「今日はいりませんよ~」と心の声。挟んであった葉っぱは、ニューヨークのワールドトレードセンター近くで拾って、記念に持っているのだそう

中田 あと、さすが下川さんだなと思うのが、ノートを持ってくるのを忘れること!

阿部 あっ(笑)! ありますね。

中田 日本に戻ったら旅の様子を記事にしなきゃいけないし、ゆくゆくは書籍にもまとめなきゃいけない。それなのに、記録するためのノートを持ってこないってどういうことなのかと!

下川 ペンは忘れないんだけどね。

中田 いや、ノートも忘れないでくださいよ! 僕ら基本的に現地集合なんですが、旅の始まりはだいたい下川さんの「ちょっとノートないから買ってくるわ」なんです。

阿部 でもノートなんてそもそも売ってない国も多いよね。

中田 僕、下川さんがジャカルタで子どもの塗り絵帳みたいなものに取材した内容をメモしているのを見たことがあって。

下川 あれは普通のノートが売ってなかったから、仕方なく。さすがにちょっと書き込みにくかったよ。

中田 そりゃそうですよ、塗り絵用のイラストが描いてあるんですから!

阿部 なんで忘れちゃうんでしょうねぇ。

下川 僕、記事を書くときにそもそも取材メモをほとんど見返さないんだよね。

――えっ!

下川 細かい数字とかそういうのは確認するけど。だいたい、自分の記憶だけを頼りに一気に書いた方がおもしろく書ける。いちいちメモを見返して書いたやつって、あんまりおもしろくないんです。

中田 取材ノートを飛行機のポケットに置き忘れてきたこともありましたよね?

下川 そうね。結局そのノート、手元に帰ってこなかった。

中田 それでもさらっと原稿が書けちゃうからすごい。

下川 いや、書かないといけないから書いただけ。

阿部 そういえば下川さんには書き手として、ほかにもすばらしい特殊能力がありますよね。ほら、あの突然目を覚ますやつ……。

中田 あっ、あれですよね! さっきまで寝ていたのに、おいしいことが起きそうな直前には絶対に目を覚ますという……。

阿部 そう。僕らはずっと何か撮影できるものはないかって起きているのに、下川さんはパッと起きておいしいところを持っていく。

中田 僕も、ムクッと起きた下川さんにいきなり「中田くん、ラクダだよ」と言われたことがあります。一緒に旅をして驚いたんですが、下川さんは本当によく寝ますよね。

下川 だってシベリア鉄道なんかどこまで行ってもかわりばえしない雪景色。飽きますよ。日本にいて5時間も乗り物に乗ると長いなって思うかもしれないけど、シベリア鉄道は7日間くらい平気で乗りっぱなしだもんね。

中田 そうですけど、仕事で行っている以上なかなか眠れませんよね。狭い座席では眠りにくいっていうのもあるけど、見逃したくなくて。

下川 眠るのが好きなんだよね。旅に出た方が僕は睡眠時間が長い。狭い場所の方がよく眠れるし。

阿部 うらやましいです、下川さんは時差ボケもぜんぜんしないし。

下川 まぁ、ずっと寝てるからね。

旅の上級者のはずなのに、年に一回は必ずロストバゲージ!

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【「座ったままで4泊5日 世界の長距離列車・カナダ大陸横断鉄道編(1)」より】。バンクーバーに着き、市内に向かう電車に乗る。荷物はこれだけ? そうなんです。ロサンゼルスからバンクーバーまで乗ったのはユナイテッド航空。ロサンゼルスで預けた荷物は出てこなかった。翌日からカナディアン号に乗り、その荷物を受けとったのはトロント。それまでこの格好のままという、トホホ。(写真=阿部稔哉)

 中田 でも、下川さんって唯一残念なことがありますよね。

下川 ?

中田 ロストバゲージですよ。

阿部 ロストバゲージ! 確かに、よくしてますね。

下川 年に1回くらいね。

――それって、多いんですか? 一年の3分の1以上海外に旅行している割には、少ないような気もするんですけど……。

中田 いやいや、すごく多いですよ! 僕も仕事で年間100日くらい海外に行きますが、1回しかない。

阿部 僕も人生で1度だけ。多いですよ、年に1回は。しかも僕らの旅はすぐに移動、移動でしょ?

――空港で荷物を待たないんですか?

下川 待たない。旅費を節約するには、宿に泊まらないで済むようにすぐに次の乗り物に乗ってしまう、が鉄則ですから。

阿部 だから荷物が下川さんに追いつけない。

下川 3日間同じ服を着ていたこともありましたね。

――そんなときでも、下川さんは動じないんですか?

阿部 ……の、ように見えます。

中田 見えます。

下川 そんなことないです。いやですよ、ロストバゲージ。荷物がないと不便だし、自分の荷物がレーンに出てこないと、「またか……」ってがっかりする。1度、ロストバゲージになる決定的な瞬間を見たことがあって。

――ロストバゲージの決定的な瞬間?

下川 ロサンゼルスからバンクーバー行きに乗ったときです。その飛行機はサンフランシスコで乗り換えだったんですが、自分の荷物が乗り換えた飛行機に乗せてもらえない様子を目撃したんです。バーコードに反応しなくて、1度ベルトコンベヤーから降ろされて、もう一回バーコードをチェックされて、それにも反応してなくて。「これはまずいぞ」と思っていたら、案の定……。

――えー! そんなとき、何を思うんですか?

下川 「あー、またロストバゲージか」って。その後はずーっと電話で交渉。荷物はあったんだけど、僕が列車に乗っていてどこへ届けてもらうかという話になって。だから旅の終着点のトロントまで送ってもらいました。

――荷物が下川さんを待ってるみたいな。

下川 もっと大きいバッグにしたらいいのかな。目立つように。

――機内に持ち込める量にしたらどうでしょう。

下川 そうね、そうできたらいいんだろうけどね。仕事用の荷物はなかなか減らせない。

中田 それなのに、ノートは忘れちゃうから不思議です(笑)。下川さんは、飛行機関係のトラブルはものすごく多い人かもしれない。

――ロストバゲージ以外にもあるんですか?

中田 中国のウイグル自治区から四川省までの飛行機の席に空きがなかったことがあって。

下川  天候不良のせいでね。

中田 でも下川さんは乗り継ぎの関係でどうしてもその日のうちに四川省に行く必要があったから、唯一空いていたファーストクラスのチケットを買うはめになってしまって。3時間ぐらいの距離で12万円ですよ!

――12万円……! 乗り心地はどうでした?

下川 あんな上品な中国料理を食べたのは初めてでした。

バックパッカー歴30年、旅行作家・下川裕治インタビュー#02 相棒も共感できない特殊能力や癖とは?

中田 そのときの旅、全行程で1人10万円で収まったのに、下川さんだけプラスファーストクラス代12万円。

下川 空港ってつらい思い出が多いんだよね。過去、「帰りの航空券がない人は乗れません」とか言われてチェックインができないことも何度もあったし。だから、今でも空港は不安になる場所です。

第3回に続きます)

バックパッカー歴30年、旅行作家・下川裕治インタビュー#02 相棒も共感できない特殊能力や癖とは?

撮影:高嶋佳代 ライター:渡部麻衣子

■取材協力

東武ワールドスクウェア

TEL:0288-77-1055(予約センター)

住所:栃木県日光市鬼怒川温泉大原209-1

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